第2話 強い心をもつ
広遠さんは、さらに続けた。
「もし自分がイジメに遭ったときは、
『強力行使』をやることも辞さないという
心構えを持っているだけで、
いじめられなくなる。
『強力行使』は、
戦うためにあるのではなく、
むしろ戦わないためにあるのだ。
いじめっ子に
『強力行使』をすれば、
いじめてこないようにできることが
分かっていても、
実際にはやらない。
そういう強い人間でなければいけない。
『強力行使』は
人道に反する行為で、
いかなる理由があろうが、
それは悪であることを
肝に銘じておかなければいけない。
しかし、
いじめっ子は、
弱い者はいじめられて当然だという、
揺るぎない信念を
こちらに押しつけてくる。
それが
自分の存亡を
危うくするほど続くようならば、
『強力行使』に
踏み切ることも、
強い人間には
できなくてはいけないことなのだ」
「…………」
「イジメをするかどうかは、
相手が決める問題だ。
イジメを解決するかどうかは、
自分が決める問題だ。
相手は
自分にイジメを仕掛け続けてくるのに、
それを解決しないことは、
臆病というだけでなく、
人間らしいとは言えないことになる」
「…………」
「いじめられているときは、
他人はあてにならないし、
誰も助けてはくれない。
自分だけしか頼りにならない。
自分以外を頼りにするのは、
弱い気持ちだからいらない。
友人や
周囲の者たちに
味方になってもらおうという、
弱い心は捨てなければいけない。
イジメは
自分1人の力で解決できるのだから、
友人や
周りの人間の手を借りる必要はない。
必要なのは、
この問題を
絶対に解決するという、
強い気持ちを持つことだけだ」
「…………」
「イジメは
『強力行使』でしか解決できないが、
誰しもこのような犯罪を、
他人のために
代わりに犯してやることはできない。
『強力行使』は、
いじめられている者自身でないと、
使うことができない」
「…………」
「『強力行使』を使うかどうかという、
重大な問題について、
他人の考えを借りて、
決めようとしてもいけない。
中には面白がって、
やるようにけしかけてくる者もいるし、
正しいことしか分からなくて、
やめるように諭してくる者もいる。
やれと言うと
自分のせいにされることを心配して、
やめろと言うこともある。
『強力行使』をやるかやらないかは、
他人の意見に
左右されるべきことではない。
自分一人で決めなければいけない。
しかし、
もし迷っているんだったら、
まだやるべき時ではないということだ」
「…………」
「いじめられる原因は、
『強力行使』ができないからだ。
しかし、
いじめっ子は、
それ以外に原因があることを主張してくる。
では、
どちらが正しいのだろうか?
それは、
いじめっ子に『強力行使』をして、
その後でも同じように
イジメをしてくるのならば、
いじめっ子の言うことが正しかったことになる。
反対に
『強力行使』をしたあと、
イジメをしてこなくなったら、
こちらが正しかったことになる。
どちらが正しいかを知るためには、
実際に
『強力行使』をやってみるしかない」
「…………」
「世の中を見渡せば、
悪い人間たちほど
いじめられないことが見てとれる。
それは、
そういう者たちが
脅威をもっているからだ。
いじめられる原因というのは、
善か悪かではなく、
強いか弱いかで決まるということだ」
「…………」
「しかし『強力行使』は、
相手が強いか弱いかで、
やるかやらないかを決めるのではない。
自分に
不当に損害をあたえてくることを
やめない者がいるから、
そのような問題を
解決しなくてはならないという
原則に従って
行動を起こすのだ。
だから、
どうしてもイジメをやめないならば、
どんな相手であっても、
『強力行使』を用いねば仕方なくなる」
「…………」
「いじめっ子がイジメをやる理由は、
相手が自分より弱いからで、
それ以外の理由は建前にすぎない。
『強力行使』ができる者を、
いじめっ子がいじめてくるはずがない。
だからイジメは、
『強力行使』によってのみ解決できる。
ゆえに、
イジメを解決したければ、
『強力行使』をする他はない。
しかし、
『強力行使』をすれば犯罪となる。
これは、最悪の道を選ぶことだ。
かと言って、
いじめられ続けることも、
最悪の道を選んでいることになる。
どちらか1つの
最悪の道を選ぶしかないときは、
他人から押しつけられたほうではなく、
自分の意志で決められるほうを選ぶんだ」
「…………」
「『強力行使』は、
やりたくてやってはいけない。
争いには
消極的な姿勢でなければいけない。
『強力行使』をやるときは、
イジメを終わらせる方法が、
これ以外にないために
仕方なくやるから、
その時だけは暴力を使うが、
それまでは、
防衛的な態度でおり攻撃的であってはいけない。
相手を脅すようなことを
してもいけない。
いじめられるような人間が
脅しをしても逆効果なだけだ。
だから、
『強力行使』があることを、
ペラペラと喋ってはいけない。
胸にしまっておけ。
誰にも話すな。
言ったときは、
本当にやるときだ。
逆に相手の言う脅しは、
全部信じろ」
「…………」
「『強力行使』をやるときは、
一挙にやってしまわなければいけない。
そして、
『強力行使』をやるときに、
気をつけなくてはいけない
我々が陥りがちなことは、
自分自身の良心の抵抗によって、
途中で止めてしまいたくなったり、
敵に情けをかけてしまったりすることだ。
ケンカならばこれは必要だが、
イジメでは絶対に禁物だ。
そんな
生半可な気持ちでしかできないならば、
はじめから何もやらないほうがいい。
そのようなことでは、
いじめっ子はこちらを恐れないから、
必ず仕返しにやってくるからだ」
「…………」
「イジメを完全に終わらせたければ、
『強力行使』は
最後までやり遂げなくてはいけない。
『強力行使』とは、
ただ殴ることではない。
泣くまで殴ることだ。
『強力行使』は遊びではないから、
絶対に勝つ方法でやるんだ。
そのためにバットを使うんだ。
そのために
一番油断しているときを狙うんだ。
そのために
後ろからやるんだ。
後ろから不意をついてバットで殴れば、
絶対に負けないだろう?
イジメは勝ったほうが正しくなるから、
勝つことが第一なんだ」
「…………」
「イジメの解決は、
あいまいな幕引きをさせるのではなく、
完全に勝利して
終わらせなくてはならない。
いじめっ子は
『強力行使』をされるために生きている
人間のクズなんだ。
ただし、
早く終わらせてやるんだ。
いつまでもやるんじゃない。
頭ばかり殴ってはいけない。
相手に重傷を負わせることによって、
世間に知られることとなり、
どちらが正しいのかを公正に決めてもらって、
それでイジメは終わるんだ。
世間から自業自得と言われないと、
いじめっ子は、
自分が『強力行使』をされる理由さえ
分かることができない」
「…………」
「だから
『強力行使』をやると決めた相手には、
人間の良心を乗り越えて、
ライオンにならないといけない。
ただし動物のように、
興奮をむき出しにして襲いかかるのではなく、
遺伝子に眠っている
野獣の本能を自らの意志で、
その瞬間だけ引き出すんだ。
冷静なままで、
早く強く本気で殴れ。
人格を切り替えろ。
自分を守れない者には
家族や恋人も守れない。
イジメを解決できない者は、
今度は
自分が弱い者いじめをするクズになる。
いじめっ子を
片輪にできるくらいの
強い心を持たなくては、
イジメは解決できない」