31、桃の実家
「はぁー空気が美味しい気がする!運転ありがとう、壮真。」
「ああ、気にするな。お前の家大きいんだな。」
「まあ田舎だから。土地が安いんだよ。」
壮真の運転で無事に実家に着いた。もう夕方だ、壮真は少し緊張しているご様子。
「いい?入るよ?」
「ああ、問題ない。」
久しぶりに実家の鍵を使う、そんな事も感動してしまう程ホームシックだったのかも?
「ただいまー!桃が帰ってきたよー。」
お父さんお母さんがゆっくり出迎えてくれる
「おかえりー桃ちゃん、やっと帰ってきてくれたのね。」
お母さんは少し涙ぐみながら私を抱きしめてくれる。お父さんは壮真を見ている。特段、怒った様子もない。壮真は熊のような父に見られていてもあまり動じていない。
「それでこちらの男の子は誰なの?」
「申し遅れましてすみません。桃さんとお付き合いさせていただいております。柴田壮真と申します。同じ大学の1つ上の学年で看護学部に通っています。」
「まあご丁寧にどうも。」
壮真はいつ買ったのか、東京のお土産をお母さんに渡している。
「私は桃の父だ。君の事を詳しく聞きたい。」
ああ、よかったお父さんは怒っていない。仏頂面だけど結構、壮真を気に入ったかもしれない。
「はい。私もお話をする為に今回、桃さんの帰省についてきた次第です。」
壮真はそれを知ってか知らずか落ち着いて話をしている。お父さんは熊のように体が大きく顔も怖いし声も低いのでいつも怖がられるのだけど壮真は落ち着いている。
「さあ立ち話もなんだから入って。」
「お邪魔します。」
居間に行くとなんだかいい匂いする。
「そうそう、少し早いけど夜ご飯準備をしてあるのよ。今日はチキン南蛮にしたの。桃好きでしょ!勿論、壮真君もたくさん食べてね!」
「大好き!やったー。壮真、お母さんのご飯本当に美味しいからたくさん食べなよ!」
「ありがとうございます。いただきます。」
「壮真君お酒は飲むかな?この家で飲むのは私だけなんだよ。よければ少し飲まないかい?」
「ええ、ぜひ。」
「まあ、ダメよ無理強いしちゃ!」
「いえ、たまに飲みます。だから少しだけ飲ませてください。」
「壮真君!」
お父さんは目をキラキラさせて喜んでいる。壮真は優しいし無表情だけど熱い男だしお父さんは好きだろうな。
ご飯を食べ終えても、ずっと壮真とお父さんはお酒を飲みながら話し込んでいる。お父さんはアルバムを引っ張り出し私の可愛さや失敗談とか、学校での出来事とか私がやめてと言っても話している。壮真は嬉しそうに話を聞きながら、私の大学での様子や可愛さ等を私を目の前にして話している。そこに片付けを終えたお母さんも混じり盛り上がって、終いには結婚を認めようとお父さんが言い出し、お母さんはうんうんと頷いている。
「もう!私の話を聞いてよ!」
と言ってもみんな笑顔でこっち来なよ、みたいな顔をするだけでやめてくれない。でも、まあいいか皆、楽しそうだし、こんなのマリアの両親じゃ考えられない。あの人達は私が決めた事を肯定する事なんて1度もなかった。金と権力の為に私を売るような人だった。だからエイクとは幸せになれなかった。私はエイクを愛していたのに。こんな気持ちを抱えたままで私はダニエルと結婚できない。
「桃!大丈夫か?なんだかぼーっとしてたぞ。」
いつの間にか壮真が私の隣に座っていた。
「今、一瞬マリアだった。」
「えっ。とにかく今は桃の実家に居るんだ。あまり前世の事を考えずにゆっくりさせて貰えよ。」
「うん、ありがとう。」
お父さんは飲んで寝てしまって、お母さんは壮真の布団を和室に敷いているらしい。で壮真はお母さんにお風呂に入ってと言われて行こうかと思った時、ぼーっとしてる私が目に入ったようだ。
「壮真、私。」
「なんだ?」
「壮真は私の事好き?」
「ああ。」
ブレスレットの反応はない。よかった、試した私はずるい女だ。
「私も好きだから。だから前みたいに誰かに反対されたくない。」
「ああ、だから俺の実家でも頑張ってくれたんだろう。俺もお前の両親にありのまま気に入って貰えるように頑張るよ。」
「大丈夫。お父さんとお母さんは気に入ってるよ。」
「そうか、よかったよ。さあお風呂頂こうかな。」
「一緒に入ろう。」
「やだよ。大人しくしてろ。」
「えーやだやだ。」
「じゃあな桃。」
壮真は駄々をこねる私の頭をぽんぽんとして行ってしまった。
「あーあ、一緒に入りたかったな。」
小さく呟くような一人言が部屋に消えていった。




