中編②
まさかの名前また違えてたので訂正しましたすみません。10/21
「シャナン様?ご友人関係は私には口を挟めませんが」
「わかってる、深入りするなと言いたいんでしょ?浮気なんてする気ないわよ」
ケイトに対して唇を尖らせる。
曲がりなりにも国王陛下の側妃なのだ。
もしもそんな事があれば、自分一人の問題では済まないのはもちろん理解している。
「にしては、ずぅっとあの方にもらった花を眺めているじゃないですか」
窓際の小さな花瓶には、あの青年が別れ際にくれた白い花が飾られている。
「昼間の花屋で買ったけど自分は持って帰れないからとくれただけで意味のあるものではないでしょう。綺麗な花だったから見ていただけだってば」
部屋に他の侍女がいない隙にそんな会話をしていたところで、部屋のドアがノックされる。
「はい」
ケイトが扉口で対応していた陛下の側近、ルミエーラ様(一応言っておくとフレンドリーなイケメン)によると、今日は陛下の訪れはないようだ。
代わりに側妃達に花を持って来たとのこと。
陛下もマメねー。
色とりどりの花が咲く窓辺で、シャナンはぼんやりと慎ましい白い花を眺めていた。
その夜、頬をなでる風にふと目を開けると。
漆黒の髪を宵闇に溶かし、ロイが窓辺に佇んでいた。
「陛下…?今夜は来られなかったのでは…?」
「起こしてすまぬ。執務が落ち着いたのでな。……今日は」
え、今から話すの?と思いながら、身を起こそうとすると、それより先にロイがベッドに入り込んだ。
ひんやりした体に熱を奪われ少しだけ目が冴える。
肘をついて見下ろすロイに、城下にお忍びで行きましたとも言えないので適当にごまかそうとして、あの青年の笑顔が浮かんだ。
「………今日は、本を読んでおりました。綺麗な青年との出会いの物語を。」
「ほぅ、恋愛小説を読むのも珍しいな」
「えぇ、侍女が勧めてくれるものですから、読んでみようかと思いまして。…でも、あまり私には合わなかったですわね」
そこまで話して、髪を梳くロイの手の温かさにまた眠気がきて、シャナンは眠りに落ちていった。
数日後。
キラキラしたオーラが瞳に突き刺さってつらい…
「良かったです、また会えて。いつ何処でとは約束できませんでしたから」
会う気もなかったからよ、とは言えない。
「そうね」と軽く返事をしつつ、まさかまた会うとは思わなかった青年の笑顔から目をそらす。気まずい。ケイトがじっとこちらを見ているから余計に気まずい。
深入りしないわよ!
「忙しいので、これで失礼」
と振りかけた手を取って、青年が急に駆け出す。
「ちょっとぉっ!!?」
「シエル!?」
ケイトが目を見開き追いかけてくるのを目の端でとらえたものの、人混みに紛れてあっという間に見えなくなった。
「どういうつもり」
しばらく走り抜けてからようやく手を振りほどき睨みつけると、「だってこうでもしないと一緒に過ごしてもらえなそうだったから」と困った顔をする。
悪意は感じられない。
純粋な想いだけだ。
だから悪いのだが。
はぁーと溜息をひとつ。
まぁそこまで移動していないし、ケイトならすぐ見つけてくれるだろう。
何かあってもお互い自衛の術はあるし。
そう思い直し、諦めていつものように町歩きを楽しむことにした。
彼がオススメというパンを頬張り、雑貨を見て、武具店をのぞき、噴水のそばで休憩しながら途中で見た絵画の話に花を咲かせる。
公爵家の令嬢として育てられつつも武芸ばかり磨いていたシャナンにとっては、初めてするデートのようだった。
彼は話し上手で、よく笑わせてくれるし、段差のあるところでは手を差し伸べる紳士でもあつた。
その手の温かさに、シャナンは心が穏やかになっていくのを感じていた。
「これ、良ければ」
「あら、白い花…」
この間ももらった、白い花だった。
「昔会ったあの森で採れる花で、僕が一番好きな花なんだ。もらってくれる?」
「…ありがとう」
初めての感情に戸惑いはあったが、急速に彼に惹かれる自分に、気づかないわけがなかった。
でも陛下以外にそんな想いを持つことは許されない。
だから、あの迷子になった日とは違って、今度は楽しい思い出として、また蓋をしよう。
もうそろそろ日が落ちる。
タイムリミットだ。
「今日は楽しかったわ。」
「僕も一緒に過ごせてとても楽しかった。また…」
「…ごめんなさい、もうあなたと会うのはこれきりよ」
彼の顔が固まった。
「…なぜ?」
低くなった声にすぅっと細められた目は威圧感があって、よく知りもしないがなんだか彼らしくない様子な気がして、身を竦める。
夫がいるから会えない、
さようなら、
こう言えばいいだけなのに、何故だか言葉が口から出てこない。
「元気で」
結局そんな陳腐な言葉しか残せなかった。
伸ばしてくる手をかわして駆け出す。
後ろで引き止めるような声が上がったが、聞こえないように必死に足を進めた。
もうここまでは追ってこられないだろう、という路地裏まで走って、城への道すがらトボトボ歩いていると、待ち構えていたケイトが駆け寄ってくる。
「シャナン様!ずっと探していたんですよ!もう、心配させて……っ…………シャナン様?」
俯いていた私の肩を、ケイトがそっと抱き寄せる。
「だから申しましたのに。深入りしてはいけませんよって」
ヒリヒリ痛む胸を押さえながら、少しの間、止まらない雫をこぼす。
頬を撫でる冷たい風が、どこかから花びらを運んで通り過ぎていった。
読んでくださりありがとうございます。




