新魔王、襲来Ⅳ
「美味しい!」
「さすがレティ様、毎日料理の勉強をしていた成果が出ていますね」
「蟻人さんたちの教え方が上手だったおかげです」
「そう言われると、照れちゃうよね~」
「うむ、レティの料理は最高だな」
「あ、兄様……」
ロストに褒められたレティは、顔を真っ赤にして照れ笑いを浮かべた。
「どうだゼノム、レティの料理の味は?」
「お、美味しいです……」
「そうか! お前も気に入ったか!」
「……はい」
――なぜロストたちがレティの料理を食べているのか。
話は一時間前にさかのぼる。
厨房にやってきたゼノムは、レティに「第二の試練」について説明を始めた。
「いいか小娘、第二の試練は――料理だ!」
「料理、ですか?」
「そうだ! 兄上の“妹”たる者、兄上のために絶品の手料理を作れねばならん! かく言う私も、幼き頃から兄上に料理を振る舞っていたからな!」
「思い出した……ゼノム様、昔は毎日のようにロスト様に手料理を届けてましたよね」
「ロスト様は嬉しそうに食べてたけど……一時期、食べ過ぎで太ったことがあったような」
「それで奥様がゼノム様に“料理禁止令”を出されて、我々はロスト様のダイエットに付き合わされましたね」
「うむ、私も覚えておる。あの頃は毎日、近くの山を三往復しておった」
「痩せるどころか、私たちが先に痩せましたけどね……」
「さて、話を戻そう。今から料理を作り、全員に『美味い』と言わせれば、第二の試練は合格と認めよう。よいな?」
「……はい、分かりました!」
「よし、始めろ!」
ゼノムの号令で、レティは真剣な表情で調理を始めた――。
――そして現在。
レティが作った魔野菜のスープを一口飲んだゼノムは、自分の料理より美味いと認めざるを得ず、内心で大きなショックを受けていた。
「レティの料理は……最高だな。毎日でも食べたいくらいだ」
「あ、兄様……褒めすぎですよ……でも、すごく嬉しいです」
ロストに笑顔で褒められ、レティも自然と笑みを浮かべる。
(畜生ぉぉぉ……また兄上に撫でられていやがる! 羨ましすぎる!)
ゼノムは、内心で嫉妬の炎を燃やしながら、手にしていたスプーンをぐにゃりとへし曲げた。
「……」
その様子を隣で見てしまった蟻人は、何も見なかったことにして、黙ってスープをすすった。
――二〇分後。
「小娘、二つの試練をクリアしたことは褒めてやろう。次の試練を突破できれば、仕方なく貴様を“兄上の妹”として認めてやる。第三の試練は――」
「ゼノム、ちょっといいか?」
ゼノムが三つ目の試練を言いかけたその時、ロストが口を挟んだ。
「何ですか、兄上」
「さっきから考えていたんだが……この“試練”って、そもそも必要なのか?」
「もちろんです! これは、この子娘が兄上の傍にいる資格があるかどうかを見極めるための――」
「それだよ」
「……それ?」
戸惑うゼノムに、ロストは静かに言葉を続けた。
「俺の傍にいるのに、資格なんて必要ないだろ? 俺が“傍にいてほしい”と思っていれば、それで十分なんじゃないか?」
「兄様……」
その言葉に、レティの頬が再び紅潮する。
「だからもう、こんな面倒な試練はやめよう」
「……そうですか。兄上がそうおっしゃるのなら、私は何も言いません。試練は中止といたします。それでは、私は城へ戻ります……シロ!」
「クルルゥ♪」
ゼノムは、呼び出したシロの背にひらりと飛び乗る。
「兄上、私はこれで失礼します。――そして小娘! 私は貴様を認めたわけではないからな! そのことだけは忘れるなよ! シロ、飛べ!」
「クルルルルゥ!」
シロの巨大な翼が空を舞い、ゼノムはそのまま空へと飛び去っていった。
「……なんか嵐のように帰っていきましたね」
「ああ、でも……久しぶりに会えて嬉しかったな」
ロストとレティの後ろでは、蟻人たちがひそひそと話していた。
「見たか? ゼノム様の手」
「見た見た。めっちゃ血出てたよね」
「よく我慢したよ、あれ」
そう、ゼノムが帰る時――
彼の拳はあまりに強く握りしめられすぎて、皮膚が裂け、血がにじんでいたのだった。
――そして空の上。
「畜生ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
シロの背の上、ゼノムは天に向かって咆哮する。
「“ずっと傍にいてほしい”だと……!? そんなこと、私ですら言われたことがないのにぃぃぃぃぃ!! 羨ましすぎるんだよあの小娘ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
怒りと嫉妬の感情を爆発させ、ゼノムはどす黒いオーラをまき散らしながら、魔王城へと帰っていった。




