元魔王、両親と再会すⅣ
長い間待たせてしまい申し訳ありませんでした。
「勇者って……お母さんは、ラックさんみたいな方と一緒に旅をしていたんですか?」
「おや、レティちゃん。もしかして、勇者のひとりと知り合いなのかい?」
「はい。兄様のもとで、岩を持ち上げたり畑を耕したりしています」
「……ロストめ、手紙ではレティちゃんのことしか書いていなかったのに……」
グレゴリアは額に手を当て、深いため息をついた。
「……まあ、その話は後でロストから詳しく聞くとして。私は十七の頃、勇者の仲間として魔王討伐の命を受け、旅立ったのさ」
「えっ……どうして、お父さんを倒そうとしたんですか?」
「あの頃の私は、魔王を討伐することが世界平和に繋がると信じていたからね。……でも、当時の勇者がとんでもない奴でね。仲間全員に手を出すわ、立ち寄った村でも女の子にちょっかいをかけようとするわの、どうしようもない好色野郎だったんだよ。なのに妙に強いから始末に負えなかった」
「ぜ、全員ってことは……お母さんにも……?」
「ああ。私にも手を出そうとしてきたから、半殺しにしてやったけどね。それに、そんなことばっかりしてるから、魔王城にたどり着くのに二年もかかったのさ……」
グレゴリアは苦笑しながら、遠い日の記憶をたどる。
「そして、ついに私たちは魔王城へ突入。四天王との激闘を経て、なんとか勝ち抜き――最後に、魔王……ガルドと対峙したんだ」
「それが、お父さんとの出会いだったんですね」
「そうさ。私たちはガルドと戦った……けれど、私以外の仲間は次々に倒れ、最後には私ひとりが残された。それでも私は全身全霊を懸けて戦い抜いた……だけど、たった一撃を与えるのが精いっぱいで、結局敗北した。死を覚悟したけど……この男は、私を生かしたのさ。なぜだと思う?」
グレゴリアの問いに、レティは小首を傾げて考え込む。
「……どうしてでしょう?」
「『美しかったから』――だそうだ」
「美しかったから?」
「そう。ガルドは私の戦う姿を美しいと感じて、気に入ったから傍に置きたい、と言ったのさ。あのときは『この男は何を言っているんだ?』と心底呆れたよ」
グレゴリアが肩をすくめると、隣にいたガルドが口を開いた。
「……俺は、本当に心からそう思ったんだ。君の戦う姿は、見惚れるほどに美しかった」
「見惚れていたせいで、私の一撃を喰らったんだって聞かされたときは、本当に呆れたよ……」
「見惚れただけじゃない。君の姿を見て、今までに感じたことのない胸の高鳴りを覚えた。……グレゴリアと一緒にいれば、もう一度その高鳴りを味わえると思ったんだ」
「ふふっ。兄様が私を妹にしてくれた時と、よく似ていますね」
「「「「確かに」」」」
レティの言葉に、蟻人たちが一斉にうなずいた。
「ロストちんの突拍子のなさは、小父様ゆずりだよね~♪」
「あまり似てほしくなかったんだがね……まあ、それから私は無理やり魔王城に住むことになり、暮らすことになった。最初は、逃げるか寝首をかこうと思ってたんだ。でも、ガルドと一緒に過ごすうちに、そんな気も失せてしまってね……」
グレゴリアの表情には、どこか懐かしげな微笑が浮かんでいた。
「そして二年後、ガルドは胸の高鳴りの正体に気づいて、私にプロポーズしてきたのさ。――それが、私たちの馴れ初めというわけ」
「めでたしめでたし~♪ ってことだね!」
「……? プロポーズしたのは、グレゴリアのほうでは――っつ!?」
何か言いかけたガルドの左手を、グレゴリアが無言で抓った。
「……はい、これで私とガルドの馴れ初めはおしまいだ。あまり面白くなかっただろう?」
「そんなことありません! お父さんとお母さんのことが知れて、とっても面白いお話でした!」
「そうかい。それなら、話した甲斐があったよ」
レティの笑顔に、グレゴリアは凛とした笑みで応えた。
そのとき、ダイニングの扉が開いた。
「失礼します」
ロストとグレンが入ってくる。
「兄様! 勝負はもう終わったんですか?」
「ああ。今回はかけっこで勝負したんだが、また引き分けになってしまってな……」
「早く決着をつけたいのだがな……」
「ロスト、それにグレン君。久しぶりだね」
「……元気だったか?」
「母上、父上。お久しぶりです。お元気そうで何よりです」
「キンとギンの鳴き声が聞こえたので、城の者に尋ねたらこちらにいると聞いて、急いできました」
「そうか。……だが、その前に一つ言っておこう」
「「え?」」
グレゴリアは鼻をつまみ、ロストたちを睨みつけた。
「臭い! 汗臭いぞ、二人とも! 急いで来るのはいいが、運動した後なら汗くらい流して来い!」
「す、すみません……ロスト、水浴びに行くぞ」
「ああ。――母上、すぐに戻るので」
ロストとグレンは慌ただしく退室し、大浴場へと向かっていった。
「まったく……ロストは相変わらず細かい気配りができないようだ。……また鍛え直してやろうかね」
「ははは……そうだ、お母さん。兄様の子供の頃のお話、聞かせてもらえませんか?」
「ロストの子供時代の話?」
「はい。私、兄様のことをもっと知りたいんです」
「ふふ……いいとも。それじゃあ、何歳の頃から話そうかね……」
グレゴリアは目を細めながら思い出に浸り、レティは楽しそうに微笑みながら、その話に耳を傾けた。




