表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/14

第13話 広遠の横顔

「『強力行使』を

やるかやらないかは、

ひとまずは

先生たちの指示に従うんだ。

ここでも、

3人の先生に意見をもらうとよい。

当然ながら、

先生たちが口をそろえて、

してもいいと言うことなど

ないだろうから、

――それでは、

してはいけないと言うことですね、

と確認をして、

自分も同じ意見ですと同意する。

ただし、

相手が害を加えてくる以上は、

いつまでも

サンドバッグになることに

耐えられる自信はありません。

解決できる問題は

解決しなければいけませんし、

やるときは

最短の方法でやることになりますと、

断っておくのだ。

イジメは、

いじめられているままでは、

僕のほうが悪いようになりますが、

解決すれば、

僕のほうが正しいことにできるのですからと」


「…………」


「隠れてやるイジメとは違って、

『強力行使』をやれば、

なかったことでは済まされない。

大きな事件になって、

なぜそんなことをしたのかという原因を、

周囲から追及されることになる。

その時に、

本当にイジメがあったのならば、

誰かそれを知っている者が

必ずいるはずだから、

その事実を話してくれる。

それを引き出すためには、

『強力行使』によって、

完全に勝利していなければならない。

勝利という結果だけが、

DQNが考えた筋書きを

書き換えられるのだ」


「…………」


「『強力行使』をやるためには、

それがやむを得なかったことが、

誰からも

分かる事実がなければならなかった。

そのために、

2つの条件は絶対に必要だった。

ただし集団無視のような、

実体を証明できない、

間接的なイジメを仕掛けられている場合は、

DQNを泳がせて

充分に宣伝させておいてから、

『強力行使』を用いることによって、

周囲からの

事実の証言を

引き出すことができるようになる。

そして、

イジメの実体が明らかにされた後に、

やむを得なかった事情が

証明されることになる」


「…………」


「ただしこの場合、

イジメの実体を解明できる証拠は、

他人の証言に頼らざるをえない。

他人が

物事をどうとらえているかは分からない。

だからこちらには、

やむを得なかった理由が

認められるという確信はなく、

絶えず

不安がつきまとうことになる。

このように、

集団無視のような

間接的なイジメを解決するために

『強力行使』を用いるには、

自分の見解を信じる勇気に加えて、

果断さがより重要となる」


「…………」


「最後は、

子分を使って

危害を加えてくるDQNの場合だ。

このDQNが一番危険だ。

このタイプは

役割を分担することによって、

いくらでも

責任逃れができると考えている。

DQNは殴れと言っただけで、

子分は命令に従っただけ、

という具合でだ。

そのためにDQNは、

自分ではやれないような

残酷な命令を下すことができるし、

子分は、

ためらわずに命令に従うことができる。

そして、

こちらが攻撃を受けたときは、

DQNではなく、

直接攻撃をしてきた子分に

怒りを抱くために、

問題を解決する

最短のルートから外れてしまう」


「…………」


「子分を使ってくるイジメは、

直接的であるとも言えるし、

間接的であるとも言える。

目の前でDQNのリーダーが、

明らかに

子分に命令を出しているのを

見ているのならば、

これは直接的なイジメとなるから、

リーダーのみと交渉をして、

1つめの条件をそろえていけばよい」


「…………」


「DQNのリーダーが、

子分に命令しているところを

見てはいないが、

そう感じられるという状態であれば、

それは間接的なイジメだから、

集団無視のときと同じ要領で、

自分の見解を信じ、

果断さを発揮して

『強力行使』をしていく」


「…………」


「いずれにせよ、

イジメの解決に行き着くためのゴールは、

DQNリーダー格への

『強力行使』を目指す以外にはない。

『強力行使』は

絶対にやってはいけないことだが、

最終的には、

『強力行使』もあることを

見据えておかなければ、

DQNを追っ払うことはできない。

武力をもっていればこそ、

敵から身を守れるのだ。

残念なことだけれど、

これ以外に

解決できる

頭の良い方法があるのなら、

世界中で

戦争など起こっていないだろうと

私は思う……」


こうして、

広遠さんは一通り話し終えると、


「おっと、

もうこんな時間だ……

ずいぶん話し込んでしまったから、

遅くなってしまったね……」


と、時計を見て言った。


時計の針は、

もう午前0時に近づいてきている。


それから広遠さんは、

残している仕事があるというような話をして、


「もう帰らないとね。

倉打君も、気をつけて帰るんだよ。

じゃあね」


と、革のカバンを抱えてから、

先にこの休憩所を出ていった。


ドアの向こうで、

広遠さんと誰かとが

話している声が聞こえてくる。


休憩をしにきた夜勤の人と、

ばったり出くわしたようだ。


ここは、

僕がアルバイトにきている、

工場の休憩室なのである。


僕は、いったん

隣のロッカールームで荷物をまとめにいって、

再びこの休憩所に戻ると、

夜勤の人から、


「あれ、倉打君もまだ帰ってなかったのか」


と、声をかけられた。


「はい。広遠さんと話をしていたんで」


「倉打君だったのか、

遥名はるなさんが

長話をしていたという相手は」


「遥名さんって言うのは、

広遠さんのことですか?」


「そうそう。

広遠遥名ひろとおはるなって名前なんだよ、

あの人は。

それでみんな

遥名さんって呼んでるんだ。

女みたいな名前だろう」


「あの人は、

ここで何の仕事をしてるんですか? 

いつもスーツを着ているし、

たまにしか見かけませんけど」


「遥名さんは、

うちの会社の人間じゃないよ」


「え、そうなんですか……」


この人から聞いた話では、

広遠さんは、

この工場に

経営コンサルタントとして

招かれている人ということらしい。

年齢は30代半ば。


元々は、

都心にあるコンサルタント会社で働いていたが、

そこでキャリアを積んでからは、

今は独立して、

自分で会社の経営をしているということだった。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