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魔王、辞めます。  作者: 稲生景


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26/50

元魔王、竜王国に行くⅠ

 ――三日後の朝。


 朝日が差し込む中、蟻人たちが慌ただしく荷物を大きな木箱へと積み込んでいた。


「出発の時間が近い。積み忘れはないか?」

「だいじょーぶ! 全部ばっちり確認済みだよー」

「よし、あとはロスト様たちを待つだけだな」


 作業を終えた蟻人たちが一息ついたところで、家の扉が音を立てて開き、ロストとレティが姿を現した。


「待たせてすまない。いやぁ、今日もいい天気で気持ちがいいな」

「本当ですね。おはようございます、ロスト様、レティ様。荷物はこちらでお預かりします」

「うむ、頼んだぞ」

「よろしくお願いします」


 二人は蟻人たちに荷物を託し、手際よく確認が進んでいく。


「さて……おーい、クロー!」


 ロストの呼び声に応え、クロが軽やかに駆け寄ってきた。


「グルルルルゥ♪」


「クロ、今日は竜王国までよろしく頼むぞ」

「クロちゃん、よろしくね♪」

「グルルルルルルゥ♪」


 ロストとレティに優しく撫でられ、クロは嬉しそうに喉を鳴らす。


 二人は、二日後に行われるグレンの結婚式に出席するため、竜王国ザークへ向かう準備を進めていたのだ。


 ロストはレティを軽やかに抱き上げると、そのままクロの背にひらりと飛び乗る。蟻人たちは、荷物をくくりつけた箱をクロの尻尾にしっかりと縄で固定していった。


「師匠ーっ!」


 そこへ、駆け足でラックたちがやって来た。


「ラック。俺たちが出かけている間、家のことは頼んだぞ。それと――修行は怠るなよ」

「はい! 分かりました、師匠! いってらっしゃいませ!」

「ロストさん、レティちゃん、気をつけてね!」

「いってらっしゃいませー!」

「……お土産、よろしく……」


 皆の声に見送られながら、ロストはひとつ頷き、クロに声をかけた。


「クロ、飛べ!」


「グルルルルゥ!」


 翼を大きく広げ、クロは大地を蹴って空へと舞い上がる。風を切る音と共に、ロストとレティを乗せた黒き影は、竜王国ザークへ向けて旅立っていった。

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