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幕間 弐
日も沈み、辺りが次第に闇へと飲み込まれていくなか、その人物は木陰に身を潜めていた。
もうすぐ彼女が来るはずだ。
額に汗が滲む。夏の夜の熱気は太陽という熱源を失ってなお、べっとりと居座り続ける。この季節にこんな厚着をしているのは自分くらいだろう、と少し可笑しく思う。
背中のヤギはそんな自分を嘲笑うかのように口を大きく裂き、その醜い顔を歪ませている。黒いレインコートの生地は闇に溶け、ヤギの顔が仄白く浮かび上がり、より一層不気味さを増しているようだ。
彼女――冨山白奈の姿が見えた。
体勢を低くし、身を隠しながら、その人物は手元のナイフを見る。
これで最後だ。全て終わるんだ。
大きく息を吸って呼吸を整え、汗ばんだその手で、ナイフをしっかりと握り直した。