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魔王、辞めます。  作者: 稲生景


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48/50

元魔王、親友の結婚式に参列すⅢ

 ――夜。


 竜王城の庭園にて、盛大な結婚パーティーが執り行われていた。


「ハハハハハッ! それでは、今日というめでたい日と――グレンとヴィオラちゃんに訪れる幸せに、乾杯!」


『『『『乾杯ーっ!』』』』


 バジュラがグラスを掲げると、参列者たちも一斉に杯を掲げ、祝福の声を上げた。

 それから人々は思い思いに食事を楽しみ、談笑しながら宴の時間を満喫していく。


「兄様っ! どのお料理も本当に美味しいですね!」

「そうだな。……ほら、レティ。あーん」

「えっ、兄様!? こ、こんな人の多いところで……」

「構わんだろう。……さ、口を開けて」

「あ、あーん……」

「ロスト様……」

「……あの人、羞恥心とか無いよね」

「今さらすぎるけどねー」


 ロストがレティに料理を食べさせている横で、ラピスはフォークに刺した肉を男の姿に戻ったゼノムに無理やり突きつけていた。


「はいゼノムちん、あーん♡」

「要りません」

「もー、照れ屋さんなんだから〜。婚約者なんだから、恥ずかしがらなくていいのに〜」

「……」

「……あっちはあっちで相変わらずだな」

「だねー」

「うふふ、ラブラブやな〜♪」


 そんな中、グレンとヴィオラがロストたちのもとへとやってくる。


「ロスト、レティさん。楽しんでくれてるか?」

「はい! とっても楽しいです、グレンさん、ヴィオラさん!」

「お義姉ちゃーん!」


 ラピスはゼノムからぴょんと離れてヴィオラに抱きつき、ゼノムは小さく安堵の息をついた。


「今日のお義姉ちゃん、ほんっとーに綺麗だったよ〜! ね、レティちん!」

「はい……思わず見惚れてしまいました」

「ふふっ、そう言ってもらえて嬉しいわ♪」

「確かに、今日のヴィオラは世界一美しかったからな……」

「グレン……」


 グレンとヴィオラは見つめ合い、そっと尻尾を絡め合う。


「きゃーっ! お兄ちゃんたち熱々だねーレティちん!」

「で、ですね……あわわ……」


 その後もグレゴリアやガルド、バジュラ、ルピア、ヴァルディたちが合流し、宴は笑い声とともに夜更けまで続いた。




 ――そして翌日。

 蟻人たちは荷物やお土産を大きな箱に積み込み、その近くでロストとグレンがしっかりと握手を交わしていた。


「ロスト、次に会ったときは必ず勝つからな」

「ハッ、いや、俺が勝ち越してやるさ」


 一方、グレゴリアはレティをぎゅっと抱きしめていた。


「レティちゃん、ごめんね。まだ少し用事があって、一緒には帰れないんだ……」

「……でも、私はロストの家に帰るから、結局一緒じゃないけどね」

「お、お母さん……ちょっと、苦しいです……」

「あっ、ごめんごめん、つい抱きしめたくなって……」

「ハハハッ! 仲がいいのは良いことだな!」


 別れの挨拶を終え、ロストとレティはクロに跨がり、蟻人たちも箱の中へと収まる。


「……そういえば、ゼノムはどうした? 姿が見当たらないが?」


 ロストの問いに、ロウズが苦笑しながら答えた。


「ゼノム様なら……おそらくラピス様から逃げ回っておられます」

「……なるほど、ラピスの姿が見えないと思ったら、そういうことか。別れの挨拶くらいはしたかったが……仕方ないな。行くぞ、クロ!」

「グルルゥ!」


 ロストの合図で、クロが大きく翼を広げ、空へと舞い上がる。

 風を切って飛びゆくその背に、二人の姿が揺れる。


 レティは空から遠ざかっていく竜王城を振り返りながら、静かに口を開いた。


「……たくさん、楽しいことがありましたね、兄様」

「ああ。またみんなで来ような」

「はい、兄様!」


 柔らかな風が頬を撫でる中、ロストとレティはお互いに微笑み合いながら、空の彼方へと旅立っていった。

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