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魔王、辞めます。  作者: 稲生景


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33/50

元魔王、竜王国へ行くⅦ

 竜泉饅頭を食べ終えたレティたちは、店の玄関先に立っていた。


「竜泉饅頭、とっても美味しかったですね」

「うんうん、レティちんが気に入ってくれて何よりだよー♪」

「ふふふ……レティちゃんの食べる姿はほんま可愛らしかったわぁ♪ ほなレティちゃん、ラピスちゃん、また明日な。気ぃ付けて帰るんよ〜」

「れ、レティさん! また良ければ食べに来てくださいね!」

「いつでも竜泉饅頭をご馳走しますから!」

「皆さん、ありがとうございます」


 レティとラピスは、ヴィオラたちに見送られながら城へと戻っていった。







 温泉街を歩きながら、レティたちは軽やかに会話を交わす。


「ヴィオラさんって、ちょっと変わった人だけど……すごく優しいですよね」

「あ、わかる〜? ヴィオラちゃんは私が子供の頃からよく遊んでくれてね、この人が本当のお姉ちゃんだったらな〜って、ずっと思ってたの」

「それじゃあ、もうすぐその願いが叶うんですね」

「うんっ! 本当はもっと早くお姉ちゃんになってほしかったんだけどねー……お兄ちゃんがヘタレだから、ずーっと待ってたんだよー」

「昔から仲の良かった人たちが家族になるなんて……素敵ですね」

「んふふー。そう言うレティちゃんは、ロストちんと“今とは違う意味で”家族になったりして?」

「え? それは……っ!?」


 ラピスの言葉の意味を理解したレティは、顔を真っ赤に染めてしまった。


「え、あ、その、私は、その……っ」

「あはは、ごめんごめん、そんなに慌てなくても〜」

「もうっ、ラピス様……意地悪言わないでください!」

「ごめんってば〜、でもむくれてるレティちんも、やっぱり可愛い〜♪」


 そんなやりとりの最中、ラピスが露店の食べ物に目を奪われて立ち止まった。


「うわ〜! あれ美味しそう〜♪ レティちん、ちょっと見に行こうよ〜!」

「あっ、ラピス様、急に走ったら危ないですよ〜!」


 二人は露店に立ち寄りながら、にぎやかな街を歩いていった。







 ――城の庭園。


「ん〜! どれも美味しい〜♪」


 ラピスは両手いっぱいに食べ物を抱え、満足げに頬を緩めていた。


「いくらなんでも食べ過ぎじゃないですか?」

「へーきへーき、まだまだイケるよー♪……ん?」

「どうかしました?」

「上見て、レティちん。あれって……」


 ラピスに言われ、レティが空を仰ぐ。そこには、白い竜が城の中庭へと降下しようとしていた。


「あれは……シロちゃんですよね?」

「うん、ってことは……ついに来たんだー!」


 ラピスは翼を広げて飛び立ち、中庭へと向かった。


「あっ、待ってください、ラピス様ー!」


 レティも慌てて後を追う。








 シロの背から、ゼノムとロウズが中庭に降り立つ。


「クルルルルゥ……」

「ご苦労だったな、シロ。ゆっくり休め」

「ろ、ロスト様がいないと分かった瞬間に全速力で飛ばすのはやめてくださいよ……」

「情けないな。あの程度の速度で……む?」


「ゼーノームちーーーーん!!」


 ラピスが全速力でゼノムに抱きつこうとするが、ゼノムはひらりと回避。ラピスはそのまま城の壁に激突した。

「そう何度も同じ手は通じませんよ……ん?」

「ラピス様ー……あっ、ゼノム様……!」


 ゼノムはレティを見るなり、顔をしかめた。


「久しぶりだな、小娘……あの時の勝負以来だな」

「は、はい……」

「ふん、あの時は邪魔が入りさえしなければ、私の勝ちだったのに……まあいい。いずれ決着をつける。誰が兄上にふさわしいかをな!」

「……私が兄様に相応しいかどうかは分かりません。でも、あなたには負けません!」

「ふん。その威勢だけは褒めてやる」


 二人の間に緊張が走る――と、その時。


「おーい、レティー」

「あ、兄様……っ!?」


 レティが振り向いたその先には、なんと褌一丁のロストが立っていた。


「あ、あああ兄様!? なんで裸なんですか!?」

「ん? さっきまでグレンと魔相撲を取っていてな」

「今回も引き分けだったが……それで風呂に行こうとしたら、シロを見つけてな。急いで来たんだ。……ん、レティ?」

「あわ、あわわわわわわわわわわ……!」


 真っ赤になって湯気を出すレティ。


「レティ? どうしたんだ、レティは?」

「わからん……」


 ロストとグレンが首をかしげる――そして。


「……あ、兄上ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 久しぶりの“生”ロスト、それも褌姿。ゼノムは鼻血を噴き出し、ロストへ突進!


「ちょっ! ゼノム様、鼻血! 鼻血ぃ!」

「お会いしとうございましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 ロウズの言葉も届かず、ゼノムが抱きつこうとしたその瞬間――


「ゼーノームちーーーーん!!」


「ごはぁっっ!!?」


 ラピスがゼノムの脇腹に突撃! 二人そろって城の壁に再び激突した。


「ははは、あの二人は相変わらずだな」

「お久しぶりです、ロスト様。お元気そうで何よりです」

「久しぶりだな、ロウズ。お前も変わりなさそうで良かった」

「クルルルゥ♪」


 シロがロストに頬ずりをする。


「シロも元気そうで安心したぞ」

「ロスト様ー!」


 中庭の騒ぎを聞きつけ、蟻人たちがやってくる。


「ゼノム様が来られたというのは本当ですか?」

「ああ、あの壁に突き刺さっているぞ」

「え、なんで?」

「……たぶん、またラピス様でしょ?」

「だろうな……」

「それとロスト様、レティ様がさっきから顔を真っ赤にして固まってるんですが……」

「ああ、俺の姿を見てからずっとこの状態でな。どうしたんだろうな?」


『……あー……』


 蟻人たちは、だいたい察した。


「とりあえずレティ様のことはこちらでなんとかしますので、ロスト様はまずお着替えを……」

「了解だ」

「ところで、グレン様。壁にまた穴開いてますけど、大丈夫ですか?」

「問題ない。ラピスが壁に穴を開けるのは日常茶飯事だ。明日には修理されているだろう」

「そうですか……」

「この城は、相変わらずカオスだねー」


 ――こうして、ロストたちの竜王国での初日は、混沌と共に夜を迎えようとしていた。



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