元魔王、親友の結婚式に参列すⅢ
――夜。
竜王城の庭園にて、盛大な結婚パーティーが執り行われていた。
「ハハハハハッ! それでは、今日というめでたい日と――グレンとヴィオラちゃんに訪れる幸せに、乾杯!」
『『『『乾杯ーっ!』』』』
バジュラがグラスを掲げると、参列者たちも一斉に杯を掲げ、祝福の声を上げた。
それから人々は思い思いに食事を楽しみ、談笑しながら宴の時間を満喫していく。
「兄様っ! どのお料理も本当に美味しいですね!」
「そうだな。……ほら、レティ。あーん」
「えっ、兄様!? こ、こんな人の多いところで……」
「構わんだろう。……さ、口を開けて」
「あ、あーん……」
「ロスト様……」
「……あの人、羞恥心とか無いよね」
「今さらすぎるけどねー」
ロストがレティに料理を食べさせている横で、ラピスはフォークに刺した肉を男の姿に戻ったゼノムに無理やり突きつけていた。
「はいゼノムちん、あーん♡」
「要りません」
「もー、照れ屋さんなんだから〜。婚約者なんだから、恥ずかしがらなくていいのに〜」
「……」
「……あっちはあっちで相変わらずだな」
「だねー」
「うふふ、ラブラブやな〜♪」
そんな中、グレンとヴィオラがロストたちのもとへとやってくる。
「ロスト、レティさん。楽しんでくれてるか?」
「はい! とっても楽しいです、グレンさん、ヴィオラさん!」
「お義姉ちゃーん!」
ラピスはゼノムからぴょんと離れてヴィオラに抱きつき、ゼノムは小さく安堵の息をついた。
「今日のお義姉ちゃん、ほんっとーに綺麗だったよ〜! ね、レティちん!」
「はい……思わず見惚れてしまいました」
「ふふっ、そう言ってもらえて嬉しいわ♪」
「確かに、今日のヴィオラは世界一美しかったからな……」
「グレン……」
グレンとヴィオラは見つめ合い、そっと尻尾を絡め合う。
「きゃーっ! お兄ちゃんたち熱々だねーレティちん!」
「で、ですね……あわわ……」
その後もグレゴリアやガルド、バジュラ、ルピア、ヴァルディたちが合流し、宴は笑い声とともに夜更けまで続いた。
――そして翌日。
蟻人たちは荷物やお土産を大きな箱に積み込み、その近くでロストとグレンがしっかりと握手を交わしていた。
「ロスト、次に会ったときは必ず勝つからな」
「ハッ、いや、俺が勝ち越してやるさ」
一方、グレゴリアはレティをぎゅっと抱きしめていた。
「レティちゃん、ごめんね。まだ少し用事があって、一緒には帰れないんだ……」
「……でも、私はロストの家に帰るから、結局一緒じゃないけどね」
「お、お母さん……ちょっと、苦しいです……」
「あっ、ごめんごめん、つい抱きしめたくなって……」
「ハハハッ! 仲がいいのは良いことだな!」
別れの挨拶を終え、ロストとレティはクロに跨がり、蟻人たちも箱の中へと収まる。
「……そういえば、ゼノムはどうした? 姿が見当たらないが?」
ロストの問いに、ロウズが苦笑しながら答えた。
「ゼノム様なら……おそらくラピス様から逃げ回っておられます」
「……なるほど、ラピスの姿が見えないと思ったら、そういうことか。別れの挨拶くらいはしたかったが……仕方ないな。行くぞ、クロ!」
「グルルゥ!」
ロストの合図で、クロが大きく翼を広げ、空へと舞い上がる。
風を切って飛びゆくその背に、二人の姿が揺れる。
レティは空から遠ざかっていく竜王城を振り返りながら、静かに口を開いた。
「……たくさん、楽しいことがありましたね、兄様」
「ああ。またみんなで来ような」
「はい、兄様!」
柔らかな風が頬を撫でる中、ロストとレティはお互いに微笑み合いながら、空の彼方へと旅立っていった。




