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幕間 壱
昼下がり。その人物は一軒の家を見ている。
一階の奥の部屋で、張間千秋と迫田英治が何か話しているのがカーテンの隙間から見える。おそらく、先日の事件で傷心している張間千秋を迫田英治が慰めているのだろう。
ふつふつと黒い感情が腹の底から込み上げてくる。
迫田英治が側にいる限り、自分は彼女に手を出すことはできないのだ。
カーテンが邪魔で中の様子がよく見えないのがもどかしい。
近くで人の話し声が聞こえ、自分が無意識の内に体を乗り出していることに気がつく。
その人物は、慌てて着ているレインコートのフードを目深に被り、顔を隠す。
焦るな、今は我慢だ。
あの男がいなくなるまで待つんだ。
こんなにも近くにいながら、今は様子を伺うことしかできないのが歯痒い。
チャンスはきっと来る。
今は、我慢だ。
その人物は、両手を強く握りしめた。