第12話 集団無視を解決する
「あとは……、
プロレスごっことか、
見ていないところで
持ち物にいたずらをされた時とか、
集団無視や、
子分に攻撃させてくるイジメの場合は
どうしたらいいのかと言っていたね……」
「はい……」
「プロレスごっこの場合は、
1つめの条件を作りやすいだろう。
今までは
フェアでないことが分かっていながらも、
争うのではなく
友好関係を保つことを
優先する方針をとっていたが、
これからは
問題を解決するために、
手の平を返して、
自分が被害者という形を
作っていけばいいんだ」
「…………」
「物を隠されたり壊された場合は、
早めに教師に
被害があったことを報告しておこう。
それが教室内でおこったのであれば、
その時間帯の間に、
教室を出入りした人間を絞っていけば、
犯人を割り出すことができるかも知れないが、
教師はそれをしないだろう。
これが
イジメの一部として行われていたとしても、
そのときには
犯人の特定はできないかも知れないが、
最終的に『強力行使』をした後で、
そいつを疑って、
そいつが関与していない証拠を
そいつに出させればいい」
「…………」
「集団無視についてはだが、
……クラスの全員から
無視されるということはまずない。
もし、
クラスの全員から
無視されていると感じていたら、
それは思い違いだ」
「…………」
「なぜかというと、
学校のクラスには、
20人以上もの人間がいるのだろうから、
その全員が
DQNと結託して
イジメに協力することなど、
まずおこりえない。
もしあったとしたら、
それは一時的に、
みんなが全体の空気に合わせて、
おもしろ半分でマネしているだけだ」
「…………」
「学校には、
いろいろな考え方を持った
人間が集まっているから、
クラスの中には
DQNも混じっている代わりに、
正義感のある人物や、
善悪の判断がつく者だっている。
DQNに無関心な者もいれば、
反感を抱いている者もいる。
仮に倉打君が
いじめられて当然だという
空気ができあがっていたとしても、
そういう方法で制裁を加えることを、
嫌に感じる者も中にいる。
しかし、
イジメは誰も助けることができないから、
みんな黙っているだけだ」
「…………」
「だから、
多数から無視をされているときは、
全員が敵のように
感じられるかも知れないが、
決して、
全員が完全なる敵ではない。
倉打君が
いじめられているところを見たいと
思っている人間は、
DQNが泣かされるところを
見たいと思っている人間でもあるのだ。
今は強い側の味方について、
一緒になって喜んでいるだけのことだ」
「…………」
「ただ、
集団無視を特定のグループからされようが、
全員からされようが、
イジメを解決するために
見据えるゴールは、
例外なく、
DQNのリーダー格に
『強力行使』をやることだ。
しかし問題は、
集団無視という
間接的に行われるイジメの場合は、
イジメの実体を証明することができない。
様子がおかしいことを感じるというだけで、
危害を加えられていることを
誰かに納得させられる説明ができない。
行為者は、
直接手出しをしていないから、
イジメの実体を隠匿しながら行えるために、
尻尾を捕まえることができない。
実体がないから、
こちらは二つの方法を試すことができない。
よって2つの条件も
作れない。
では、
どうするか――」
「…………」
「とりえあずは
何もしないことだ。
それを受け入れて、
知らないように振る舞う。
影響力を無視して、
DQNがこちらに
ダメージを与えているという
実感を伴わないように感じさせて、
より直接的な
イジメの方法に
切り替えてくるのを待つ。
直接的なイジメならば、
これまでに説明してきた手順で
解決できる」
「…………」
「どうしても
直接の方法に切り替えてこない場合、
DQNが皆に、
こちらの悪口を吹聴すれば吹聴するほど、
周りを巻き込めば巻き込むほど、
イジメが続けば続くほど、
危害を加えてこようとするDQNの思惑が、
全体に知れ渡ることとなる。
それはイジメがあることを、
自分で宣伝してまわってくれているのと
同じことだから、
最後にはこちら側の有利に働く。
日陰ではDQNの味方が多くても、
陽の当たる場所に戦場を移せば、
こちらのほうが正しくなり、
みんな正しいほうに乗り換えるのだ」
「…………」
「DQNに操作された、
周囲の者たちからの
圧力を感じるようになると、
DQNによる宣伝の効果が、
全体に行き渡ってきた
ひとつの兆候かも知れない。
決して周囲の者とは争わずに、
必ず教師に相談するという形をとって、
