少女とは何か?
月。
空に浮かぶ、月。赤い赤い。赤い月は、ニンゲンさん達にとっては怖いものかもしれないけど、私にとってはとっても大事な、大事なチカラの源なのです。
月の光は明るくて、眩しい。眩しいから、うれしい。うれしいとチカラもどんどん湧いてきますよね?つまりは、そういうことなんです。
ニンゲンさん達も一緒ですよね?私の姉がそう言っていました。あの姉が言うのですから間違いありません。
……それにしても、いま私はあのニンゲンさんと会話をしているんですね。感激。感激の極み。
あぁ、ニンゲンさん達とお話がしたいと思い立ったあの日から今まで、ずいぶんと時間がたってしまいました。
あの頃はまだ私も幼かった。そう、まるでかわいいくて出来の良い、ほんの小さな子供だったのです。自分で言うのもなんですが、正しいので仕方ありませんね。私は嘘がつけないのです。やっかいな性分なんです。
「あの家の娘はとても聡明でうらやましいわ」「奥さん、いったいお嬢さんにどのような教育をなされているの」「私の娘にも見習わせたいものだわ」などなどご近所の評判も上々。
自然と社交界での評判もうなぎのぼり。それはそれは輝かしい日々でした。
そうこうしているうちに何百年の月日が流れて、ようやく半人前の私です。
なぜそんなに優秀なのに半人前かって?ほめても何も出ませんよ、ええだって当然ですもの。
そうですね、それを話すにはざっと50年くらいはかかりますね。
まずは……はい、いいですか、そもそも私たちが生きる近代魔界の資本主義市場では……
……などというように、共産主義建設の挫折は資本主義における市場経済の優位性を逆説的に証明する結果となってしまいました。
次はネオ・リベラリズムの発展とその系譜について、、、
……現代魔界経済思想はまだまだ発展途上の段階ともいえます。私たちは先人たちの知恵を生かし、現代魔界を取り巻く様々な問題にどう立ち向かっていくのか。
私たちは考えなくてはならないのです。
っと、あっという間に50年たってしまいましたね。惜しいですが今日の講義はここまで。
次回までに近代から現代までの魔界における市場経済の流れをレポートにまとめて提出してくださいね。
きいていますか?
***
話がそれてしまいました。いやはや、口がのってしまうと出任せもポンポンと。
どうか許してくださいませね。
それで、何のお話しでしたっけ?
ああ、そうそう。私がなぜ半人前なのか、でしたね。
簡単に言ってしまえば、そうですね、修行が足りないでもいいましょうか。
魔界では学士号を取ることでようやく一人前として認められます。
そして、学士号を取るには、ニンゲンさんを一人パートナーとして契約し、そのニンゲンさんとともにニンゲンさんの世界で30年間修行しなければならない、いわば留学制度がつい100年前に定められたのです。
面倒な制度だー学費の無駄遣いだーなどと抗議している方々もいらっしゃいますが、ニンゲンさんとともに暮らせるなんてワクワクものですよね。
いくら魔界でもグローバリズムの波には抗えないのです。素晴らしい。
***
と、いうわけで。
うすうす感づかれているかもしれませんが、そうです、あなたが私のパートナーです、ニンゲンさん。
大丈夫です安心してください。私と契約している間、あなたは年を取りません。
私の50年にわたるありがたい講義を聞いても何ともないでしょう?そういうことですよ。
ええ、ええ。まだ困惑してらっしゃいますね。無理もないことです。
まぁいずれ慣れますから。慣れてください。
目的は何かって?よくぞ聞いてくれました。
私が先ほども申し上げた通り、私は一人前となるためあなたと修行をしなければならないのです。
そして、その修行というのはズバリ、「ニンゲンさん達のタマシイを集めること」なんです!
……胡散臭そうな目で見つめないで頂けますか。
私たちは悪魔です。悪魔はニンゲンさんのタマシイを抜き取る技術を身につけて初めて、一人前として認められるのです。
ただ20年生きただけで大人になれるような、そんな甘い世界ではないのですよ。
そんなわけですから、あなたにはこの先30年、しっかり協力していただきますからね。
何です?あなたにメリットがないと?
……。
それはどうでしょうか。
そうですね……。いま私から言えるのは、一つだけ。
きっと面白いものが見られますよ。
あなたの100年足らずの人生なんて、目じゃないくらいのね?