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第3話 広遠への反論

「分かるかな、倉打くらうち君――」


と、広遠ひろとおさんが僕に尋ねた。


すぐに返事ができなかった。

色々な思いが、

頭の中を駆けめぐって、

混乱していたから……。


僕は広遠さんに、

学校でイジメを受けていることを話したけれど、

まだ誰に、

どのようにいじめられているのかなどを、

詳しく説明したわけではない。


また、広遠さんも、

そんなことは別に知る必要はないと言う。


話の中で、

高校にイヤなヤツらがいるということを、

うっかり口を滑らせたときに、

いじめられているのかどうかを、

なんとなく自然に聞き出されてしまったんだ。


学校でいじめられているなんて、

格好悪くて絶対に口には出せないことが、

広遠さんには、

ちょっとだけ素直に認めてしまった……。


広遠さんが、

「いじめられることは恥ずかしいことじゃない。

イジメは絶対に解決できるんだ」

って言うものだから、

その話を聞いてみたんだ……。


しかし……、


僕は思っていることを、

広遠さんにぶつけてみることにした。


「……それを、

実際にやることを想像してみると、

極端すぎるというか、

……どう考えても、

現実味に欠けています……」


「どう現実味に欠けていると思うのかな」


「……まず、

いくらイジメをしてくる

相手に対してでも……

犯罪になると分かっていて

『強力行使』なんて

できません……」


「そうだね」


「それと……

『強力行使』をして、

本当にイジメが終わるのかということに、

確信が持てません……」


「うん。なるほど」


「広遠さんの言う方法は、

理論の上では正しいのかも知れません。

でも残念ながら、

現実の世界のイジメではそれはできません。

広遠さんは、

本当のイジメというものを知らないんです。

現実のイジメって、

そんなんじゃないんですよ……!」


「現実のイジメとはどういうものか、

教えてもらえるかな」


「まず、

広遠さんの言う

『強力行使』をやるためには、

イジメがあることが

前提になっていますよね……」


「もちろんそうだ」


「もしイジメが、

強い者が

弱い者をいじめているという、

誰が見ても

はっきりイジメと分かるような場合なら、

広遠さんの言う通り、

『強力行使』をしても、

世間から

納得してもらえるかも知れません。

でも

実際のイジメは

そうじゃないんです……」


「では、どういうものなの」


「強い弱いという関係ではなく、

同級生同士という対等の関係だったり、

先輩後輩という関係なんです。

そこでイジメは、

遊びや冗談という

コミュニケーションの

延長として行われるから、

イジメではないという見方もできるんです。

イジメを

イジメだと限定することはできないんです」


「なるほど」


「もし、

プロレスごっこということで、

みんなは手加減しあっている中で、

僕だけに本気で来られている場合は、

どうやってイジメだと証明できますか? 

もし、

リーダー格に命令された人物が

暴力を仕掛けてくる場合、

命令されていることを

感じることはできても、

証明することはできないですよ。

ということは、

どうやってリーダー格に

『強力行使』をやりますか? 

持ち物に

いたずらされたりした場合などは、

根本的に

誰が犯人か分かりませんよ。

集団で無視されているときは、

こちらに

心理的な圧迫を与えられても、

外の人に説明しても

分かってもらえないですよ……

相手がそれを認めないでしょうから」


「うん」


「冗談や遊びを装ってくる相手に、

『強力行使』なんかやって

大ケガをさせてしまえば、

僕のほうは

冗談と言い逃れをすることができません。

でも向こうは、

いくらでもごまかすことができるんです。

だから、

相手は

イジメをしたことを認めないんですよ。

この場合、

世間はどっちを信じてくれるんですかね。

こちらが悪いとなってしまうと、

僕はどうなるでしょうか? 

そんな状況で、

『強力行使』なんて

できないでしょう? 

イジメとは

そういうものなんです……!」


「うん」


「イジメの解決方法は、

いじめられていながらも、

友好的なムードを

壊さないようにしながら

やり過ごす方法が、

ベストなんです。

協調性を保ちながらも

同じ意見ではないという、

和して同せずの関係を保ちながら、

相手のイジメをかわしていくことが、

一番の方法なんですよ……。

同じ学校で

生活をしていかなければいけませんから、

対立してしまうと、

学校で過ごしにくくなりますから……」


「それも分かるよ」


「いえ、

僕の立場に身を置いて考えられるくらい、

イジメを知っている人でないと、

この問題の難しさは

分かってもらえないことです。

誰も

実際のイジメの空気感は分からないし、

空気だから、

それを説明するのは難しいんですよ。

結局、

イジメとは何かという、

見解の相違で

言い争うことになるだけなんです……」


「うん」


「だから、

イジメでなく

悪ふざけとみなされた場合に、

こちらが本気になって

『強力行使』をやってしまうのは、

明らかに行きすぎです。

イジメは笑いながらできても、

『強力行使』は笑いながらできません。

イジメというのは、

印象を表している言葉なんです。

だから、

同じものを見ても、

見る人によって印象が変わるように、

イジメの場合も、

それがイジメかどうかは、

人それぞれに意見が分かれるのです。

だから

それがイジメだったということを、

全ての人が理解できるように

説明することはできないんです……

例えば、

行為だけを見て、

そこに悪意があったか

ワザとやったかを

証明することはできないでしょう。

そのために、

イジメは

どこからがイジメなのかということを

はっきりさせられない、

グレーゾーンで行われるんです」


「なるほど」


「『強力行使』がやれるものなら、

僕だってそうしたいですよ。

でも、

現実には、できないんです……」


……広遠さんは、

イジメとは何かを、ちゃんと分かっていない。


僕はイジメについて、

誰よりも深く傷ついて悩んでいるから、

なんとかするために、

イジメについてできるかぎりのことを調べた。


それを広遠さんに説明してみることにした。








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― 新着の感想 ―
[一言] 倉内は悪ふざけはイジメでないと言ったが、 いじめの定義は、される側が嫌だと思うかどうかだよ。
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