終章 事件の幕切れ
迫田はあの後、警察に自首した。
動機は至極単純なものだった。迫田は日田と浮気をしていたらしい。日田はそれを張間にばらされたくなければ、と金を要求していたのだ。その額は次第に吊り上がっていき、耐えかねた迫田は凶行に及んだ。
しかし、張間は迫田の浮気に気づいており、そのことから日田殺害の犯人は迫田なのでないか、と疑っていた。張間にそれを問われた迫田は、犯行がバレたと焦り、張間も殺すことにしたのだと言う。
犯行方法は天野の推理通りだった。
アリバイを作った上で張間を殺害し、容疑の網から抜け出したつもりの迫田だったが、一部始終を根布谷に見られたかもしれないことに気づき、根布谷を口封じのために殺害、さらに根布谷に罪を着せるために冨山を襲ったと供述している。
「あー、どうしてそんな理由で人を殺したりしてしまうんだろうか」
僕は助手席で苺大福を食べている天野に向かい愚痴をこぼす。
「人の感情なんて単純なもの差しじゃあ測れないってことなんだろう」
天野は苺大福を食べ終えると、小声で、ごちそうさま、と幸せそうに手を合わせる。
「それにしても、ヤギのレインコートか……」
天野が呟く。
「何とも、まあ、暗示的な話じゃないか」
「ヤギはキリスト教では悪魔の象徴なんだろ? この前も聞いたよ」
「ああ。そしてそのことからしばしば生け贄として使用されたりするんだ。生け贄の山羊って聞いたことないかい? まるで今回の事件そのものじゃないか」
車内のエアコンがあまり効いていないせいなのだろうか。僕の背中を嫌な汗が一筋、ゆっくりと流れていくのを感じた。