請い文 【父の日企画2017】
「この前書斎であるものを見つけてね」
深夜に帰宅した夫クレードが、食事の後でふと話を切り出した。
「最近女の子達の間でまじないが流行っているらしいね。恋文を父親の部屋に隠して、ひと月の間見つからなければ想いが成就するとか」
妻レティシアから茶を受け取り続ける。
「あの子は誰に渡すつもりなのかな」
レティシアは微笑む。
「おおよそ見当はつくわ」
「奇遇だな、俺もだ」
言いつつ茶を含むが、その表情が少々沈んだ。
「複雑?」
意地悪な問いに、今度ははっきりとした苦笑で応じる。だが、次いだのはカップを置く音と決意した顔だった。
「俺は何も見なかった」
微笑む妻に、娘を持つ父親は皆辛いな、とクレードは密かな嘆息を交えて返した。