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第10話 法律について

「では、2つの条件を満たして、

『強力行使』すればいいんですね」

と僕が言ったら、

広遠さんは

「待て待て、

『強力行使』はしたらダメだ」と、

あわてるようにそう言ってから、笑った。


「えっ……!?」


「そんなこと私に聞くな。

『強力行使』をしていいですかと

尋ねられて、

してもいいと答えられる人間などいない。

私は、

『強力行使』をやれと教えているのではない。

それをやるかやらないかは、

自分で考えて、

自分で答えを出すんだ。

他人の意見は関係がない」


「…………」


「私は、

本当にイジメがあるのかも、

本当に倉打君のほうが

被害者なのかということも、

自分で確認したわけではないから知らない。

実際は、

ただのケンカなのかも知れないし、

倉打君のほうが、

いじめている側だということだって

ありうるからね。

どんな争いごとでも、

双方の意見を聞いて

判断しないといけない。

私は今、

何も事情を知らない中で、

いじめられている場合は、

イジメを解決するには、

こういう方法しかないということで、

話をしているだけだ。

こういった知識は、

正しくに伝えることが難しい。

DQNがこの話を聞けば、

簡単に

『強力行使』をはじめだす

おそれがあるから」


「…………」


「『強力行使』をやれば犯罪になる。

これは、

我々にとって重大な問題だ。

犯罪などやりたくはないのだ。

犯罪になれば

家族に迷惑がかかるし、

自分の未来も危うくなる。

我々にとってその代償はあまりにもでかい。

刑務所に入ると、

――倉打君は少年院になるのか。

そこでもまた、

いじめられるのではないかと

心配にもなる」


「…………」


「暴力は犯罪だが、

イジメを解決するために

『強力行使』をして、

逮捕されるかどうかは、

実際にやってみないと分からない。

それは2つの条件が、

どこまで認められるかにかかっているだろう。

警察官だって、

泥棒がいるからという理由だけで拳銃を使うと、

法律違反になるが、

その泥棒が

凶器を手にして向かって来たときなど、

状況によっては

射殺しても違法ではなくなる場合がある」


「…………」


「それから断っておくが、

私は法律のことは何も知らないから。

もし法律のことが知りたければ、

弁護士に聞いてくれ――。

ただ、

私個人の考えとしては、

イジメごときの問題で、

弁護士を雇ったり

法律に詳しくなる必要などない。

そんなことより、

常識や道徳が身についているほうがいい。

『強力行使』が

違法になるのは分かっているけれど、

私ならばイジメという

緊急の事態には、

自分の自尊心や身体や財産を守ることを

第一に行動すると思う。

自分の命よりも大事に

法律を守っていたら、

世の中、

DQNのやりたい放題になってしまう。

守ってはいけない法律もあるのだ」


「…………」


「『強力行使』をしたことが、

傷害罪や私刑や

自力救済として有罪になるのか、

正当防衛や

緊急避難が認められて無罪になるのか、

精神的な問題があったことになって

減刑されるのか、

過剰防衛に問われるのか、

他にどうなるのかは

法律家が決めることだから、

私には分からない。

私に分かっていることは、

イジメは

『強力行使』をやらなければ、

やられ続けるということと、

やるなら相手が泣くまで殴らないと、

絶対に仕返しをされるということだ。

そして、

刑務所に

ぶち込まれた場合のことまで考えると、

『強力行使』を

徹底的にやり遂げていたほうが、

そこでいじめられる危険が下がる」


「…………」


「これは私見だが、

『強力行使』をしても、

逮捕されることは

めったにないのではないかと思われる。

ましてや実刑となると、

さらに珍しいことではないか。

まず、

おそらく教師が警察に通報したがらない。

先生たちには

再三イジメの相談をしているし、

先生らの指導が

無効なときに

『強力行使』をやることを伝えている以上は、

教師たちも

責任から逃れることは難しくなるから。

イジメは学校でおこる問題で、

学校では

教師だけが

イジメをやめさせられる権限を持っている。

DQNには

責任をとる能力がないものとして考えると、

イジメが起こる責任の半分は

こちら側にあるとしても、

残りの半分は、

学校に負ってもらわなければいけない。

『強力行使』を

学校でやるのはそのためだ。

教師が殴られたわけでもないのに、

学校が

警察に通報する利点はないと思われる。

警察を介入させるのかどうかは、

学校の判断にゆだねればいい。

こちらは、

誰に何を聞かれても、

あったことを正直に話せばいいだけだ。

倉打君が

自分から進んで警察に出頭するときは、

DQNからの報復を恐れる場合のみとなる」


「…………」


「これもよく分からんが、

DQNのほうが

警察に被害届を出したり、

民事裁判をおこす確率も

低いと思われる。

大体、

DQNが

被害届を出そうが裁判をおこそうが、

これまで自分がしてきた所業が

明らかになっていくだけだ。

DQNも

そこまでバカではないだろう。

だがそうなった場合、

法律がどういう判決を下すのかは、

私が知るかぎりのことではない。

法律は

DQNほど優遇されるように

機能しているフシがある。

また、

DQNの親が政治家だったりしたら、

負けることもあるのかも知れない。

勝負から運を排除することはできない。

だがおそらくは、

顔見知りで、

身元も分かっている者同士なのだから、

刑事事件にも民事裁判にもならずに、

学校が間に入って、

内々で

話をつけようとするのではないかな……。

損害賠償を請求されても無視するか、

プラマイゼロに交渉できなければいけない。

イジメは、

いじめられたままならば、

いじめられ損で終わるであろうし、

『強力行使』をすれば、

DQNの自業自得ということで、

一件落着する可能性が高い」


「…………」


「反対に、

もし『強力行使』をやらなければ

どうなるかは予見できる。

それは、

正しいことが何なのか

分からなくなって、

胸を張って

生きていくことができなくなる。

もしくは、

こちらが裁判をおこしたとすれば、

責任をとるという

概念を持っていないDQNを相手に、

多大な金と時間と労力とを費やして、

人生を

無駄に消耗していくかの

どちらかになるだろう」


「…………」


「この両面から考えると、

こちらが裁判をおこすのではなく、

いじめられた時は

『強力行使』をして、

DQNに裁判をおこさせるように

仕向けるほうがマシだ。

どちらにせよ、

DQNとは

かかわった時点で負けなのだから、

イジメには勝つことが大事なのだ」








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