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魔王、辞めます。  作者: 稲生景


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21/50

元魔王、日常を満喫す

 ――ラックがロストの弟子になった翌日。

 ロストの家の隣に、ぽつんと小さなログハウスが建てられていた。


「うおおおおおおお!」


 その前の畑では、ラックたちが鍬を振るい、地面をせっせと耕していた。


「ふぅ……これだけ耕せば十分だろう」

「つ、疲れました~……」

「……畑を耕すって、こんなに体力使うんだ……」


 ティアとシキは、力尽きたように地面に腰を下ろした。


「……ねぇ、ラック。なんで私たち、畑なんて耕してるの?」

「師匠が、まず最初に畑を作れって言ったんだ。……多分だけど、これは修行の一環なんだと思う!」

「畑仕事が修行……?」

「ああ! きっと師匠は、腕力や足腰を鍛えさせるためにこれをさせてるんだよ! 『日常の中に修行あり』ってやつさ! さすが師匠、深い……!」

「ほ、本当にそうなのかな……」

「本当だって! さあ、次は種まきと水やりだ! そのあとは薪割りだぞ!」


 意気揚々と作業を進めるラックたち。その様子を、ロストは庭の縁側で日向ぼっこしながら眺めていた。


「……あの、ロスト様? あの少年、妙なことを言ってますが……あれ、本当に修行なんですか?」

「ん? 何の話だ?」

「畑仕事が修行だと……」

「いや、単にそろそろ魔野菜の種類を増やそうと思ってな。人手が欲しかったから、ちょうどよかっただけだ。……ずずっ」

「……やっぱりそうでしたか」


 ロストのそっけない返答に、傍らの蟻人は深くため息をついた。


 そこへ、レティが籠を手にやってきた。


「兄様、お菓子を持ってきました。今日はビスケットを焼いてみましたの」

「おお、それはありがたい。……ふむ、うまい! レティの菓子は本当に絶品だな」

「ふふっ、ありがとうございます。兄様」


 レティはにっこり微笑むと、畑で働いているラックたちの元へと向かった。


「皆さん、お疲れさまです。皆さんの分もビスケットを焼いてきましたので、どうぞ召し上がってください」

「本当!? ありがとう、レティちゃん!」

「美味しそうですね~♪」

「……ありがとう」

「よし、早速いただこう!」


 ラックたちは、笑顔でビスケットにかぶりついた。


「おいしい! めちゃくちゃ美味しいです、レティさん!」

「本当、こんなお菓子初めてだわ……」

「お茶とよく合って、幸せですね~♪」

「……絶品」


「ふふっ、皆さんに喜んでいただけて嬉しいです」

「レティ、魔茶のおかわりを頼んでもいいか?」

「あ、はい! すぐにお淹れしますね」


 ――こうして今日も、ロストとレティは穏やかな一日を過ごしたのだった。

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