10、誕生日
8時に起きて朝食を食べて勉強を始めた。アンちゃんはまだ寝ている。EDMをイヤフォンで聴きながら勉強した。11時30分に早めに軽い昼食をと思ってゼリーを食べた。アンちゃんはガッツリラーメンを食べている。次はピアノが聴きたくてピアノメドレーを聴きながら勉強を始めた。14時にお風呂に入って化粧をして、白の小花柄のTシャツに濃紺のボーイフレンドデニム、後は買ったばかりの黒の大きめのパーカーを着て髪の毛を低めの位置でポニーテールに、そんな事をしているともう17時になっていた。17時45分にはエントランスで待っていた。アンちゃんに送り出されて今なぜかサラリーマンと仲良く話している。きっかけは些細な事だった。帰ってきたサラリーマンが落としたハンカチを拾ってあげただけなのだけど、話がはずんだ。
「ハンカチありがとう。あのさあそこの○○大学の学生さんかな?」
「そうですけど。」
「ごめんね気持ち悪いよね。僕もあの大学だったんだ。それで大学生の時から今もここに住んでて同じかなって思って。まだ◇◇先生っている?」
「居ます!あの少しぼそぼそ話される。」
「そう!授業が進む度に酷くなるんだよ。僕ゼミあの先生でさ。どうしても卒論的にあの先生だったんだけど。1対1だと話し方普通なの。おかしくない?」
「1度質問しに行ったらそういえば普通でした。あの先生分かりやすいですよね。」
「うんいい先生だよ。僕、真部敦。君は?」
「竹中桃です。」
「そっか竹中さんね。ごめんね急に話しかけて。でも君を見て大学生の時を思い出したんだ。若かったなぁ楽しかったなぁってごめんね今仕事がとっても大変で。昔は良かったと思い出したら終わりだって言われてたのに。でもありがとう楽しかったよ、ちょっと若返った気がする。」
「いえいえ。お疲れ様です。」
「ありがとう。また会ったら話そうね。じゃあ本当にありがとう竹中さん。」
「ええ、真部さん。」
そう言ってサラリーマンは帰って行った。エレベーターが4階で止まったので同じ階だ。そのエレベーターが次は3階で止まってそのまま1階まで降りてきた。エレベーターから出てきたのは壮真だった。今日はジャージじゃなくてデニムにリネン生地っぽい水色のYシャツを着ている。
「ごめん!待たせて。」
そういえばサラリーマンと話していて気付かなかったがもう18時20分だ。
「ううん。大丈夫。」
「本当にごめん!思いの外、用事に時間がかかって。じゃあ行こうか。」
「うん。」
「そうだ友達から車借りて来たから車で行こう。俺運転するよ。車だと10分位かな。」
「うん。ありがとうお願いします。」
初めてお父さんじゃない人が運転する車に乗ってドキドキしていたけど壮真は運転が穏やかで上手だった。言った通り中華屋さんにはすぐに着いた。久しぶりだー何を食べよう?大丈夫お金は持ってきたし。壮真も半分は出してくれるでしょ。ふっふっふっ何にしよう。
「おい何笑ってるんだ入るぞ。」
「うん!」
店内は結構広くて、店員さんに席に案内されて窓側の席に座った。リュックをおろしてパーカーを脱ぐ。壮真がメニューを渡してくれるので受け取ってメニューを見る。やっぱり田舎程安くはないけど都会にしては安い。うーん何にしよう。唐揚げと北京ダックは絶対に頼む。
「壮真、私唐揚げと北京ダックは絶対に頼みたい。」
「ああいいよ。俺はエビマヨと春巻き。」
「うわー食べたい!後はご飯!」
「ああじゃあ頼むよ。すみません!」
壮真が頼んでくれている間にデザートをチェックする。杏仁豆腐に胡麻団子ああどれにしよう。
「あのさお前、いや何でもない。」
「ん?そう今デザート決めてるから!」
「お前食うの好きなの?」
「うん大好き!新しいもの美味しいものを食べる事が好き。」
「そっか。じゃあまたどこかに行こう。」
「うん!」
「お待たせ致しました。北京ダックとエビマヨです。ご飯もお持ちしますね。残りの料理もすぐにきますので。」
「はい、ありがとうございます。美味しそうねえ食べよう!」
「ああ、食おう。」
それから残りの料理もきて無言で食べていた。1人前でもしっかり量がありお腹がいっぱいになるまで夢中で食べていた。結局、杏仁豆腐を食べて温かいお茶を飲んでほっとしていると壮真がやっと口を開いた。
「美味しかったな。」
「うん最高だった。」
「そうかじゃあそろそろ行こうか。」
「うん。」
「今日は俺が出すよ。」
「結構です。割り勘しかありえないです。まず私達は付き合っていません。友達です。それに2人共学生でそんなにお金もないはずです。よって割り勘です。」
「いやでも今日は。」
「割り勘です。また連れて行って欲しいの。だって連れて行くのにお金が無いと連れて行けないって思うでしょ?私また行きたいの。お願い。」
「分かった。じゃあ割り勘だ。」
そして会計を済ませ、お腹いっぱいになってほくほくの私達は車に乗り込んだ。
「あのさもうちょっとだけいいか1時間だけ。」
「うん。大丈夫だよ。まだ20時前だし。」
「よしじゃあ行こうか。」
という流れで連れて来られたのは夜景と星が見える公園だった。えっおしゃれ過ぎないどうしたの?
「あのさ桃って今日誕生日だろう?」
「えっなんで知ってるの?」
「連絡先を交換しただろアドレスに0601って入ってたから。もしかしたらって。それでこれやるよ。」
「えっありがとう。」
壮真がくれたのは青いキラキラの包装紙に包まれた手のひらサイズの箱だった。
「開けてもいい?」
「ああ。」
箱の中身は桃の形のガラスのストラップだった。ハート形だけど葉っぱが付いているので桃のようだ。可愛い。
「可愛い。嬉しい初めて男の子からプレゼントをもらった。スマホに付けるね!」
「良かった。気持ち悪がられるかなって思ったけど1人暮らしだと誰からも祝われないだろ。寂しいかなって思ったんだよ。今まで家族にケーキ買ってもらったりとかさ、急に無しだもんな。」
うん。だから今日ご飯に行きたかったんだよ。もしかして分かってたのかな。壮真は本当に優しい。誕生日だと知らなくてもいいと思っていたのに。
「ありがとう。」
「お前泣いてるのか?寂しかったんだな。家族と別れてまだ2ヶ月位だもんな。入学してから会ってないのか?」
「うん会えてないの。寂しいよーホームシックだよー。」
「頑張れ慣れたら1人暮らしは最高だからな。」
「うん。頑張る。」
「さあ帰ろうか。」
「うん。今日はありがとう。」
「ははっ可愛い彼女の為だからな。」
今まで見た中で1番いい笑顔。ああどうしよう落ちてしまいそう。この感情を知っている。壮真には抱いてはいけない気がする。でも口にしてしまうと明確にしてしまうともっとだめな気がする。帰ろう今日は帰ろう。
「桃、さあ着いたぞ俺は車返して来るから早く部屋に帰れよ。」
「ガソリン代出すよ!」
「それは俺に出させてくれ。じゃあおやすみ。」
そう言って行ってしまった。車が見えなくなるまで私はそこに立っていた。