元魔王、親友の結婚式に参列すⅠ
――結婚式当日。
空は雲ひとつない快晴。まさに、結婚式にはこれ以上ない日和だった。
「ロスト様、そろそろグレン様たちの式が始まっちゃいますよー!」
「ああ、すぐに行く」
蟻人たちに急かされながら、ロストは紺色のスーツに白のネクタイを締めて、部屋を出た。
「うむ……スーツなんて久しぶりに着たから、少し手間取ってしまったな」
「仕方ありませんよ。魔王をお辞めになってから、もうだいぶ経ちますしね」
「僕たちもスーツなんて久々だよねー」
蟻人たちは皆、上半身に黒いスーツを着ていた。
「まあ、我々は外骨格だから、普段は衣服の必要がないしな」
「うむ。常に“裸”だから、この光景はなかなか新鮮だ」
「「「「「その言い方はやめてください……」」」」」
「兄様ー!」
声に振り返ると、レティがこちらへ歩いてくる。
「「「「「おお〜っ」」」」」
今日のレティは水色を基調としたワンピースに、紺のボレロを羽織り、藍色のヒールを履いていた。普段より少し大人びた雰囲気の装いである。
「レティ様、とてもお綺麗です」
「本当に……今日は“可愛らしい”というより、“美しい”と言った方がふさわしいな」
「あ、ありがとうございます。この服はラピス様が選んでくださって……」
「ラピス様、センス良いねー! ねぇ、ロスト様?」
「ああ。いつもの格好も好きだが、今日の姿もとても似合っている」
ロストの言葉に、レティは照れくさそうに頬を染める。
「あ、兄様ったら……。兄様も、今日はいつもと違って、すごく素敵です」
「ありがとう。それじゃあ、そろそろ皆でチャペルへ向かおうか」
ロストたちは城内のチャペルへと向かって歩き始めた。
チャペル前に到着した頃、黒いスーツ姿のゼノムとロウズが近づいてくる。
「兄上、おはようございます。良い天気ですね」
「うむ、まさに式日和だな……ん? ゼノム、目の下に少し隈が……?」
「お気になさらず。ですが、守り抜きましたよ」
「……?」
ロストが首を傾げる一方で、ロウズは事情を察しているらしく、苦笑していた。
「ロストちん! レティちん! ゼノムちーん!」
陽気な声が響き、隈の原因と思しき人物が笑顔で近づいてきた。ゼノムのこめかみに青筋が浮かぶ。
「ハハハハハハ! 皆、集まってるね!」
「晴れてよかったわね〜♪」
「絶好の結婚式日和だ。なあ、ガルド?」
「……ああ、まったくだな」
「ラピス様、バジュラ様、それにルピア様、お母様、お父様も!」
ザーク家とモナーク家の面々が続々と到着する。
グレゴリアは情熱的な赤のドレスに身を包み、ガルドはロストと同じく紺のスーツを着ていた。
ラピスとルピア王妃は、おそろいの青いドレスに身を包んでいる。
バジュラ王は黒のズボンに、上半身には格式高いマントを羽織っていた。
竜人族の衣装には特徴がある。女性は翼のために背中が大きく開いたデザインになり、男性は大柄な体格を活かし、上からマントを羽織るスタイルが主流である。
「レティちゃん……な、なんて愛らしい姿なの……!」
「えへへ〜。私が選んであげたんだよ〜♪ ね、小母様!」
「ナイスだよ、ラピスちゃん!」
「……グッジョブ」
「えへへー♪」
グレゴリアとガルドが親指を立てて称えると、ラピスは嬉しそうに微笑んだ。
一同が和やかに談笑していると、竜人族の男性が一人、こちらへ近づいてきた。
年の頃は五十代、身の丈は三メートル半。全身を覆う薄紫の鱗、そして顔の右半分に刻まれた大きな爪痕が、強烈な威圧感を放っている。
「国王様、王妃様、おはようございます」
「おお、ヴァルディ殿! おはよう!」
「本日は、何卒よろしくお願いいたします」
「ハハハハハ、こちらこそ、よろしく頼むよ!」
国王とその男性が談笑する傍らで、レティがラピスにそっと尋ねた。
「ラピス様……もしかして、あの方が……?」
「うん、そうだよ〜。あの人がヴィオラちゃんのお父さん――ヴァルディ・フォルテさんだよ」




