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魔王、辞めます。  作者: 稲生景


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47/50

元魔王、親友の結婚式に参列すⅡ

 

 バジュラとの話を終えたヴァルディが、ゆっくりとロストたちのもとへ歩み寄ってきた。


「これはこれは、ロスト様にゼノム様。本日は、我が娘の結婚式にご参列いただき、誠にありがとうございます」

「おはようございます、ヴァルディ殿」

「良い式になるといいですね」

「ええ、心からそう願っています」


「ヴァル小父さん、おはよー! あ、もう“お義父さん”って呼ぶべきかな?」

「おはよう、ラピスちゃん。ふふ、まだちょっと気が早いんじゃないかな? ん? そちらのお嬢さんは……?」


「は、初めまして……レティ・モナークと申します」

「ああ、君が噂のロスト様の……」


 ヴァルディはしゃがんでレティの目線に合わせると、優しく右手を差し出した。


「初めまして、ヴァルディ・フォルテです。この前は、うちの店に来てくれたそうだね?」

「は、はい! 竜泉饅頭、とっても美味しかったです!」

「ふふふ……そう言ってもらえると嬉しいよ」

「あの……ヴィオラさんのお母様は、どちらにいらっしゃいますか? ご挨拶をしたいのですが……」

「あー……レティちん、それはね、ヴァル小父さんの奥さんは――」

「……妻には、十年前に先立たれてね」


 その言葉を聞いたレティは、ハッと表情を曇らせ、慌てて頭を下げた。


「……ご、ごめんなさい! 私、無神経なことを……」

「気にすることはないよ。確かに妻はもうこの世にはいないが、その存在は、今も私の心の中で生き続けている」

「心の中で、生き続けている……」

「ヴァルディ様、そろそろ式が始まります。ヴィオラ様とご準備を」

「うむ、わかった。それでは皆様、また後ほど……」


 そう言って、ヴァルディは静かにチャペルの中へと入っていった。

 その背を見送ったレティは、胸元に手を当て、何かを考え込むように立ち尽くしていた。


「レティ、どうかしたか?」

「っ……い、いえ。ちょっとぼーっとしていただけです」

「……そうか。じゃあ、行こうか」


 ロストがレティの手を取り、共に歩き出す。


 その様子を、ラピスが抱きつこうとするのを片手でいなしながら、羨望と殺意半分の目で睨みつけるゼノムであった。


 チャペルの中では、ロストたちや招待客が長椅子に並び、式の始まりを静かに待っていた。


「皆様、ご静粛に……。新郎の入場です」


 その声とともに扉が開き、真紅のマントを羽織ったグレンが堂々と中央通路を歩み、司祭の前に立つ。


「続きまして、新婦の入場です」


 今度は、ヴァルディにエスコートされたヴィオラが姿を現した。


 いつもの着物姿とはまったく異なる、純白のウェディングドレスに身を包み、手には華やかなウェディングブーケを抱えている。


 その美しさに、参列者たちの間から思わず感嘆の声が漏れた。


「ヴィオラさん、綺麗……」

「だよね〜! さっすがお義姉ちゃん!」


 ヴァルディはゆっくりと通路を進み、グレンのもとへ娘の手を引き渡す。そして、司祭が聖書の一節を読み上げた後、誓いの言葉が告げられる。


「汝、グレンよ。ヴィオラを妻とし、病める時も健やかなるときも、死が二人を分かつまで愛し続けることを誓いますか?」

「誓おう」

「汝、ヴィオラよ。グレンを夫とし、病める時も健やかなるときも、死が二人を分かつまで愛し続けることを誓いますか?」

「誓います」

「では、誓いの口づけを」


 グレンとヴィオラは向き合い、そっと顔を近づける。互いの尻尾を絡め合わせながら、静かに唇を重ねた。


「――我らが竜人の父であり母である竜神の名のもとに、汝ら二人を正式な夫婦と認める」


 その荘厳な言葉とともに、チャペル内は一斉に温かな拍手に包まれた。





 やがてチャペルの扉が開き、参列客たちは続々と外へと出てきた。皆が新郎新婦の登場を今か今かと待ち構えている。


「兄様、参列されていた女性の方々が集まって、何やら準備運動をされているようですが……これから何が始まるのですか?」

「ん? ああ、あれは花嫁のブーケトスだよ」

「ブーケトス……申し訳ありません、私、その習慣は知りませんでした」


「結婚式の終わりに、花嫁がウェディングブーケを後ろ向きに投げるんだー。それをキャッチした未婚の女性は、次に結婚できるって言われてるの♪ しかも、王族の結婚式のブーケトスを受け取った人は、みんな幸せになってるっていうジンクスまであるんだよ!」


