馬鹿な女
何度も派手に染めた髪の毛は傷んでいて
いつものように洗濯機の音がする
雨に濡れてしまった 白いTシャツが
暗闇の中で目まぐるしく 回る
目がまわる やかましい街の隅 暗い部屋の中
頭が痛くなる カーテンから漏れる光
空白なんて必要なかった 私の生活を染める色は
真っ黒だって誰も知らずに 世界は回っていく
毎晩のように 違う男の腕の中で眠る
街灯も少ない一本道を走る車の中に一人
流れる曲は きっとまだ好きなあの人を思う音楽で
味のしないタバコ1本 口に加えてみる
欲しい 愛されたい 愛したい
自分の存在意義をその夜にだけ知ることができる
朝になったら忘れるというか また探し回るような
毎日の繰り返しで 安心などできない
ラブホテルの大きなベッドで
不安に押しつぶされてしまった小さな私が眠りになんかつけるわけもなく
また朝になって 昨日と同じ服を着て ホテルを出る
明日の私はどこにいて 何をしていて
それが本当の私であるのか 誰に問いかけるわけでもない
男といても月曜日のゴミ出しは忘れないし
昨日の夜に呑んだ ジントニックの割合だってわかってしまうくらいには冷静だ
心の気持ちいいと身体の気持ちいいは
一人の男と一晩で感じ合いたいなんてそんなのは理想論だ なんて
そんな持論を女友達との飲みの席で笑い話として話す
私が毎日のように繰り返す これが 自傷行為だというのなら
私の心臓はきっと鋼で なんなら不老不死だ
ただ心は木綿豆腐のように簡単に崩れていく
酔っているふりは疲れる それから行為に移るだなんて
頭がおかしくなるくらいには疲れる
でも私はそれが生きている証だと感じている
それなりに感じて それなりに濡れる
それなりに喘ぎ それなりに
そんなこと知らない男は 必死になって私を抱く
唇 首筋 どんなところも唾液や汗で塗れる
汚れるなんて考えたこともなかった
それが良かった 一晩でも必要とされることが
今の私には必要なことだった
馬鹿で天然な女はモテる かわいいってもてはやされる
私はそうにはなりたくない
馬鹿で必死に腰を振って一晩の愛を注いでくれる
私はそんな男のほうが好きだった
自分のことなんか捨てて それでも自分の存在意義のために生きる
矛盾も頭がおかしいのだって私がよくわかっている
そんな女を抱く 馬鹿な男はかわいい