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28、バイトと肝試し


このバイト意外ときついぞまだ始まって2時間だけど、英子ちゃんはもう座って水を飲んでいるし、せっかくの仕事の夏休みだというのに英子ちゃんの彼氏の佐藤さんは英子ちゃんを団扇であおいでいる。ちなみに佐藤さんはバイトはしていない。

壮真と私は熱中症対策をできるだけしてきたので炎天下の梱包作業を続けられているけど汗をかきつづけている。

そんな私たちと違って瀬良君と瀬良君の従姉妹の女子高生のミカちゃんは汗をそれ程かかずにせっせとスイカを包んでいる。


「さー皆頑張って!」


瀬良君はなんだか大学にいるより明るく元気だ。


「海斗君皆、しんどそうだよ。頑張れないよ。」


ミカちゃんは冷静に作業を続けながら瀬良君にツッコミを入れている。


「大丈夫。竹中さんと壮真さんは結構できてるね!浅田さんは全然ダメだね。」


「瀬良君、私か弱いの分かる?」


英子ちゃんは珍しく眼鏡を外して作業を再開している。今日はコンタクトのようだ。瀬良君に悪態つく程に元気はあるようだ。


「頑張ったら美味しいプリンが待ってるよ!頑張って!」


「海斗君って本当に昔から好きだよね。昔の彼女にバレンタインでプリンをリクエストする位だもんね。」


アランっぽい。


「ミカ!変な事ばらさないで!」


「ハイハイ。海斗君今日の分もう終わるよ。」


「ああ、じゃあオクラも梱包してもらおう。それで父さんが言ってた仕事は終わりだし。」


「オクラは数が少ないから1時間位で終わるんじゃない?」


「ああ、でもいつもの倍はあるぞ。」


「うわー。」


話を終えた瀬良君とミカちゃんは作業の手がスピードアップしている。

それからまた2時間包み続けていると、瀬良君のお母さんがよく冷えたスイカを切ってくれてちょっと休憩しましょとご馳走してくれた。

休憩後、やっとの思いで全ての作業終えたのは夕方だった。


「明日はもっと早く終わるよ。少しだけ減るから。」


瀬良君は涼しい顔でそう言い放った。英子ちゃんには届いていないが。英子ちゃんはクーラーの前でずっと風に当たっている。


「大丈夫?」


「桃ちゃん私あのスイカがなかったら倒れてたかも。」


「えぇっ良かったよ。明日頑張れそう?」


「うん。大丈夫頑張るよ。」


佐藤さんはずっと英子ちゃんを気遣いながらあおいでいる。ふと目の端に瀬良君と壮真が話しているのが見えた。


バイト日程は少し減って残り3日で最後の日に、瀬良君が海に連れて行ってくれるらしい。


「桃ちゃん、今日の肝試し絶対に来てね。」


「えっ英子ちゃんそんな事計画してたの?」


「発案はミカちゃんだよ。瀬良君って怖いのだめなんだって。ちょっと見てみたくない?」


「えーそんな事言って!」


「ごめんごめん。でも皆、参加するって。」


「じゃあ行こう。」


「うん。舞台は廃校。だからね。」


英子ちゃんは楽しそうに話している。何も起きなきゃいいけど。



「いやー!きゃー!なんか動いたー!」


瀬良君のお家で美味しい夜ご飯とプリンをいただいた後、肝試しに皆で廃校に来たのだが、1番怖がっているのは英子ちゃんだ。何か音がするだけでこれなのだから。そんな英子ちゃんを支えて1番前を軽い足取りで歩いているのは佐藤さんだ。ひょろっとしているのに英子ちゃんから体当たりをされても動じない。正直、古い学校の廊下というだけだ。


「英ちゃん大丈夫幽霊も英ちゃんが怖いんだよ!っつ!」


佐藤さんはたまに軽口を言って英子ちゃんに手をつねられている。ああやって怖さを紛らわせてあげてるのかも。ちなみに瀬良君も声も出さずに怯えている。ミカちゃんを盾にして手を握って歩いている。ミカちゃんは瀬良君が好きなのか満更でもなさそうだ。そういえばアランも暗がりが嫌いだった。


「海斗君何か奢ってよね。こんな可愛い女子高生にエスコートしてもらってるんだから。」


「分かった。分かったから手を離さないでくれ。」


壮真は眠そうに目をこすって歩いている。正直、私も早く眠りたい。しっかり働いたしね。あくびをしていると英子ちゃんが何かを見つけて英子ちゃんと瀬良君が走り出し自動的に佐藤さんとミカちゃんはついて行く形になり4人は走って行ってしまった。


「きゃー!幽霊だー!いーやー!」


という英子ちゃんの声は廊下中に鳴り響いている。私と壮真は1番後ろだったので置いてきぼりだ。ちょうどいい聞きたい事があったし。歩きながら壮真に話しかける。


「ねえ壮真さっき瀬良君と何話してたの?」


「お前全然怖くないのな。なんで俺と桃、浅田とその彼氏を誘ったのか不思議だったんだ。」


「ああ確かに。何て言ってた?」


「他に友達ができなかったんだと。なんか人見知りらしくて困ってる桃に話しかけるのもとんでもなく緊張したんだってさ。だから学部の友達はお前と浅田なんだと。」


「そうなんだ。普通に学部の人と話してるの見た事あるけどなぁ。でも確かに割と1人でいるかも。」


「まあ、友達の定義は人それぞれだから。」


「そうだね、それに友達って言われるのは悪い気がしないし。」


「ていうかここ多分廃校じゃないよな。」


「うん、だって上靴とかカバンとか置いてあるし。」


「なー瀬良とミカちゃんは分かってるよなー。」


「だろうね、そろそろ戻ろうか。何も無いし。」


「ああ、そうだな。」



学校から出ると英子ちゃんは信じられないという様子で待ってくれていた。他の皆は何やら笑顔で待っている。


「桃ちゃんと壮真さん!怖くないの?女の子が立ってたでしょ!」


「えー何もいなかったけどなー。」


壮真は黙って頷く。瀬良君が口を開く。


「浅田さんここは本当は廃校じゃないんだよ。」


「そうなんですよ、すみません浅田さん。」


ミカちゃんが申し訳なさそうに話す。


「どっちでもいいよ!」


英子ちゃんは恐怖で動けないようだ。瀬良君の家に帰るのも道が暗いからね。仕方ない。


「えっ英子ちゃん。う、うしろ……。」


そして私は壮真の手を引いて走り出した。英子ちゃんには悪いが瀬良君の家まで競争だ。

バイト1日目の夜はとても楽しく更けていった。



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