元魔王、両親と再会すⅡ
「えっと、あの……」
「そんなに緊張しなくていいよ。ふふ、本当に可愛らしい子だね……」
グレゴリアが右手を伸ばし、レティの頬にそっと触れる。
「ロストから君のことを手紙で聞いていたよ。ボロボロの姿で森に倒れていたんだってね」
「……」
レティは黙り込み、目を伏せた。
「ロストと出会う前は、本当に辛い思いをしてきたんだろうね……でも、もう安心していい。これからは私たちの娘だよ。私のことは、本当の母親だと思ってくれてかまわない」
「本当の……母……?」
レティが顔を上げてグレゴリアを見ると、彼女は優しい笑みを浮かべていた。
「さあ、呼んでごらん。“お母さん”って」
「お母さん……」
「そう、私はレティちゃんのお母さんよ」
「お母さん……お母さんっ!」
レティは眩しいほどの笑顔で、何度も「お母さん」と呼びかけた。
「……はぁああ、た、堪らないぐらい可愛いっ!」
「きゃっ!?」
グレゴリアはたまらず、レティを抱きしめた。
「なんて可愛いの、レティちゃん! ずっと娘が欲しかったけど、まさかこんなに可愛い子が私の娘になるなんて、私は世界一幸せだわ!」
「あ、あわわわわ……!」
突然の抱擁にレティは慌てふためく。
「グレゴリア様! レティ様が驚いていらっしゃいます!」
「どうやらレティ様の可愛らしさが、グレゴリア様のド直球の好みに刺さったようだな」
「ほんと、グレゴリアさんって昔から可愛いものに目がないよねー」
そのままグレゴリアはレティを抱きしめ続け、ようやく五分後に冷静さを取り戻してレティを離した。
「……ごめんね、レティちゃん。可愛いものを前にすると、つい自制がきかなくて……」
グレゴリアは人差し指で頬を掻きながら、少し照れたように謝る。
「いえ、大丈夫です。むしろ、お母さんに抱きしめてもらえて嬉しかったです」
「! い、いかん……またあの笑顔を見たら自制が……落ち着け、私……!」
グレゴリアは再びレティを抱きしめそうになる衝動を、なんとか理性で抑え込んでいた。
そんな中、今まで黙って立っていたガルドが、ゆっくりとレティの方へ歩み寄った。
「え、えっと……兄様のお父さん……は、初めまして……」
ガルドの威圧的な雰囲気に気圧されたのか、レティは一歩後ずさる。
「……」
ガルドは無言のまま、大きな右手をレティに向けて差し出した。
「ひっ……」
レティは思わず目をつむってしまう。
しかし、その手は――レティの頭にそっと置かれ、優しく撫でた。
「……?」
恐る恐る目を開けたレティに、ガルドは小さく呟いた。
「……パパと、呼んでもいいんだぞ?」
「……えっ?」
レティが呆気に取られていると、グレゴリアがガルドの体を叩いた。
「ガルド! 何をしてるの、レティちゃんを怖がらせてどうするの!」
「……すまない。どう接していいのか、わからなかったんだ……」
「まったく……ほんとに不器用で口下手なんだから……。ごめんね、レティちゃん。この馬鹿が怖がらせてしまって……」
「大丈夫です。最初は少し怖かったですけど……でも、大きな手で頭を撫でてもらった時、すごく優しい人なんだなって感じたんです。だからもう怖くありません。改めてよろしくお願いします、お父さん!」
「……そうか」
レティの言葉に、ガルドが小さく微笑んだ。
「ガルゥゥゥゥ!」
「キュォォォォン!」
そこへ、キンとギンがレティのもとへ駆け寄ってくる。
「あなたたちも初めまして……もしかして、クロちゃんとシロちゃんのお父さんとお母さんですか?」
「おお、よく気付いたね。キンが父親で、ギンが母親だよ」
「やっぱり……瞳がクロちゃんたちにそっくりだったから、もしかしたらと思ったんです。よろしくね、キンちゃん、ギンちゃん!」
「ガルゥゥゥゥ♪」
「キュォォォォン♪」
撫でられて、キンとギンは嬉しそうに鳴いた。
「ハハハハハ! 相変わらずだな!」
「本当ね〜。元気そうで何よりだわ〜♪」
その時、中庭にバジュラ王とルピア王妃、そしてラピスがやってきた。
「おや、バジュラにルピアか。久しぶりだな。元気そうで安心したよ」
「小母様ーっ!」
ラピスがグレゴリアに飛びつく。
「お久しぶりです〜♪」
「やあラピスちゃん。今日も元気いっぱいだね」
「えへへ〜、私はいつでも元気ですよ〜♪」
「本当に可愛らしい……ゼノムと結婚して、早く私の娘になってほしいものだわ」
「私もそうしたいんですけど〜、ゼノムちんツンデレだから、なかなか素直になってくれないんですよ〜。でも、そういうところも好きなんですけど♡」
「まったく……あいつも早く兄離れしてくれればいいんだがな。ま、立ち話もなんだし、続きを中で話さないか?」
「ハハハ! それがいいな。美味しい茶菓子を用意させるから、ダイニングへ行こう」
こうして、一行は談笑しながらダイニングルームへと向かった。




