第1話 強い力をつかう
広遠さんは、こう言った。
「イジメを解決する方法は、
1つしかない。
それは、
『いじめてくる相手、
――2人以上いる場合は
そのリーダー格1人のみを、
後ろから不意をついて、
そいつが泣いて謝るまで情け容赦なく、
バットでボコボコに殴り続けること』だ。
そしたらもう、いじめてこなくなる」
「……え……!?」
「イジメをする人間は、
自分が持っている、
あらゆる力の優位さの上に立って、
イジメを仕掛けてくる。
イジメとは、
弱肉強食の論理で、
自分より弱い者に害を与え続けることだ。
それだから、
その相手よりも強い力を使えば、
イジメをやめさせることができる。
バットで人間を殴ることは、
石で卵を叩くようなもので、
どちらが強いかは明白だ」
「…………」
「相手より強い力を、
実際に使うこと。
これを、
『強力行使』と言う」
「……強力、行使……」
「当然ながら、
『強力行使』は暴力だから、
やれば犯罪になる。
意地を張りたい者同士で
ケンカをやりたいんだったら、
1対1で堂々と素手でやらなければいけない。
しかし、
イジメとは、
弱い相手に
ケンカになることを
仕掛けていくことだから、
弱い側が
感情的になって
ケンカで応じてしまったら、
全ての力で上回る
いじめる側の思惑にはまるだけだ。
イジメを解決したければ、
弱者は、
弱者でも勝てる
戦い方を選ばなければいけない。
弱い者でも勝てる戦い方が、
『強力行使』だ」
「…………」
「『強力行使』をやる目的は、
相手が
自分にイジメをしてこないようにすること、
ただそれだけでなければならない。
仕返しのためではなく、
解決するためにやるのだ。
相手を
痛めつけることが目的であってはならない。
だからもし、
『強力行使』以外で、
二度といじめてこないように
させられる方法があるのならば、
まずそれをやらなければならない。
それは、
『強力行使』よりも、
早くて確実で、
かつ平和的であればあるほど望ましい」
「…………」
「しかしながら、
相手より強い力を用いずして、
イジメをやめさせる方法などない。
そのために
やむを得ず、
『強力行使』という
血生臭い手段を用いることになるのだ。
『強力行使』とは、
暴力でいじめっ子を
完膚無きまでに叩きのめすことであり、
その目的は、
いじめてこようとする
相手の意志を粉砕することにある」
「…………」
「そこで、
『強力行使』のような
暴力を使ってもよいのならば、
当然、
いじめっ子も同じことをやろうと考える。
しかし残念ながら、
いじめっ子はそのような暴力を
使える理由を持っていない。
『強力行使』は、
いじめられている者が、
自分の意思だけでは、
イジメから逃れることができないという条件下で、
自分を守るために
やむを得ず用いることによって筋が通る。
いじめるかいじめないかを、
自由に決められる者がこれを行った場合は、
暴力そのものが目的となって、
『半殺し』をしたことになる。
『強力行使』も『半殺し』も、
やることはあまり変わらない。
ただ、目的が違うために、
この2つは全く別のものだ」
「…………」
「『強力行使』が
やむを得ないと見なされるためには、
相手が
イジメをどうしてもやめないという
事実がなければならない。
怒りにまかせて行われたり、
仕返しのためであったり、
正義を振りかざしたような理由をつけたり、
全体として
やる側の優位性が同等以上だと
認められるような場合は、
他にもとれる方法があったことになり、
やむを得なかったことにはならない。
その場合は、
やりたくてやった、
『半殺し』をしたことになる」
「…………」
「『強力行使』か『半殺し』かどうかは、
やった本人ではなく、
世間の人々が決める。
『強力行使』をやったら、
陰に隠れて行われていたイジメを、
世間の人々からも見える場所に
引きずり出してやることになる。
世間は、
誰か特定の個人の味方をするのではなく、
正しい理由があるほうを支持する。
いじめられていることが分かれば、
『強力行使』をしても、
世間は悪いとばかりは責めない。
反対に、
もし自分がボコボコにされたら、
たとえ自分のほうに非があったとしても、
絶対に警察に被害届けをだせ。
それも戦い方の一つだ。
自分が『強力行使』をしたときも、
相手を警察へ行かせればいい。
『強力行使』に至るまでの事情について、
警察ほど事実を明らかにできる機関は
他にないから」
「…………」
「暴力を使ってはいけないとか、
先に手を出したら負けとか言うのは、
あくまでも一般的なもめごとや、
常識内のいさかいが起こったときのルールだ。
イジメの問題とは、
区別して考えなくてはいけない。
イジメは非常事態として扱うのだ。
国家であれば、
イジメは国防の問題であり、
戦争を仕掛けられているのと
同じこととして扱わなければ、
この問題の本質を見誤ることになる」
「…………」
「それゆえに、
『強力行使』は、
どうしてもイジメをやめない者に対して、
用いられなくてはならない。
『強力行使』をやった後、
それを非難する者もでてくるだろうが、
他によい解決方法があるのならば教えてもらうとよい。
その者たちが考え出した答えは、
実際には役立たずの絵空事のはずだ」
「…………」
「極論を言えば、
イジメを解決する
もっとも確実な方法は、
相手を殺すことだ。
死んだ人間が、
二度と危害を加えてくることはないから。
しかし、
殺人をすると実刑になるから、
殺してはいけない。
命だけは助けてやれ」
「…………」
「もう一度繰り返すが、
イジメは、
相手が何人いようが、
自分1人の力だけで解決できる。
『イジメをしてくるリーダー格1人に、
不意をついて後ろから近づき、
そいつが泣いて謝るまで、
情け容赦なく
バットでボコボコに殴ったら、
そいつはもういじめてこなくなる』。
これが半ば公然と行えるのは、
相手がどうしても
イジメをやめないという
事実があるからであり、
結果として、
いじめられている側のほうが、
『強力行使』を使える理由を持てるという
強い立場になる。
だから、
いじめられたときは、まず
――落ち着け」