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魔王、辞めます。  作者: 稲生景


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39/50

元魔王、両親と再会すⅡ

「えっと、あの……」

「そんなに緊張しなくていいよ。ふふ、本当に可愛らしい子だね……」


 グレゴリアが右手を伸ばし、レティの頬にそっと触れる。


「ロストから君のことを手紙で聞いていたよ。ボロボロの姿で森に倒れていたんだってね」

「……」


 レティは黙り込み、目を伏せた。


「ロストと出会う前は、本当に辛い思いをしてきたんだろうね……でも、もう安心していい。これからは私たちの娘だよ。私のことは、本当の母親だと思ってくれてかまわない」


「本当の……母……?」


 レティが顔を上げてグレゴリアを見ると、彼女は優しい笑みを浮かべていた。


「さあ、呼んでごらん。“お母さん”って」

「お母さん……」

「そう、私はレティちゃんのお母さんよ」

「お母さん……お母さんっ!」


 レティは眩しいほどの笑顔で、何度も「お母さん」と呼びかけた。


「……はぁああ、た、堪らないぐらい可愛いっ!」

「きゃっ!?」


 グレゴリアはたまらず、レティを抱きしめた。


「なんて可愛いの、レティちゃん! ずっと娘が欲しかったけど、まさかこんなに可愛い子が私の娘になるなんて、私は世界一幸せだわ!」

「あ、あわわわわ……!」


 突然の抱擁にレティは慌てふためく。


「グレゴリア様! レティ様が驚いていらっしゃいます!」

「どうやらレティ様の可愛らしさが、グレゴリア様のド直球の好みに刺さったようだな」

「ほんと、グレゴリアさんって昔から可愛いものに目がないよねー」


 そのままグレゴリアはレティを抱きしめ続け、ようやく五分後に冷静さを取り戻してレティを離した。


「……ごめんね、レティちゃん。可愛いものを前にすると、つい自制がきかなくて……」


 グレゴリアは人差し指で頬を掻きながら、少し照れたように謝る。


「いえ、大丈夫です。むしろ、お母さんに抱きしめてもらえて嬉しかったです」

「! い、いかん……またあの笑顔を見たら自制が……落ち着け、私……!」


 グレゴリアは再びレティを抱きしめそうになる衝動を、なんとか理性で抑え込んでいた。

 そんな中、今まで黙って立っていたガルドが、ゆっくりとレティの方へ歩み寄った。


「え、えっと……兄様のお父さん……は、初めまして……」


 ガルドの威圧的な雰囲気に気圧されたのか、レティは一歩後ずさる。


「……」


 ガルドは無言のまま、大きな右手をレティに向けて差し出した。


「ひっ……」


 レティは思わず目をつむってしまう。


 しかし、その手は――レティの頭にそっと置かれ、優しく撫でた。


「……?」


 恐る恐る目を開けたレティに、ガルドは小さく呟いた。


「……パパと、呼んでもいいんだぞ?」

「……えっ?」


 レティが呆気に取られていると、グレゴリアがガルドの体を叩いた。


「ガルド! 何をしてるの、レティちゃんを怖がらせてどうするの!」

「……すまない。どう接していいのか、わからなかったんだ……」

「まったく……ほんとに不器用で口下手なんだから……。ごめんね、レティちゃん。この馬鹿が怖がらせてしまって……」

「大丈夫です。最初は少し怖かったですけど……でも、大きな手で頭を撫でてもらった時、すごく優しい人なんだなって感じたんです。だからもう怖くありません。改めてよろしくお願いします、お父さん!」

「……そうか」


 レティの言葉に、ガルドが小さく微笑んだ。


「ガルゥゥゥゥ!」

「キュォォォォン!」


 そこへ、キンとギンがレティのもとへ駆け寄ってくる。


「あなたたちも初めまして……もしかして、クロちゃんとシロちゃんのお父さんとお母さんですか?」

「おお、よく気付いたね。キンが父親で、ギンが母親だよ」

「やっぱり……瞳がクロちゃんたちにそっくりだったから、もしかしたらと思ったんです。よろしくね、キンちゃん、ギンちゃん!」

「ガルゥゥゥゥ♪」

「キュォォォォン♪」


 撫でられて、キンとギンは嬉しそうに鳴いた。


「ハハハハハ! 相変わらずだな!」

「本当ね〜。元気そうで何よりだわ〜♪」


 その時、中庭にバジュラ王とルピア王妃、そしてラピスがやってきた。


「おや、バジュラにルピアか。久しぶりだな。元気そうで安心したよ」

「小母様ーっ!」


 ラピスがグレゴリアに飛びつく。


「お久しぶりです〜♪」

「やあラピスちゃん。今日も元気いっぱいだね」

「えへへ〜、私はいつでも元気ですよ〜♪」

「本当に可愛らしい……ゼノムと結婚して、早く私の娘になってほしいものだわ」

「私もそうしたいんですけど〜、ゼノムちんツンデレだから、なかなか素直になってくれないんですよ〜。でも、そういうところも好きなんですけど♡」

「まったく……あいつも早く兄離れしてくれればいいんだがな。ま、立ち話もなんだし、続きを中で話さないか?」

「ハハハ! それがいいな。美味しい茶菓子を用意させるから、ダイニングへ行こう」


 こうして、一行は談笑しながらダイニングルームへと向かった。

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