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30、海


朝1番の海は人があまりおらず遊ぶのには最適だった。水着に着替えて海の家の外に出るともうミカちゃんと瀬良君は海で遊んでいる。なんだかあの2人お似合いだな。英子ちゃんと佐藤さんは開店し始めた海の近くのお店で焼きハマグリとかホタテバターとかを食べている。


「えっいきなり何事。」


皆の事を見ていると顔に何かをぶつけられる。男物のラッシュガード?


「桃、それ着ろよ。」


「え今出てきたんだよ。まだ着て5分も経ってない。なに太いから見苦しいって?」


「だから太ってないから。なんでお前はビキニなんだよ。胸を見られたいのか!」


「だって売り場のお姉さんが彼氏を落とすならこれって言うから!布面積の少ない黒いビキニがいいって。肌が白いから最高にエ。」


壮真に口を塞がれもう片方の手で器用にラッシュガードを着せられる。


「もういい。もう俺は見たから他の奴には見せなくていい。」


「見てないよ!後ろは?後ろも可愛いんだよ。なんかお尻の形が。」


また口を塞がれる。水着を着て外に出て1分経たずで隠される。この水着を買った意味とは?


「分かった。もういい。これを着て大人しく俺のそばにいろ。絶対に離れるな。今はイベント過多なのを忘れたのか!」


「でも、壮真に見て欲しくて!英子ちゃんとお姉さんに選んで貰ったんだよ!」


「分かった、じゃあこっちに来い。」


怖い、壮真は睨みながら言い放ち、連れて行かれたのは誰もいない浜辺の1番端の廃墟のような小屋の裏だった。


「ほらじゃあ脱いで見せてみろ。」


「えっあっうん。」


壮真が手を離してくれたのでラッシュガードを脱ぐ。


「可愛いな。もっと近くで見せてくれ。」


腕をつかまれ岩に座っている壮真の前に立たされる。


「確かにいつもは服を着ている部分は白いな。胸のところの水着は布が少ないな。すぐにめくれそうだな。」


なんだか怒っている?触れられそうな近さで体を見られている恥ずかしさに身をよじると腕をつかまれ前を向かされる。ああ。からかうんじゃなかった。


「見て欲しかったんだろ。動くなよ。ここも可愛い。水着の内側はこうなっているのか。ここ触った事はあったけど見たのは初めてだ可愛い。ああごめんごめん水着の中じゃなくて水着を見ないとな。売り場の人になんて言われたんだっけ?」


「ぬっ布面積が少なくて、肌が白いから最高にエロいって。彼氏を落とすならこれだって。」


「ああそうだな。言う通りになった。まだ続けた方がいいか?それとも大人しく俺のそばにいるか?」


「そばにいます。」


「よしじゃあ上を着ろ脱ぐなよ。」


「分かりもうした。」


そしてまた壮真に連れられて海の家の近くに戻った。もう絶対に壮真を怒らせない。これだけは守ろう。


「さあ桃何する?海で遊ぶか?それとも何か食う?」


「あのー緊張で喉が渇いております故。」


「分かった。じゃあ飲み物を買って来よう。あっちは人が多いからここから絶対に動くなよ。」


「はひ。」


怖い。なんというか怖い。寒気がする程怖い。


「お姉さん、可愛いね!そんなの脱いじゃいなよ海だよ!遊ぼ俺たちと!」


何故こんなすぐに巻き込まれるのか。3人の同い年くらいの男達に囲まれてしまう。何故?マリアと比べたら顔も普通だしぽっちゃり系だし何?怖い。腕をつかまれたので振り払う。


「やめてください。行きません!彼氏と来てます!」


「ええー1人じゃん寂しいでしょ。大丈夫俺たち優しいからね。可愛いその下も見せてよー!」


もうしつこい、次腕をつかまれたら折ってやる。


「だってお姉さんあんなやらしい水着着て誘ってるんでしょう。さっき見たよ。遊んであげるって!」


「立ち去らないなら、ぶん殴る。」


腕をつかまれてラッシュガードを脱がそうとするので馬鹿3人に言い放った時、助けが来た。


「ここにいたの、行くよ竹中さん。」


助けに来てくれたのは瀬良君だった。ミカちゃんは浜辺からウィンクしている。


「あっれー瀬良君じゃん!まだ女しか友達いないの?マリアは見つかったの?」


馬鹿3人は一瞬私の発言に顔が引きつったのに、瀬良君を見た途端、なんだか自信を取り戻したような表情になる。


「え、高橋、知り合いなの?」


「ああ、こいつ中学一緒だったんだけど入学した時から手当り次第に女に話しかけて君は前世を信じる?とかマリアかい?とか言ってたんだぜ。女子もさ顔が良いからっていつもこいつにくっ付いてさぁ。厨二病かよって感じ。」


