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『剣の刻印』の始まり。

―――これはまた度肝を抜かれた。



目の前の侯爵も然り、この場に居る総ての者達が同じ心境だろう―――唯一、陛下を除いて。




見事な栗色の髪を複雑に結い上げ、完璧な仕草で頭を垂れる娘。彼女こそ『第三王子』の婚約者である―――正確には『あった』―――侯爵令嬢だ。

密偵から先に聞かされていた情報ではあったが、正直開いた口が塞がらなかった。勿論第三王子の所存について、だ。


一体何を考えているのかさっぱり分からないというのが俺と俺の兄との揺るぎない意見だった。


しかし、俺は今この場面に立ち会って、ただそうかとだけ思った。



そうか。

『剣の刻印』のゲームはこうして始まったのか、と。



『剣の刻印』―――そう、それは俺が幼い頃から漠然と覚えていた『ゲーム』の記憶。

其はとある王国の騎士団を舞台に拡げられるシュミレーションゲームだった。闘いに明くるのも良し、王国の改革を行うも良し、プレイヤーによって目指す方向は異なるが、結末(ゴール)は主人公が王国の騎士団長になるまで。

要するに、騎士団長にならなければ『永遠に終わらない』という、前代未聞なゲームだった。

人によっては若いうちにとっとと成長させてオマケであるアフターストーリー(課金制)を謳歌したり、ロマンスグレーなナイスミドルになるまで主人公を愛用したり、かと思えばこんな寄り道アリか!?と問いかけたくなるような職業選択が出来たりと、あまりにフリーダムすぎてまぁようやるわー、みたいな感想を持っていたのだか。



ちょっと待った。

今の俺、完全にその世界の住人じゃね?



衝撃すぎて気がついた時(御年7歳)はさすがに熱を出してぶっ倒れた。今思えばまだ繊細だったな、俺。


そんなわけでとりあえず現状を窺いながら色々と探ってきたのだが、此処に来て漸く、あー、これ物語始まるフラグ?な現状に気がついた。



この侯爵令嬢、このまま進めばかなり重要なポジションに来るだろう―――そしてそれは間違いない。



…………だけど、実際に知っているはずの『侯爵令嬢』と、いまいちキャラが被らないんだよなー。

『剣の刻印』の『侯爵令嬢』はどちらかというと『典型的な貴族のお嬢様』という立ち位置で、こんな婚約者に捨てられました、な弱々しいキャラじゃなかったハズ。

まぁこの調子だと実際のスタートラインに着くまでにはまだまだ、って感じもするけどさ。

それに所詮ゲームはゲーム、その知識は是非とも参考程度にしておくのが正解ってもんだ。




「……何だ、何か企んでいる顔じゃないか?」

「失敬な、俺は何時でも真面目だ」


お互いの顔色は真面目さを崩さず、ぼそぼそと兄貴が俺に話しかけてきた。というか、大概失敬だな本当に。


「ふーん?……まぁいいけどさ。で?」

さほど俺の行動に興味も無いだろうに、さらりと話を流すとちらりと侯爵令嬢の方に視線を戻す。

王との会話は厳かに続いていた。

俺達は会話を挟むわけでは無いので耳を向けて内容を聴くくらいで丁度いい。

その兄貴の視線は何かを掴むために問いかけてくる。


―――――…………読めない。


兄貴の表情はいつものポーカーフェイスを崩さない。


何時もながら尊敬する―――そして今後間違いなく『重要人物』になるであろう兄貴。

正直あのゲームは操作する人物によって様々な物語になるので一概に『こうなる!!』と言いきれないのが痛いが、大筋ではそう変わらないだろうと俺は睨んでいる。



さて。

この『兄貴』や『侯爵令嬢』は一体何を仕出かしてくれるのだろうか。




あー、面白い。

勿論脇から見ているからだが、自分じゃない話は気楽。重要だからもう一度。非常に気楽。





「……だから一人で納得するな、お前は」

「おっと、こりゃ失礼しました、兄上」


勿論此方の『主要人物』に牙なんか向けませんよ。俺は何処かの『誰かさん』とは違う。


そう、筋書き通りなんかなるはずはない。

知っている『現状』と『現実』は似ていて異なっている―――だけど。




多分。

コイツらが『メインストーリー』に沿っているという事実だけはきっと変わらない。

それは『そういうものだから』じゃない。元々の立ち位置が重要なポジションだからだ。



『剣の刻印』は結末が千差万別。




さて、この話の結末(エンディング)はどうなることやら――――整った顔の『侯爵令嬢』を見ながら俺は心が踊るのを確かに感じていた。



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