第5話 ゴールから逆算する
――こうやって、
僕がこれまで
イジメについて調べたことを、
広遠さんに説明した。
「イジメはあるけど、イジメではない。
これがイジメの正体なんです。
イジメは、
イジメではないように
偽装して行われるから、
外からはイジメに見えないし、
イジメじゃないことにしてしまえるんです。
イジメがあることを証明するのは、
難しいことなんですよ……!」
「つまり、
イジメとは騙し絵のように、
イジメでないように
見えるようにして行われている、
ということだね」
「そうです。
イジメが見えないのに、
もし僕が『強力行使』をしたら、
世間の人たちは、
やむを得ない理由があったことを
分かってくれるでしょうか?
分からなければ、
僕が悪者になるでしょう」
「それはそうだ。
イジメかどうか分からないのに
『強力行使』をやれば、
単なる犯罪か、
倉打君のほうが
いじめっ子だということになる」
「でしょう。
だから、
『強力行使』なんて、
実際のイジメには
物の役に立たない
解決方法なんですよ……!」
「『強力行使』は、
真っ直ぐにやってしまうと、
自分が刑務所に行く諸刃の剣だ。
イジメを解決するということは、
ただイジメを終わらせるだけではなく、
その後も、
元の平穏な生活に戻らなければ、
本当に解決したことにはならない」
「……そうですよ……!」
「『強力行使』を用いた上で、
そうなるためには、
『強力行使』以外には
解決する方法がなかったと、
誰が見ても分かる状態に
持っていかねばならない。
そう持って行くためには、
一見、
遠回りの道を進んでいるようで、
一番の近道になるという
手順でやるんだ。
詰め将棋を解くみたいにね」
「……そんなことが
できるでしょうか……?!」
「誰にでもできる。
そのためには、
『強力行使』をやる前に、
絶対にそろえなければいけない、
2つの条件がある。
先にこの条件を、
1つ1つ順番にそろえなければ、
『強力行使』をしてはいけない」
「……2つの条件って……?」
「まず1つめの条件は、
『相手が
自分にイジメをしてくる事実があって、
それをやめない意思を確認したこと』
だ」
「…………」
「2つめの条件は、
『教師に、
イジメをやめさせてもらうように頼んだが、
それでも
やめさせることができなかったという
事実があること』
だ」
「…………」
「この2つの条件を
間違いなく満たせていれば、
『強力行使』を使っても、
本物の解決ができることになる」
「……どうして条件は、
たった2つだけでいいのですか……?」
「それは、
イジメを解決する方法が
『強力行使』しかないと言ったのは、
自分の力で解決することが、
一番確実で信用がおけるからだ。
もし、
他人の力を借りることも
方法のうちに入れるのならば、
『強力行使』の他にも、
イジメを解決できる方法が、
あと二つある。
『強力行使』以外で、
イジメを解決する方法があるならば、
まずそれをやらなければいけないから、
その二つの方法は、
先に絶対に試さないといけないんだ。
そして、
必要な条件が2つでいいというのは、
その二つの方法をためして
相手がイジメをやめなければ、
自動的に2つの条件がそろう。
つまり先に、
二つの方法をすることによって、
『強力行使』しか
残らなくなるのだ」
「……その、
二つの方法とは何ですか……?」
「一つは、
『いじめっ子にイジメをやめるように言うこと』
もう一つは、
『教師に相談すること』
の二つだ。
この二つに、
『強力行使』を加えると、
イジメを解決するための方法は、
全部で三つあることになる。
いや、
イジメを解決する方法は、
環境の変化や偶然をのぞけば、
いじめっ子本人の意志でやめるか、
教師に頼んでやめさせてもらうか、
自分でやめさせるかという、
この三つの方法しかないのだ」
「…………」
「2つの条件がそろうということは、
こちらは平和に解決するために、
できるかぎりの手を尽くしたが、
それでも相手は
イジメをやめないということになり、
最後に残った三つめの、
自分でやる、
『強力行使』を使うしかなくなる。
つまり、
2つの条件がそろえば、
『強力行使』を使っても、
世間の人たちは、
それを悪く言うことはできないことになるのだ」
「…………」
「倉打君も言っていたように、
いじめられているからと言って、
それだけの理由で
『強力行使』をやってしまえば、
世間の人々は、
本当にイジメがあったのかどうかは
分からないから、
こちらが悪いと言ってくる。
しかし、
この2つの条件を
間違いなく満たしていれば、
こちらは争いを回避するために
努力をしたことと、
本当にイジメを受けていたことを
世間に証明することができる。
それなのに、
どうしても相手が
イジメをやめないから、
最終手段の
『強力行使』に
踏み切らざるを得なかったことを説明できる。
そこまでしてようやく
『強力行使』が
やむを得なかったことを、
世間の人々に
理解してもらえるようになるのだ」
「ちょっと待ってください……!」
「うん」
「2つの条件なんて、
作れないです……」
「どうして?」
「言ったでしょう。
相手はイジメでないようにイジメをしてくる。
イジメは
イジメをしている事実なんかないように、
いくらでもごまかせるんです。
イジメとは印象を表している言葉で、
イジメはあるけどイジメはないんです。
だから、
イジメがある事実も、
相手がイジメをやめない意思も、
確認なんかできないんですよ。
ないことにできるんですから。
ないものを確認することなんか
できないでしょう!?
そして、
2つめの条件というのも、
先生に告げ口することですよね。
そんなことをしたら、
よけいに僕の立場が悪くなるだけです……!
イジメとはそういうものなんです……!」
☆三つの方法☆
①『いじめっ子にイジメをやめるように言う』
(いじめっ子の意志でやめる)
②『教師に相談する』
(教師にやめさせてもらう)
③『強力行使』
(自分でやめさせる)