一方その頃、魔王城Ⅲ
――数日後、魔王城・執務室
現魔王ゼノムは、執務机に腰かけながら紅茶を一口すすっていた。香り高い茶葉の香気が静かに立ち昇るなか、扉が音もなく開き、側近のロウズが入室する。
「魔王様、レティ様に関する観察報告書が届きました」
「……そうか。それで、何か変わったことはあったか?」
ゼノムの穏やかな声に、ロウズは手に持った報告書を見下ろしつつ言葉を継いだ。
「は、はい。実は……」
ロウズは報告書の内容を簡潔に、しかし慎重に伝える。
「……なにぃ!? 兄上のもとに人間の小娘が三人も現れただと!?」
ゼノムの顔から紅茶の余韻がすっかり消え、不快感と動揺が露わになる。
「そ、それと……人間の男も一人いたそうですが……」
「そんなことはどうでもいい! 問題なのは小娘どもが増えているということだ!!」
怒気を含んだゼノムの声に呼応するかのように、その身体からどす黒いオーラが漏れ出す。机の上に置かれていたティーカップとティーポットに、ピシリと音を立てて亀裂が走った。
「なんてことだ……これで兄上のまわりには、四人もの小娘が居ることになる……もし、新たに加わった小娘たちが兄上に惚れてしまったら……!」
「そ、そんな心配は杞憂では……報告によれば、恋愛感情のようなものは見受けられなかったと……」
「馬鹿者ォッ!! 兄上の魅力を知ってしまえば、どんな女だって一撃で惚れてしまうに決まっているだろうがッ! そして――もし万が一、兄上と小娘たちの間に何かが起きてしまったら……私は……私はぁぁぁぁぁぁっ!!」
ゼノムの右手に濃密な闇のオーラが集まり、次の瞬間――!
振り下ろされた手刀が、目の前の執務机を音もなく、だが見事に、真っ二つに断ち割った。
「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
ロウズが情けない悲鳴を上げる横で、ゼノムは荒い息を吐きながら、口元に不穏な笑みを浮かべる。
「……はぁっ、はぁっ……こうなれば、もはや仕方あるまい。ロウズ、私はこれより少し外出してくる」
「えっ!? あの、どちらに……?」
「心配はいらぬ。すぐ戻るさ。――待っていてください、兄上……兄上のためなら、私は……ふふふ……ふははははははは!!」
凄まじく邪悪な笑みを浮かべて執務室を後にするゼノムの背中を見送りながら、ロウズはおのれの胃の痛みに顔をしかめた。
「……これは……薬草の在庫、確認しておいた方がいいかもしれん……」




