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魔王、辞めます。  作者: 稲生景


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22/50

新魔王、再び襲来Ⅰ

 ――三日後・ロストの家・庭


「よし、それじゃあ今日の修行を始めるぞ」

「はい、師匠! 今日はどんな修行ですか?」

「今日は筋力を鍛える修行だ。ついてこい」


 ロストとラックは家の裏へと移動する。そこには、高さ3メートルはあろうかという巨大な岩が鎮座していた。


「この岩を持ち上げてみろ」

「分かりました! うおおおおおおおおおお!!」


 ラックは全力で岩に挑んだ。


 ―5分後


「おおおおおおおおおおおおおおお!」





 ―10分後


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」







 ―30分後


「はぁっ……はぁっ……師匠、無理です……」


 ラックは全身汗だくで、その場に倒れ込んだ。


「おかしいな……そんなに重い岩ではないはずだが。ほら」


 ロストは片手で岩を軽々と持ち上げてみせた。


「す、凄い……! さすが師匠……」

「この程度の岩も持ち上げられんとはな……仕方ない」


 ロストは近くにあった、1メートルほどの岩を持ってきた。


「これならどうだ?」

「やってみます! うおおおおおおお!!」


 ラックはなんとか持ち上げることに成功した。


「で、できました! 師匠!」

「よし、そのまま1時間、持ち上げ続けろ」

「一時間っ!? ……分かりました! やってみます!」

「その意気だ」

「……ラック、大丈夫かしら」

「あんな大きな岩、体を壊さないですかね……」

「……まぁ、ラックならきっとやり切るわ」


 リリィ、ティア、シキの三人は、ラックの修行風景を陰から見守っていた。


「みなさん、そんな所で何してるんですか?」

「あ、レティちゃん。ちょっとね、ラックの様子が心配で……」

「ああ、ラックさん、今兄様に何か教わってるんでしたよね。ところで……新しいお菓子を作ってみたんですけど、よければ試食していただけませんか?」

「新作お菓子!? もちろん喜んで♪」

「どんなお菓子なんでしょう……楽しみです~♪」

「……すでに涎が出てる」


 三人はすっかりレティのスイーツの虜になっていた。


 彼女たちはロストの家のリビングへ移動する。


「お待たせしました。これが新しく作った《魔木苺のタルト》です」


 レティはテーブルの上にタルトをそっと置いた。


「わぁ~! 本当に美味しそう!」

「甘い香りがふわっと……」

「……これは危険だ……涎が止まらない……」


 レティはタルトを丁寧に切り分け、三人に手渡す。


「さあ、どうぞ召し上がってください」

「いただきますっ! ……ん~、美味し~い♪」


「苺の甘酸っぱさが口いっぱいに広がって、幸せな気持ちになりますね~♪」


「……クリームも最高……」


 三人の表情がとろける。


「喜んでもらえて嬉しいです。兄様も、これを食べたら喜んでくれるかな……♪」


 ロストが笑顔でタルトを頬張る姿を想像して、レティは頬を染めた。


「……レティちゃん、本当にお兄さんのことが好きなのね」

「ですね~。見てると、なんか微笑ましいです~♪」


「……もう相思相愛って感じだよね」

「えっ!? そ、相思相愛なんて……!」


 レティの顔が真っ赤になった。


「ふふっ、照れてるレティちゃんも可愛い♪……ん? 今、外から何か音が……」

「……聞こえますね。何か羽ばたいてるような……」

「……確認してくる」


 シキが窓の外を覗き、目を見開いて後ずさった。


「ど、どうしたのシキ!?」

「……みんな、窓の外を見て」


 リリィとティアが窓を覗くと、そこには――


 巨大な白い竜が翼を羽ばたかせ、庭に舞い降りていた。


「り、竜……!?」

「ま、また竜ですか~!?」

「……あれは白竜……黒竜と同じ最上位種の……」

「みなさん、どうしたんですか?」


 レティが遅れて窓の外を見て、目を丸くした。


「あれ? シロちゃん?」


「「「し、シロちゃん?」」」


 三人が揃って驚愕する。


「はい。兄様のペット、クロちゃんの弟です」

「えぇっ、あの黒竜の!?」

「でも……どうしてここに……まさか、あの人が……」


 レティの脳裏にゼノムの姿がちらつき、胸がざわつく。


「クルルルルルルゥ」


 シロが着地すると、その背から一人の人物が降り立った。


「あれ? あの人……ゼノムさんじゃない……?」


 降りてきたのは、均整の取れた顔立ちと艶やかな腰までの長髪を持つ、美しい女性だった。


「何者なの……?」

「分かりません。でも、綺麗な人ですね……」

「……同性なのにドキドキするの、なんでだろ……」


 三人が見とれる中、レティは一人、家を出て女性に声をかけに向かった。


「あ、あの……すみません。兄様のお知り合いの方、ですか?」


 すると女性は、鋭い視線でレティを睨みつけ――


「黙れ、小娘」

「ひっ……!」

「この程度で怯えるとは……やはりお前に、兄上の妹は務まらんようだな」

「え? 兄上って……」

「おい、今何か音が――ん?」


 ロストが姿を現し、女性を見た瞬間、女性は表情を一変させ、猫撫で声で駆け寄ってきた。


「兄上~! お会いしたかったです~♪」

「ゼノム……!?」


 女性はそのままロストに抱きつく。


「ぜ、ゼノム? 兄様、この人って……」

「レティ、分からないか? 俺の“弟”のゼノムだ」

「え、えええええええええええええええ!?」


「「「弟ぉぉっ!?」」」


 窓の向こうで聞いていた三人が、揃って素っ頓狂な声を上げた。


「しかしゼノム、その姿はどうしたんだ?」

「はい♪ このゼノム、性転換の薬を使い女となり、兄上の正真正銘の妹になりました♪」


 謎の美女……女になったゼノムは笑顔でそう言った。

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