『強力行使』に持っていくための
下地を作るのだ」
「…………」
「教師に、
――リーダー格のDQNが
みんなを扇動して、
自分を無視するように
危害を加えているように感じることを伝える。
相談する目的は、
教師に
集団無視をやめさせてもらうように
頼むことではなく、
『集団無視、
もしくはこちらがそう思うような行動が
あることをはっきりさせたい』
ということだ。
だから、
――DQNが
集団無視をやるならばやるでよいから、
こちらを攻撃するという態度を、
明確にした上でやってほしいのだと。
こちらが分からないように
コソコソとされることに困っているのだと。
だから教師には、
その有無を確認してほしいとお願いするのだ」
「…………」
「集団無視という
間接的なイジメの方法では、
DQNのリーダーが
加害者だということは、
感覚的なものでしかないから
証拠が出せないし、
教師が
それをDQNやクラスメイトに確認しても、
おそらく誰も認めないだろう。
というより、
DQN以外には
イジメをしているという
自覚がないこともある。
他の生徒たちからすれば、
ただ悪評を聞かされているだけだから、
特にそれを
問題視するほどのこととは思っていない。
生徒たちからすれば
イジメではなく、
誰でも言い得るレベルの噂話を
聞かされているだけなのだ。
だから、
多数の生徒たちが
イジメと認めないかぎり、
教師は大勢の意見を信じるだろうから、
こちらの被害妄想だと
結論づけるかも知れない。
それでも問題はない。
大事なことは、
トラブルとなる火種があることを、
教師に知っておいてもらうことだ。
そして次に、
集団無視のしくみを
教師に教えてあげなくてはいけない」
「…………」
「集団無視の仕組みは、
リーダー格のDQNが、
こちらの悪評を
周囲に広めることによっておこる。
無視も
1人だけでやってくれるのならば、
問題にはならないのだけれど、
それでは
ダメージを与えることができないから、
DQNは必ず
周囲の人間を利用して、
こちらを陥れようとしてくるのだ。
DQNの仲間同士ならば、
具体的な言葉に頼らなくても
意志の疎通ができる場合もあるだろうが、
普通は、
なんらかの誹謗中傷をすることで、
こちらの評判を下げて
悪者に仕立て上げ、
意気投合する仲間を増やしていき、
こちらを多人数で取り囲んで、
孤立させるように仕向けてくる。
その結果、
こちらは
誰が敵か味方かが分からなくなって、
周囲の人たちに疑心暗鬼や、
自分が疎外感を抱くようになるという、
精神的な被害を受けることになる。
つまり、
中心となるDQNには、
イジメをやるという意図がある」
「…………」
「しかし、
さきにも言った通り、
教師がその事実を確認することは難しい。
DQNとその仲間たちは、
利害を共にしているために、
しらを切るだろうし、
他の生徒たちは、
だまし絵という二面性の、
イジメではないほうの解釈に
フォーカスした意見を言うであろうから、
誰に聞いても、
はっきり分からないことしか言わない。
そもそも周囲の者たちは、
知らぬ間に
DQNの手駒として、
参加させられている形になっているだけなのだ。
そういうわけで、
集団無視という、
だまし絵のイジメの面は、
教師の立場からでは、
絶対に見えないと説明するのだ」
「…………」
「――そこで、
『強力行使』をやれば、
僕の言うことが正しいか、
みんなが言っていることが正しいのかを、
先生にも見えるようにできますと提案する。
今の状態は、
僕がいじめられているという
劣勢の立場だから、
他の人たちは
優勢なDQN側に意見を合わせているけれど、
『強力行使』をして、
こちらが
DQNに勝利したという結果さえ出せば、
こうなった原因が何にあるかを、
先生にも話してくれる人がでてくると思います。
結果が変われば
世論は変わるから。
『強力行使』をやれば、
どちらが事実なのかを証明できますと。
もしみんなが、
僕が全く
何も悪くない相手を殴ったと言うのなら、
そのときは、
僕の被害妄想だったことを認めましょう。
もし先生が、
集団無視、
もしくは
こちらがそう思うような行為はないと
結論づけるのならば、
僕はそれが間違っていることを、
先生にも分かるようにしたいです。
そのためには
『強力行使』をせねばなりませんが、
これをやると大問題になります。
僕は自分が悪者にされたまま、
ずっと嫌がらせに耐えていればいいのか、
それとも、
『強力行使』で解決をして、
イジメがあったことを
先生にも分かるようにしたほうがいいのか、
どうしたらいいですかと、
教師に決めてもらうのだ」