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魔王、辞めます。  作者: 稲生景


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31/50

元魔王、竜王国に行くⅥ

 庭園での談笑を終えたレティたちは、ロストの部屋へと向かい、その扉をそっと開けた。


「兄様、ただいま戻りました」

「おお、レティ。ラピスと一緒に、何をしていたんだ?」

「はい、庭園で少しお話をしていました」

「ロスト、久しぶりだな」

「お久しぶりやなぁ、ロストはん。元気にしとった?」


 レティの後ろからグレンとヴィオラが姿を現し、ロストに笑顔で挨拶を交わす。


「グレン! それにヴィオラも……本当に久しぶりだな!」


 ソファに座っていたロストは立ち上がり、懐かしげに微笑みながら二人に近づき、しっかりと握手を交わした。


「ふふふ♪ ロストはん、なんやちょっと雰囲気変わったんとちゃう?」

「そうか? 俺は別に変わったつもりはないが……」

「レティはんがそばにおることで、ロストはんもちょっとは柔らかくなったんかもねぇ。うふふふ♪」

「……からかうのは勘弁してくれ」


 ロストが苦笑いを浮かべる中、グレンが前に出て提案した。


「ところでロスト、時間があるなら今から一勝負どうだ?」

「お、いいな。今日は決着をつけてやる。で、何で勝負する?」

「そうだな……魔相撲はどうだ?」


 魔相撲。それは円形の土俵の上で、ふんどし一丁の男同士が全力でぶつかり合う古代格闘競技である。


 かつて鬼人族という戦闘民族が神事として行っていたこの競技は、時代を超えて世界各地に広まり、ここ竜王国ザークでも年に一度の大規模な大会が開催されるほど人気を博していた。


「俺が稽古用に使ってる場所がある。そこで勝負だ」

「望むところだ」


 二人はまるで少年のように楽しげな表情を浮かべながら、部屋を後にした。


「お兄ちゃんたち、また勝負しに行っちゃったねー……まぁ、いつものことだけど」


 ラピスがあっけらかんと笑い、レティに振り向く。


「ねぇねぇレティちん、一緒に城下町に行かない?」

「城下……あ、確か“竜泉饅頭”という名物があると、蟻人さんたちから聞きました!」

「あーそれね! すっごく美味しいんだよー! ヴィオラちゃんちで作ってるんだよね?」

「ええ、そうなんよ。うちのおとうはんが温泉街全体を仕切っててね、竜泉饅頭の製造と販売は、グレンのおとうはんから任されとるんよ」

「へえ、すごい……! あの、お邪魔してもいいんですか?」

「もちろん! よかったら、今からうちに来ぃへん? あったかい饅頭、いっぱいご馳走するでぇ♪」

「ぜひ、お願いします!」

「ほな、ラピスちゃんも一緒に行こかぁ」

「うんっ♪ それじゃあ、出発進行ー♪」


 こうしてレティたちは城を後にし、城下町にあるヴィオラの実家へと向かって歩き出した。

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