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魔王、辞めます。  作者: 稲生景


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46/50

元魔王、親友の結婚式に参列すⅠ

 ――結婚式当日。


 空は雲ひとつない快晴。まさに、結婚式にはこれ以上ない日和だった。


「ロスト様、そろそろグレン様たちの式が始まっちゃいますよー!」

「ああ、すぐに行く」


 蟻人たちに急かされながら、ロストは紺色のスーツに白のネクタイを締めて、部屋を出た。


「うむ……スーツなんて久しぶりに着たから、少し手間取ってしまったな」

「仕方ありませんよ。魔王をお辞めになってから、もうだいぶ経ちますしね」

「僕たちもスーツなんて久々だよねー」


 蟻人たちは皆、上半身に黒いスーツを着ていた。


「まあ、我々は外骨格だから、普段は衣服の必要がないしな」

「うむ。常に“裸”だから、この光景はなかなか新鮮だ」


「「「「「その言い方はやめてください……」」」」」


「兄様ー!」


 声に振り返ると、レティがこちらへ歩いてくる。


「「「「「おお〜っ」」」」」


 今日のレティは水色を基調としたワンピースに、紺のボレロを羽織り、藍色のヒールを履いていた。普段より少し大人びた雰囲気の装いである。


「レティ様、とてもお綺麗です」

「本当に……今日は“可愛らしい”というより、“美しい”と言った方がふさわしいな」

「あ、ありがとうございます。この服はラピス様が選んでくださって……」

「ラピス様、センス良いねー! ねぇ、ロスト様?」

「ああ。いつもの格好も好きだが、今日の姿もとても似合っている」


 ロストの言葉に、レティは照れくさそうに頬を染める。


「あ、兄様ったら……。兄様も、今日はいつもと違って、すごく素敵です」

「ありがとう。それじゃあ、そろそろ皆でチャペルへ向かおうか」


 ロストたちは城内のチャペルへと向かって歩き始めた。


 チャペル前に到着した頃、黒いスーツ姿のゼノムとロウズが近づいてくる。


「兄上、おはようございます。良い天気ですね」

「うむ、まさに式日和だな……ん? ゼノム、目の下に少し隈が……?」

「お気になさらず。ですが、守り抜きましたよ」

「……?」


 ロストが首を傾げる一方で、ロウズは事情を察しているらしく、苦笑していた。


「ロストちん! レティちん! ゼノムちーん!」


 陽気な声が響き、隈の原因と思しき人物が笑顔で近づいてきた。ゼノムのこめかみに青筋が浮かぶ。


「ハハハハハハ! 皆、集まってるね!」

「晴れてよかったわね〜♪」

「絶好の結婚式日和だ。なあ、ガルド?」

「……ああ、まったくだな」

「ラピス様、バジュラ様、それにルピア様、お母様、お父様も!」


 ザーク家とモナーク家の面々が続々と到着する。


 グレゴリアは情熱的な赤のドレスに身を包み、ガルドはロストと同じく紺のスーツを着ていた。


 ラピスとルピア王妃は、おそろいの青いドレスに身を包んでいる。

 バジュラ王は黒のズボンに、上半身には格式高いマントを羽織っていた。


 竜人族の衣装には特徴がある。女性は翼のために背中が大きく開いたデザインになり、男性は大柄な体格を活かし、上からマントを羽織るスタイルが主流である。


「レティちゃん……な、なんて愛らしい姿なの……!」

「えへへ〜。私が選んであげたんだよ〜♪ ね、小母様!」

「ナイスだよ、ラピスちゃん!」

「……グッジョブ」

「えへへー♪」


 グレゴリアとガルドが親指を立てて称えると、ラピスは嬉しそうに微笑んだ。


 一同が和やかに談笑していると、竜人族の男性が一人、こちらへ近づいてきた。


 年の頃は五十代、身の丈は三メートル半。全身を覆う薄紫の鱗、そして顔の右半分に刻まれた大きな爪痕が、強烈な威圧感を放っている。


「国王様、王妃様、おはようございます」

「おお、ヴァルディ殿! おはよう!」

「本日は、何卒よろしくお願いいたします」

「ハハハハハ、こちらこそ、よろしく頼むよ!」


 国王とその男性が談笑する傍らで、レティがラピスにそっと尋ねた。


「ラピス様……もしかして、あの方が……?」

「うん、そうだよ〜。あの人がヴィオラちゃんのお父さん――ヴァルディ・フォルテさんだよ」

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