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勇者と呼ばれて

一応、たぶん、数話の予定です。

「だから、私は言ったはずよ。王を殺さないで、と」

彼女はそう言って、力の杖をついっと兵士へとむけた。シャランと彼女の腕輪が音を立てる。

「見なさい……あなたの、『倒した』魔は、器を変えただけよ」

 先ほどまで、人だったはずの兵士。よく見れば肌が緑に染まりかかっている。俺が何度も倒し続けた、妖魔と同じ肌の色。

「王はただの傀儡だったわ。魔王は『殺せない』。魔は封じるしかないのよ」

 彼女の力が放たれると、襲撃者の影がゆらいで。黒いものが飛び出して消えた。

 すると、襲撃者の肌がすうっと人の肌いろに戻っていく。

 俺は思い出す……魔王の肩に常に止まっていた黒い鳥。

「カラス?」

 彼女は頷く。

「そうよ。魔王の核は、あのカラス……でも、本当は実態を持たぬただの、影なの」

 俺は膝をついた。そして……肩の傷の痛みに耐えながら、今日、この日まで、突き動かされるように戦いながらも、なにも見ようとしていなかった自分にようやく気が付いたのだった。


 俺、田野倉龍平たのくらりゅうへいが、この世界に来たのは、ブランクル王国の王が、俺を召喚したからである。世界を混沌へと陥れる『魔王』を倒すには、異世界の人間が必要だという神託を王は受けたからだ。王は、古き儀式にのっとって、何のとりえもないただの日本の高校生である俺を召喚した。正直、迷惑だった。漫画やゲームのように突然『あなたは勇者』といわれて、「そうか、俺は勇者なのだ」と、思えるほど俺は強くもなければバカでもない。

 しかし、日本では家族にさえ注目されない俺が、きらびやかな中世っぽい服をまとった高貴な人々にかしづかれ、期待のこもった視線を受けているうちに、俺は『のせられた』。

 実際、王が神から賜ったという剣と鎧は、俺にあつらえたようにぴったりであったし、その剣を持つと、不思議と身体が自分のモノではないかのように、軽やかに動いた。

 召喚してすぐに王宮を襲ってきた妖魔ルーザを、俺は恐怖におびえる間もなく、剣を手にした身体が勝手に動いて退治してしまった。もちろん、普段、動かしていない身体は、後でものすごい筋肉痛に襲われたのであるが。

 たぶん。

あれから、俺は自分が『勇者』であることに疑問を持たなくなった。妖魔ルーザの襲撃の時、俺が命を救った姫君フェリシアは、信じられないほど美しくかった。物語から飛び出したかのような、キラキラした青い大きな瞳とさらりとした長い金髪。一目で恋に落ちた俺を、笑える男はいないに違いない。

 そして、信じられないことに、その絶世の美少女であるフェリシアは、俺と恋に落ちた。

 俺たちは魔王を倒した後の将来を誓いあい、俺は、ブランクル王たちに言われるがまま、魔族に蹂躙されてしまったという、サバナル王国へ旅立ったのだ。

 今思えば、俺はもっと知るべきであった。サバナルという国が、いかに妖魔に侵されたのかという事実を。

 国境近くの寺院で、ベネトナシュという少女にあった。

 体中に様々な文様をペインティングして、マジックアイテムと思われるアクセサリーをジャラジャラとつけていた。美人ではあったが、吊り目で、気の強そうな女で、他の人間のように俺を『尊いもの』として扱わなかった。正直に言って、俺は、それが気に入らなかった。

「サバナルの王を殺してはダメ。今、古文書を解読しているの。それが解読できれば、確実に妖魔が倒せる……だから、半月、待ちなさい」

 俺が魔王を倒すために呼び出された勇者だと知り、彼女はそう言った。

 しかし、妖魔はたびたび国境を越え、近隣の村を襲っていた。少女の言葉は気になったが、妖魔の襲撃のたびに人が死んでいて。猶予はない、と俺は思った。そう――俺は、待たなかった。

そして、妖魔に侵されたという国へ救世主よろしく乗り込み、文字通り、妖魔たち相手に無双した。勇者の剣を手にした俺は、面白いように無敵だった。

 俺は、サバナルの宮殿へと押し入り、緑色の肌をして、髪を触手のように動かす妖魔の群れを容赦なく殲滅し、玉座へたどり着いた。

「魔王、サルガス。覚悟しろ」

 緑色の肌をした玉座に座った男は、黒いカラスを肩にのせ、ニヤリと俺を見た。

「これはこれは、勇者どの。勇者の剣を使いこなすことが、貴様にできるかな?」

魔王サルガスは、俺を見て嘲笑した。サルガスの余裕の笑みの意味を、俺は理解していなかった。

魔王は、確かに他の妖魔のように簡単ではなかった。しかし、俺の敵ではなかった。

剣は魔王サルガスの身体を貫いた。断末魔の絶叫。力を失って崩れ落ちていくサルガスの肩にとまっていたカラスの姿が、いつの間にか見えなくなっていたことに、俺は気が付かなった。

魔王、サルガスを俺は殺し、俺は意気揚々と国境へとやってきたのだ。

街道に配備されたブランクルの兵士たちの姿を見た時、俺はてっきり手放しの祝福と感謝を向けられると、信じていた。

「勇者の剣をお返しいただけますか?」

 うやうやしく、兵の一人がそう言って。俺は、何の疑問も持たずに、剣をそいつに渡した。

 刹那。

 俺の背後に兵の一人が回って、剣を俺に突き立てた。

「な?」

 咄嗟に致命傷を避けられたのは、まがりなりにも実戦経験を積んでいたからであろうか?

 兵士の剣は俺の鎧の肩に突き立てられた。

「風刃!」

 鋭い女性の声と同時に、兵士たちが俺の周りから吹き飛ばされた。

「君は?」

 見覚えのある、気の強そうな瞳。

「私の名前はベネトナシュ――お願いしたはずよ。半月待てと」

 彼女の瞳に、怒りと、悲しみの色が浮かぶ。俺が、その意味を知るのは、もっと先のことだ。

 暗雲が垂れ込める。

 彼女の力で、俺を囲んだ兵士たちが崩れ落ちて。

「妖魔は、人、だったのか?」

 俺はぼんやりとした頭でそう呟く。

「そうよ。あなたが倒した妖魔は、すべて、かつてひとだった。でも、気に病む必要はないわ――もう、救えなかったのだから」

 ベネトナシュはそう言って、小さく首を振ったのだった。


あらすじ欄にもあるとおり、一部、感想欄と重複があります。


本人が書いておりますので、盗作ではありませぬ。念のため。

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