元魔王、両親と再会すⅢ
「うん、やはり竜泉饅頭は美味しいな」
「……土産に何個か買っておくか?」
「そうしよう。城の者たちの分も用意しないとな」
ダイニングルームで竜泉饅頭を味わいながら、土産の相談をするグレゴリアとガルド。
「だったら、私がヴィオラちゃんのお店に頼んできますよー」
「本当かい? ありがとう、ラピスちゃん。助かるよ」
「えへへ〜」
「レティちゃん、竜泉饅頭は美味しいかい?」
グレゴリアが左隣で饅頭を頬張っているレティに微笑みながら声をかける。
「はい! 昨日も食べましたけど、本当に美味しくて、いくつでも食べられそうです!」
「本当に可愛いなぁ、レティちゃんは……」
満面の笑顔で答えるレティを見て、グレゴリアは思わず頬を緩めた。
「グレゴリア様、顔、顔」
「だらしない顔になってますよ〜」
「本当に、レティ様のことが気に入ったんですねー」
「当たり前だろう。こんなに可愛い娘を気に入らないなんて、ありえないからな!」
「グレゴリア様が相変わらずで、私たちも安心しました」
「……」
グレゴリアと蟻人たちのやりとりを、レティは興味深そうに見つめていた。
「やっぱり皆さん、お母さんたちと話しているときはとても嬉しそう……。そういえば、さっき言っていた“命の恩人”って、どういうことなんですか?」
「言葉通りの意味ですよ。私たちは、グレゴリア様とガルド様に救われたんです」
「救われた、って……?」
「ええ。私たち蟻人は、女王を中心に雌が働く種族。雄の私たちは、基本的に子孫を残す以外の役割がないのです」
「そして冬が来ると、雄は“口減らし”として巣を追い出されてしまうんです」
「そんな……」
「仕方のないことです。何の役にも立たない私たちは、ただの負担にしかなりませんから」
「それで、私たちは生き延びるために野盗となって、集落や通りがかった馬車を襲って食料を得ながら彷徨っていました」
「人に危害を加えたことはなかったけど……でも、今思い出しても悪いことをしてたよねー」
「そんなある日、とある村を襲ったとき――私たちはグレゴリア様とガルド様に出会ったのです」
「それで……お母さんたちに諭されて、悪事から手を引いたんですね?」
レティの言葉に、蟻人たちは気まずそうに視線を落とした。
「……いえ、ボッコボコに叩きのめされました……」
「あの時は本当に死ぬかと思った……」
「今思い出しても身震いするよね〜」
その言葉に、グレゴリアが懐かしそうに目を細めた。
「あの頃はちょっとハイになってたからな。いやぁ、よく暴れたものだ……」
「あ、あはは……」
レティは引きつった笑みを浮かべながら、返事をした。
「でも、そのとき半殺しにされた私たちに、グレゴリア様は言ったんです……『暇なら城で働かないか?』って」
「そうして、私たちは城で働き始めました。最初は色々大変でしたが……今ではとても充実した生活です」
「で、一年後にロスト様が生まれて、私たちが世話係になったんだよね〜」
「グレゴリア様たちに出会わなければ、今の私たちはありませんでした。本当に恩人なんです」
「……皆さんも、私が兄様に助けられたように、お母さんたちに助けられたんですね……」
「その通りです」
「私たちは、グレゴリア様とガルド様を心から敬愛しています」
蟻人たちの言葉を聞いて、グレゴリアは照れたように人差し指で頬をかいた。
「まったく……そう言われると照れるではないか……なぁ、ガルド……? ガルド?」
グレゴリアが右隣を振り返ると、ガルドは口いっぱいに竜泉饅頭を詰め込んで黙々と食べていた。
「ガルド!」
「っ!?」
突然怒鳴られ、ガルドは驚いた拍子に饅頭を喉に詰まらせたらしく、右手で胸をどんどん叩きながら、近くの魔茶を一気に飲み干した。
「いい歳して、リスのように口いっぱいに食べ物を詰め込むな!」
「……すまない。美味しくて、つい夢中になってしまってな……」
「はぁっ……お前という奴は昔から……そもそもな……」
グレゴリアに叱られ、ガルドは肩を落としてしょんぼりとしていた。
「お、お母さん、そんなに怒らなくてもいいんじゃないですか?」
「そうか? ……まあ、レティちゃんに免じてこのくらいで許してやろう。だが次からは、もう少し食べ方を考えるんだぞ」
「……分かった」
「小父様は、相変わらず小母様には頭が上がらないねー」
「ははは……。そういえば、お父さんとお母さんは、どうやって出会ったのですか?」
レティの問いに、グレゴリアとガルドが顔を見合わせる。
「私とガルドは、城で出会ったんだ。敵同士として、ね」
「敵同士……?」
「ああ。今から27年前――私は“ベルパニア”という国の、1399人目の勇者の仲間として、ガルドと戦ったのさ」




