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魔王、辞めます。  作者: 稲生景


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30/50

元魔王、竜王国に行くⅤ

「うぅー……叩かれたところ、まだヒリヒリするよぉ……」

「自業自得だろうが」

「うふふふ、ラピスちゃんも懲りへんなぁ」


 自分の頭を擦っているラピスを見て、ヴィオラが笑う。


 二人は、先ほどラピスとレティがこっそり覗き見していたのが見つかり、その後なんとなくその場でグレンたちと雑談を続けていた。


「でも、惜しかったわぁ……もうちょっとでグレンがうちにキスしてくれるところやったのに……なぁ?」

「ひ、人前でキスなんて、できるわけないだろ!」

「そぉなん? うちは見られても全然構わへんけどなぁ……♪」


 ヴィオラは妖艶な笑みを浮かべると、グレンに身体をぴたりと密着させ、自分の尻尾を彼の尻尾に絡めてくる。


「ヴ、ヴィオラ……!」

「うふふふ……♪」


 突然の密着に、グレンは顔を真っ赤にして戸惑い、ヴィオラはその反応を楽しそうに見つめていた。


「それでラピスちゃん、その子が噂のロストはんの妹さん?」

「そうだよー! レティちんって言って、とっても可愛い子なんだよー♪」

「は、初めまして……レティと言います」

「ふーん……なるほどなぁ……」


 ヴィオラはレティに近づき、じっと彼女の顔を観察する。


「え、えっと……私の顔、何か変ですか……?」

「ん? いやいや、変ってわけやないんよ。ただ、ロストはんの好みってこういう感じなんやなぁって」

「えっ?」

「昔からあの人、女の子に興味なさそうで、好みとか分からんかったけど……ふむ、こういう妹系の子が好みやったとはなぁ」

「だよねー。まあ、ロストちんがそう育っちゃったのは、半分くらいゼノムちんのせいだけどねー」

「うふふふ、確かにそうやったなぁ……」


「……あの、ヴィオラ。そろそろ尻尾をほどいてくれないか……」

「えぇ? なんで?」

「なんでって……恥ずかしいに決まってるだろ。ラピスだけならまだしも、レティさんも見てるし……」

「ええやん、別に~。うちらのラブラブっぷり、見せたろうやぁ♪」

「う、うぅ……」


 グレンは真っ赤な顔でうつむいた。


「ラピス様、人前で尻尾を絡めるって、そんなに恥ずかしいことなんですか?」

「あー、レティちん、私たち竜人族の文化あんまり知らないよねー。んーとね、レティちんは人前でロストちんに抱きつける?」

「ええっ!? そ、そんなことできませんっ!!」


 ラピスの問いかけに、レティは顔を真っ赤にして即答した。


「でしょ? それと同じ感じなんだよ。竜人族にとって尻尾を絡めるのは、それくらいの意味があるんだー」

「……なるほど……」


 納得したようにうなずくレティ。その一方で、グレンをからかっていたヴィオラがふと思い出したように尋ねる。


「そういえばラピスちゃん、ゼノムはんは一緒じゃなかったん?」

「ゼノムちん? うーん、ロストちんたちとは一緒じゃなかったっぽいけど……ねぇ、レティちん?」

「はい、ゼノム様は同行されていませんでした」

「ふーむ……いつもならロストはんとだいたい同じタイミングで来るのになぁ……」

「もしかして、兄様の家に行って、探しているのでは?」


 レティの推測を聞いたラピスたちは、しばし間を置いたあと──


「あはははは、まさかー!」

「いくらあのブラコンのゼノムはんでもなぁ~」

「ああ、さすがにあのゼノムでも、そこまでは……」


「「「……いや、あり得るかもしれない……」」」


 ――その頃、ロストの自宅前。


「兄上ーーーーーーっ! どこですかーーーーっ!? 貴方の愛しい弟、ゼノムが迎えに参りましたーーーーーっ!!」

「……ゼノム様、ロスト様はもうとっくに出発されたかと……」

「兄上ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

「……全然聞いてないし……」

「ねぇ、あれ……この前の人じゃ……?」

「本当ですね。ラピスさんに引きずられていた人ですよ……」

「……何しに来たんだろう」


 レティの予想通り、ゼノムはロストを探しに来ていたのだった──。






 簡易キャラ紹介

 ヴィオラ・フォルテ

 年齢:26歳

 グレン・ザークの幼馴染にして婚約者。

 いつもグレンをからかっては、その反応を楽しんでいる。

 本当はもっと早く結婚したかったが、グレンの純情すぎる性格ゆえ、婚約から実際の結婚までに10年もかかってしまった。

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