舞台裏〜極秘の相談室
二の句が告げられないように二人を黙らせて(大丈夫、そうなる発言を理解した上で言っているから)二人を部屋に返した。特にヒルダは女性だからな、あまり遅い時間に廊下をうろつくのは頂けない。
「へー?で、それ以上のことは黙秘した、って訳だ」
「……ハル。お前何時から居た」
「んー?ヒルダが兄上の部屋の扉を弱々しく叩いた辺りから?この部屋に来ようと思ったら何か難しい顔した二人が歩いていたからな」
「………………」
それはつまり最初からだろうが。
まぁいい、とハルに先程まで先客が座っていたソファを示し座るように促す。
「あの二人、帰り際まで随分疑り深い顔をしていたな。それを面に出したって相手が鉄仮面じゃあ意味無いのに」
……開口一番に言う言葉はソレか?
我が義弟ながらハルは変わっているの一言につきる。
そう、王族としても貴族としても、第二王子は変わり者だ。古きを重んじる貴族連中からは煙たがられたり軽んじられたりしているが本人は何処吹く風。いっそそうあるように自分から仕向けている辺り頭が良いとしか思えない。その悪知恵を駆使すれば玉座だって狙えるだろうに―――なのに義弟は俺には全幅の信頼を寄せてくれる。
『俺?俺はダメダメ。俺や義弟より兄貴が玉座に就くのが国民にとって一番望まれている結果が見え見えなの。俺はそれを助けるくらいが丁度いーんだって』
口も話の中身も一見軽そうだが、ハルはぶれない。それがどれ程貴重なことなのか俺も、そしてハル本人も知っている。
だからだろうか―――俺にとって義弟は数少ない『信頼出来る』人間の一人なのだ。
だからこそこうして騎士団まで着いてきてくれたのだろう。
そのハルはひととおり二人についた話を振った後、「で?」と問い掛けた。
その視線の意味を問い返さずとも判る。
「今のところ変わり無し、だな―――『解放』」
呟く。
言葉は微かな音となったが、重要なのは声の大きさではない。
言葉は合図だ。何事も省略や簡略は可能だろうが、在るべきものを有るべき形で遣うには正式な手順を踏まなくては意味がない。……彼等は、その本当の意味に気付くだろうか。
手の甲に力が集まるのを感じる。複雑な紋様が仰々しく描かれてその存在を主張していく。
本当に『刻印』とはよく言ったものだ。
「……『王』、『盾』、『隼』に……『炎』」
「また確実に増えているなぁ、ソレ。……でもちょっと複雑になっている、か?」
「そうだな、それは俺も思っていた」
俺の『刻印』を覗き込みながらハルは感心したように呟く。まぁ確かにこれを見たらそう思うのも納得だが。
この『刻印』がどういうものなのか知っているものはごく一握りの人間だけ。
それを正しく理解できる者に『刻印』が与えられるとは限らないので、おいそれと拡めるわけにはいかないというのが最大の理由だが。
「面白いくらい集まってくるなぁ……流石『王の刻印』」
「ハル」
「はいはい。一体何処まで姿を現すのか。……ま、俺は別にそこまで心配していませんから」
「あまり楽天的になるなよ」
「大丈夫、兄上がその分要心しているでしょう?」
からからと笑っているが、俺は義弟はそう見せかけているだけだと知っているのでそれ以上は深く聞くことはしない。
「それで、どうだ?」
「んー、今のところ予定に変わり無し。向こうはまだ気付いていないだろうしね、叩き所だ」
「そうか」
このまま行けば何れ『その場所』に辿り着くということ。……この作戦について侯爵の耳にでも事前に入ったら、先ずこの騎士団が潰されるので、後でもう一度隊長に注意を促さなくては。
その彼女は、どうだろうか。
ふと過るのは真っ直ぐな瞳。
彼女は、どうだろうか。
これから行う『計画』には彼女の存在が必要になる。それだけは間違いない。こうして状況が刻一刻と移ろっていても、今回彼女を起点としていることだけは変えられない一点だからだ。
しかし彼女はどうだろうか。
彼女はハッキリ言って一見は普通だ。何処にでもいるようなご令嬢。そう、『愚弟の婚約者』『侯爵家のご令嬢』という称号を失えば何処にでもいる『貴族令嬢』と変わらない―――だけどどうしてだろう、その瞳だけは何時も真っ直ぐだった。
愚弟と共に在った時も。
王の前で嘆願をした時も。
そして―――この騎士団に在る時も。
彼女は確かに何処にでもいるような『侯爵令嬢』で、だけどどうしてか折れることの無い靱やかな女性だ。
だからだろうか。
『―――畏れながら、陛下』
どうして立ち上がる。
どうして立ち上がれる。
本当は関わらせるべきでは無いと思うのに、だけどどうしてかそれは『NO』だと何処かで警鐘が鳴る。
何時も思い浮かぶのはあのときの瞳。
弱いはずの令嬢。
周りが思うより彼女は強い。
どんな状況でも背筋を伸ばして立ち上がる―――その姿勢が彼女を『ただの侯爵令嬢』だとしないのか。
だから同時に不安に思う。
彼女は、大丈夫なのか。
「……ヒルダには」
「んー……恐らくギリギリまで伏せるでしょう」
「当然、か」
本当は関わらせるべきでは無いと誰もが思うが彼女以上に最適な人間が居ないのではどうしようもない。
はぁ、とどちらからともなく溜め息が溢れるのは仕方がなかった。




