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魔王、辞めます。  作者: 稲生景


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13/50

一方その頃、魔王城Ⅱ

 ――数日後、魔王城・廊下


 ロストの家から戻ったゼノムは、静かに執務室へと歩いていた。


「ゼノム様ーっ!」


 前方から、側近のロウズが息を切らしながら駆け寄ってくる。


「どうしたのです、ロウズ? そんなに慌てて……仕事なら、出かける前に数日分は片づけておいたはずですが」

「いえ、業務の件ではなく……実は、ゼノム様にご来客がありまして」

「客? 誰です?」

「竜王国のグレン王子とラピス姫でございます」

「……ああ、あの二人ですか」

「応接室にてお待ちいただいております」

「了解しました。すぐに向かいます」


 ゼノムはそのまま足を応接室へと向けた。




 ゼノムが応接間の扉を開けると、そこには身の丈二メートルを超える、赤い鱗を持つ竜人が堂々と腰を下ろしていた。


「お久しぶりです、グレン殿。半年ぶりですね」

「ゼノムか。……久しいな」


 彼の名はグレン・ザーク。西方に位置する竜王国ザークの王子である。


 竜王国は、数多の効能を持つ温泉で知られる別名“温泉王国”。現国王とロストたちの父は旧知の仲であり、その子ども同士であるロスト、グレン、ラピスたちは、幼い頃から共に育った幼馴染である。なかでもロストとグレンは、互いの実力を認め合う良きライバル関係にある。


「話は聞いたぞ。まさかロストが魔王を辞めるとはな」

「ええ、私も最初は驚きましたよ……ロウズ、紅茶をお願いできますか?」

「かしこまりました」


 ゼノムはソファに腰を下ろし、淹れられた紅茶を口にする。


「ところで、グレン殿。……あいつの姿が見えませんが?」

「ん? ああ、ラピスなら『退屈だから庭園をひとっ飛びしてくる』と出ていったが……すまない、俺にも一杯もらえるか?」

「承知しました」


 ロウズが紅茶の準備を始めたそのとき、不意に何処からか声が響く。


「ゼ〜ノ〜ム〜ち〜んっ♡」

「おや、噂をすれば……」


 その直後――


 ドガァン!!


 応接室の壁が突如として粉砕され、何者かがゼノムに向かって一直線に突撃してきた!


「ごふっ!?」


 ゼノムはその勢いで吹き飛ばされ、仰向けに倒れる。

 その上に馬乗りで覆いかぶさってきたのは、青い髪をポニーテールに束ねた少女だった。


「えへへ〜♪ 久しぶりだね〜♪」


 彼女の背には竜の翼、尻尾、そして手足には青い鱗――まぎれもなく竜族の証。


 彼女こそ、グレンの妹であり、竜王国の姫ラピス・ザークである。


 竜人には大きく分けて二つのタイプが存在する。

 一つはグレンのように、全身が竜の姿に近い“完全竜人型”。

 もう一つはラピスのように、部分的に竜の特徴を備えた“半竜人型”である。


「……久しぶりですね、ラピス。それで……なぜ壁を壊してまで突っ込んできたのですか?」

「ゼノムちんに会いたくてに決まってるじゃん〜♡」

「……いや、だからって壁を壊す必要はあったのですか?」

「あるに決まってるよ〜」

「その理由をお聞きしましょうか」

「私のゼノムちんへの愛は……壁なんかじゃ、止められないから〜♡」


 頬に手を添え、うっとりと微笑むラピス。


「……理由になっていません。取りあえず、どいていただけますか」


 ゼノムは彼女を横にどかし、身を起こす。


「もぉ〜! 婚約者に冷たすぎない!?」

「どこをどう解釈したら婚約者になるのですか。私はあなたと婚約した覚えはありませんが」

「え〜? 十年前に愛を誓い合ったじゃ〜ん♡」

「……子どもの約束でしょう。それに、あれは貴女が一方的に言い出した話では?」

「もう、ゼノムちんったら照れ屋さん……でも、そこがまた素敵……♡」

「はぁ……。それで? お二人がいらした理由は何なのですか?」

「そうそう。これをお前に渡したくてな」


 グレンが封筒を差し出す。


「これは……招待状?」

「ああ。実は、式の日取りが決まったのだ。お前たち兄弟にも、ぜひ来てほしくてな」

「なるほど……ですが、招待状なら使者に託してもよかったのでは?」

「大事なものは、自分の手で、親しい友に直接渡したい性分なんでな」

「……相変わらずですね」

「それと、もうひとつ理由がある」

「兄上の居場所を聞きに来た……でしょう?」

「察しが早くて助かる。ロストには一番に渡したいと思っていたんだが、居場所が分からなくてな」

「そうそう! ロストちんの話で思い出したんだけど~! ねぇゼノムち~ん!」

「なんですか?」

「ロストちんに恋人ができたって、本当〜!?」


 バキィィンッ!!


「熱っちゃあああああああああ!?」


 ロウズの持っているティーポットが砕け、中の紅茶が身体にかかって転げ回る。


 そして、ゼノムの身体から黒いオーラが立ち上る――


「……恋人ではなく、妹です」

「あっ、そっか〜♪ 聞き間違えちゃった♡」

「……その話はもうよいとして、グレン殿。ロストの居場所ですが、こちらの地図に記してあります。これをお使いください」

「感謝する。では、俺たちはこれで行こう。さらばだ、ゼノム」

「じゃあね〜ゼノムちんっ♡ またすぐ会いに来るからね〜♡」


 グレンとラピスは立ち上がり、応接室を後にした。


 静まり返った室内に、ゼノムは無言のまま座っている。


「ゼノム様……新しい紅茶をお持ちしましたが……ゼノム様?」

「兄上と小娘が恋人同士……そんなこと、ありえるわけがない……だが、もし……本当にそうなったとしたら……私は……私はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 バキィィィン!!


「熱ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!?」


 またしてもティーポットが割れ、ロウズの悲鳴が魔王城に響き渡った――








【簡易キャラクター紹介】

 グレン・ザーク

 年齢:26歳

 竜王国ザークの王子。ロストとは実力を認め合う良きライバル。幼馴染でもある。


 ラピス・ザーク

 年齢:20歳

 グレンの妹で竜王国の姫。幼い頃からゼノムに恋心を抱いており、積極的すぎるアプローチで彼をたびたび困らせる。

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