嵐去り、再び日常
ゼノムの来訪から三週間が過ぎようとしていた。
昼下がり、ロストの家の裏庭には、ラックの気合いの声が響き渡っていた。
「いきます……うおおおおおおおおおおおおおお!!」
ラックは叫ぶと、庭に鎮座していた高さ二メートルほどの大岩に手をかけ、そのままの勢いで持ち上げた。
「し、師匠! やりました! 持ち上がりました!」
「うむ、良い調子だ。この調子なら、初日に歯が立たなかったあの岩も、もうすぐ持ち上げられるようになるだろう」
「ほ、本当ですか!?」
「本当だ。それじゃあ、いつも通り一時間持ち上げ続けていろ。いいな?」
「はいっ、分かりました!」
三週間前から、ラックはロストの指導のもと、毎日一メートル級の岩を持ち上げ続けてきた。
地道な努力の甲斐あって、その岩を軽々と持ち上げられるだけの筋力を手に入れていた。
そして今日、ロストの指示で倍の大きさの岩に挑戦し――見事に持ち上げてみせたのだった。
「くっ、やっぱり重い……でも、俺ならできるはずだ! この修行をやり遂げて、絶対に師匠に近づくんだぁぁぁっ!!」
気合いを込め、岩を持ち続けるラック。その様子を、少し離れた場所からリリィ、ティア、シキの三人が見守っていた。
「ラック、今日も頑張ってるわね」
「ですね。でも……」
「……本来の目的、完全に忘れてる……」
「そうね……」
「やっぱり、ですよね……」
三人は揃ってため息をついた。
本来の目的――それは魔王を倒すこと。
そのために、彼らは旅をし、ロストのもとを訪れたはずだった。
けれど、ロストの弟子となり修行を続けるうちに、ラックは当初から尊敬していたロストへの想いをさらに強めていった。
以前、リリィがその点を問いただした時、ラックは「当たり前だろ! 俺たちは魔王を倒すためにここまで来たんじゃないか!」と答えていた。
だが最近では、「もっと心身ともに鍛えて、師匠に近づくんだ!」と目的がやや変わりつつあった。
「ロストさんに近づくって言ってたけど……あの人の強さに追いつくのに、何年かかるのかしらね……」
「ですね……この調子で鍛え続けたら、ラックさんどうなっちゃうんでしょう」
「……筋骨隆々になるのは間違いない……」
三人はムキムキの筋肉で覆われたラックの姿を想像して――
「な、なんか考えたらちょっと悪寒がしてきました……」
「……私も……」
「……やだ、ちょっとタイプかも」
「「えっ」」
頬を染めるリリィに、ティアとシキは若干引いたような顔で顔を見合わせた。
「兄様、魔茶です」
「すまない……うむ、美味い! やはりレティの淹れた魔茶は格別だな」
「ふふっ、ありがとうございます、兄様」
ロストとレティは、穏やかな陽射しのもと、庭で日向ぼっこをしながら魔茶とお菓子を楽しんでいた。
「ラックさん、頑張っているみたいですね」
「ああ、あいつは筋がいい。このままいけば、あと一月もすれば五メートルの岩も持ち上げられるようになるかもしれん」
「ふふっ……」
「? どうした、レティ。急に笑って?」
「いえ……兄様、ラックさんたちが来てから、笑顔になることが増えたなって思って……」
「そうか? まあ、確かに面白い奴らが増えたとは思っていたが……。だがな、レティ。俺をいちばん笑顔にさせて、癒してくれるのは――お前だぞ?」
「あ……兄様……ありがとうございます」
ロストの言葉に、レティは頬を染めながら微笑んだ。
「うむ、やはりレティの笑顔を見ると癒されるな……。この煎餅も美味い!」
――こうして今日もまた、ロストはレティの笑顔に癒されるのだった。