「ええー変な奴。きっしょいな。そんな奴無視して遊ぼうぜ。竹中さん!」


「黙って聞いてりゃ、そんな過去の話をぺちゃくちゃ嬉しそうに話してんじゃねーよ。何にも知らねー他人が面白おかしく瀬良君の気持ちも考えずに話しやがって消えろ!」


この場で瀬良君よりも優位にたとうとしてそんな中学の話をするなんて、理由が腹立たしい。


「竹中さんって元ヤンなの?」


今言いたい事がそれというのも瀬良君は変わっている気がする。


「桃、どうしたんだ。瀬良もどうした?」


出た。この中では顔も中身も1番いい男が帰ってきた。


「ああー壮真せんぱーい、遅いですぅ!いまぁ怖いお兄さん達にからまれててぇ桃こわぁーい。1人にしないってゆったじゃないですかぁ!彼氏失格ですぅぅぅ。」


私にできる最上級の可愛いぶりっ子を演じ壮真に抱き着いた。壮真は満面の笑みで私を抱き締め自分の後ろに私を隠した。瀬良君は付き合いきれないといった感じでこの場を観察している。


「えっお姉さん二重人格なの?」


ナンパ男達は口々に何か文句を言っているがそんな話を無視して、壮真は絡んできた男達を睨んでいる。


「瀬良こいつら知り合いか?」


壮真は睨みながら瀬良君に問いかけた。


「いいえ、知らない。」


「そうかじゃあ戻ろう。浅田が飯を食おうって言ってたぞ。もう用はないな。瀬良とは友達だしこいつは俺の彼女だ。消えないなら、俺と俺の彼女が相手になってやる。」


「はい。すいませんした。」


私と壮真に睨まれ3人組は立ち去った。壮真話を聞いていたのか。やっぱり良い奴だ。海の家に移動し皆で早めの昼ごはんを食べる事になった。

英子ちゃんと佐藤さんはなんだかたくさん食べていたのにまだカレーとラーメンとイカ焼きを2人仲良く食べている。私と壮真はカレーにして、ミカちゃんはおしゃれなパンケーキを瀬良君に奢って貰ったようだ。瀬良君はコーヒーを飲んでいるだけで何も食べていない。さっきの事を気にしているようだ。1人離れてコーヒーを飲んでいるので気になり話しかける。


「大丈夫?さっきの気にしているの?」


「ああ竹中さん。さっきはありがとう。大丈夫だよこうなるって分かってたし。地元だからね。」


「そっかあいつら殴ってやればよかったね。」


「いいんだよ僕が変な事をしてたから、彼らは悪くない。」


久しぶりにブレスレットが反応した。悪くないとは思っていない。そりゃそうだ彼らは悪いし。


「そっか大人だね。私にできる事があったら言ってね。協力するから。」


「ありがとう。いい友達をもって幸せだよ。」


今度は強くブレスレット反応する。ぶわっと鳥肌が立つ。逃げよう。ありがとうも友達も幸せも全て嘘だ。


「そっかよかった。私カレー食べに戻るね!」


「えっああうん。」


ダメだ瀬良君は置いていこう。なんださっきの強い悪意は。早く戻ろう壮真の元へ。


「桃どうした?瀬良は大丈夫だったのか?」


「うん、大丈夫。」


「おい、なんで嘘つくんだ?」


壮真が小声で問いかける。私が嘘をつく時の癖を見抜いたようだ。言えない、嘘がわかるという説明もできないし。私は無言でカレー食べ続けた。瀬良君はやっぱり気を付けた方がいい。壮真に言った事も嘘だ。このバイトに誘ったのも友達だからじゃない。何か他の理由があってこのメンバーを集めたのだろう。桃考えろ。

まさか、私か英子ちゃんがマリアだと考えている?そうだとしたらどうしよう。とにかく今日はもう解散して実家に帰る。早く食べてしまおう。


「ごちそうさまでした。ごめん私実家に帰るから先に出るね!」


「分かったじゃあ俺も急ぐよ。」


壮真は何も言わなくても話を合わせてくれる。


「そっかぁじゃあ次は学校でかな?」


「うんそうだね。じゃあみんなありがとうまたね!」


「桃ちゃん、壮真さんまた!」


バスがすぐに来たので駅前へ行き、壮真が駅でレンタカーを借りてくれた。今日はすいているので2時間強で着くだろう。


「桃、落ち着いたか?」


「うんありがとう。海に入らなくてよかった。服をそのまま着れたし。」


「何を急いでいたんだ?」


「あのね、多分なんだけどなんとなくなんだけど。」


「何だよ言えよ。」


「瀬良君は私か英子ちゃんをマリアだと考えていると思う。」


「おい本当か?どうして?」


「あのバイト、友達だから私達を誘ったんじゃないと思う。ああいう同級生に会うと分かっていて、マリアを探していたという話を聞いてどういう反応を示すか観察してたのかも。その為に地元へこさせた。」


「おい、その事で瀬良になんか言ったか?」


「言ってない。とにかく2学期は気を付けないと。」


「ああ、俺2学期はあんまり授業を入れてないんだ。元々1年で頑張ってたくさん単位を取ったから。後は2年で取らなくちゃいけないのだけだからそんなにない。だからなるべくそばに居るよ。」


「ありがとう。とにかく今は実家に帰る事に集中しよう。」


「ああ、そうだな。」


瀬良君はやっぱり要注意だ。


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