元魔王、竜王国に行くⅤ
「うぅー……叩かれたところ、まだヒリヒリするよぉ……」
「自業自得だろうが」
「うふふふ、ラピスちゃんも懲りへんなぁ」
自分の頭を擦っているラピスを見て、ヴィオラが笑う。
二人は、先ほどラピスとレティがこっそり覗き見していたのが見つかり、その後なんとなくその場でグレンたちと雑談を続けていた。
「でも、惜しかったわぁ……もうちょっとでグレンがうちにキスしてくれるところやったのに……なぁ?」
「ひ、人前でキスなんて、できるわけないだろ!」
「そぉなん? うちは見られても全然構わへんけどなぁ……♪」
ヴィオラは妖艶な笑みを浮かべると、グレンに身体をぴたりと密着させ、自分の尻尾を彼の尻尾に絡めてくる。
「ヴ、ヴィオラ……!」
「うふふふ……♪」
突然の密着に、グレンは顔を真っ赤にして戸惑い、ヴィオラはその反応を楽しそうに見つめていた。
「それでラピスちゃん、その子が噂のロストはんの妹さん?」
「そうだよー! レティちんって言って、とっても可愛い子なんだよー♪」
「は、初めまして……レティと言います」
「ふーん……なるほどなぁ……」
ヴィオラはレティに近づき、じっと彼女の顔を観察する。
「え、えっと……私の顔、何か変ですか……?」
「ん? いやいや、変ってわけやないんよ。ただ、ロストはんの好みってこういう感じなんやなぁって」
「えっ?」
「昔からあの人、女の子に興味なさそうで、好みとか分からんかったけど……ふむ、こういう妹系の子が好みやったとはなぁ」
「だよねー。まあ、ロストちんがそう育っちゃったのは、半分くらいゼノムちんのせいだけどねー」
「うふふふ、確かにそうやったなぁ……」
「……あの、ヴィオラ。そろそろ尻尾をほどいてくれないか……」
「えぇ? なんで?」
「なんでって……恥ずかしいに決まってるだろ。ラピスだけならまだしも、レティさんも見てるし……」
「ええやん、別に~。うちらのラブラブっぷり、見せたろうやぁ♪」
「う、うぅ……」
グレンは真っ赤な顔でうつむいた。
「ラピス様、人前で尻尾を絡めるって、そんなに恥ずかしいことなんですか?」
「あー、レティちん、私たち竜人族の文化あんまり知らないよねー。んーとね、レティちんは人前でロストちんに抱きつける?」
「ええっ!? そ、そんなことできませんっ!!」
ラピスの問いかけに、レティは顔を真っ赤にして即答した。
「でしょ? それと同じ感じなんだよ。竜人族にとって尻尾を絡めるのは、それくらいの意味があるんだー」
「……なるほど……」
納得したようにうなずくレティ。その一方で、グレンをからかっていたヴィオラがふと思い出したように尋ねる。
「そういえばラピスちゃん、ゼノムはんは一緒じゃなかったん?」
「ゼノムちん? うーん、ロストちんたちとは一緒じゃなかったっぽいけど……ねぇ、レティちん?」
「はい、ゼノム様は同行されていませんでした」
「ふーむ……いつもならロストはんとだいたい同じタイミングで来るのになぁ……」
「もしかして、兄様の家に行って、探しているのでは?」
レティの推測を聞いたラピスたちは、しばし間を置いたあと──
「あはははは、まさかー!」
「いくらあのブラコンのゼノムはんでもなぁ~」
「ああ、さすがにあのゼノムでも、そこまでは……」
「「「……いや、あり得るかもしれない……」」」
――その頃、ロストの自宅前。
「兄上ーーーーーーっ! どこですかーーーーっ!? 貴方の愛しい弟、ゼノムが迎えに参りましたーーーーーっ!!」
「……ゼノム様、ロスト様はもうとっくに出発されたかと……」
「兄上ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「……全然聞いてないし……」
「ねぇ、あれ……この前の人じゃ……?」
「本当ですね。ラピスさんに引きずられていた人ですよ……」
「……何しに来たんだろう」
レティの予想通り、ゼノムはロストを探しに来ていたのだった──。
簡易キャラ紹介
ヴィオラ・フォルテ
年齢:26歳
グレン・ザークの幼馴染にして婚約者。
いつもグレンをからかっては、その反応を楽しんでいる。
本当はもっと早く結婚したかったが、グレンの純情すぎる性格ゆえ、婚約から実際の結婚までに10年もかかってしまった。