「なるほど、だから皆さんあれほど気合が入っているのですね」


「……そう言えば、ゼノムの姿が見えないな?」


 ロストが近くにいた蟻人たちに尋ねる。


「それが……先ほどからお姿が確認できなくて……」

「そう言われてみれば、本当に見かけませんね」

「どこに行っちゃったんでしょうね〜?」


 そんな中、チャペルの扉が再び開き、新郎グレンと花嫁ヴィオラが姿を現すと、場内に拍手が巻き起こった。


「それじゃあ投げるさかい。みんな、準備はええかぁ? ――せーのっ!」


『『うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!』』


 ヴィオラがブーケを高く掲げて放り投げると、同時に未婚女性たちが一斉に翼を広げて空へと舞い上がった!


 その気迫と迫力に、レティは思わず身をすくめる。


「あ、あわわ……」

「うむ、いつ見てもすさまじいな」

「本当に……」

「皆さん、年頃ですからね」


 空中で激しく競り合う女性たち――だがその中で、ひときわ異質な存在がいた。下から地を蹴って跳躍し、竜人女性たちを押しのけて一直線にブーケを目指す、その人物は――


「どけどけぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! そのブーケは私のものだぁぁぁぁぁっ!!」


「ゼ、ゼノム!?」

「ゼノム様!?」

「いないと思ったら……また女性の姿に!?!?」


 そう、ブーケに手を伸ばしていたのは、性転換の薬を使用して女性になったゼノムだったのだ!


「このブーケさえ手に入れれば……私は兄上との幸せを――ぶはぁっ!?」


 その瞬間、上空からラピスが現れ、なんとゼノムの顔面を踏み台にして飛び越えた!


「ラ……ピスぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」


 ゼノムは怒号を上げながら落下し、ラピスはその勢いのままブーケをキャッチ――


 ……と思いきや、


「あー! いけない、手が滑っちゃった〜♪」


 ラピスはにこやかに言いながら、わざとらしくブーケを手放す。それはひらひらと落下し――その下にいたレティの手に、すっぽりと収まった。


「えっ? あの、えっと……」

「レティちん、おめでとー! 今のはもう完全にレティちんのものだよー♪」


 着地したラピスが、ウィンクと共に親指を立てて祝福する。


「で、でもあれはラピス様が……」

「いや〜、あそこで手を滑らせちゃうなんて、私もまだまだだな〜♪」

「ラピス様……」

「大丈夫だよ。私はもう婚約者がいるし、幸せを分けてあげなきゃね♪ レティちん、絶対幸せになってね!」

「まったく、あいつは……」

「ふふ、ラピスちゃんらしいわね」

「何はともあれ、最後に手にしたのはお前だ。堂々と受け取れ」

「兄様……はい、分かりました!」


 こうして、最後にひと騒動はあったものの――


 グレンとヴィオラの結婚式は、無事に幕を閉じたのだった。




 簡易キャラ紹介

 グレゴリア・モナーク

 年齢:47歳

 ロストとゼノムの母親。

 かつてベルパニア王国の一員として勇者と共に魔王討伐へ挑むも敗北し、その後、生き延びた末に魔王ガルドと結婚。

 可愛いものに目がなく、特にレティを溺愛している。

 普段は凛とした人物だが、ガルドと二人きりになると甘える一面も。


 ガルド・モナーク

 年齢:50歳

 ロストとゼノムの父親。

 寡黙かつ不器用で、言葉足らずなところがある。

 グレゴリアほどではないが、レティに甘い。

 妻と二人きりの時には意外とよく喋る。


 バジュラ・ザーク

 年齢:50歳

 竜王国ザークの現国王。グレンとラピスの父親。

 陽気で親しみやすく、いつも笑っている。

 ガルドとは旧知の親友で、ゼノムがラピスに想いを寄せることにも寛容であり、ゼノムの頭痛の種。


 ルピア・ザーク

 年齢:46歳

 竜王国の王妃で、グレンとラピスの母親。

 おっとりした性格で、夫とはグレンも呆れるほどのラブラブ夫婦。

 めったに怒らないが、怒らせると手がつけられないらしい。


 ヴァルディ・フォルテ

 年齢:52歳

 ヴィオラの父で、「竜泉饅頭フォルテ屋」の大旦那。

 仁義を重んじ、礼節を忘れない人物。

 顔の傷は、実は昔、妻との喧嘩でつけられたもの。

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