》13話
「君達、じゃれ合うのはいい加減にしなさい。そのままでは話が進まないよ?」
横で賑やかな言い合いをしているケインとエレンの方を見ながら隊長はほら、と問いかける。その表情に言い合いをぴたりと止めた二人(何気に息が合っているのよね)は「すみません」と頭を下げて隊長を見返した。
「さて。二人は何故今なのか、と問いたいのだろう?」
隊長は問う瞳を私とエレンの方に向けて来た。ええ、その通りです。当然疑問だらけですから。
まぁ私の場合ここに来た経歴すらあやふやすぎて、何故?と何時も問うてしまうのはもう仕方がないと思うの。
隊長はいつもその疑問に耳を傾けてくれる。上役の人って普通そんなに親身になってくれる人は居ないから隊長は―――この騎士団は―――居心地が良い。それは否定出来ない。今さら修道院で隠居生活ね、と言われても今の私の状態で籠ることが出来るのか―――正直五分五分な気がする。
だから出来るなら納得しておかないと私は先に進めない。この先の自分の在り方について。
もう面倒な性格だと充分に理解しているわよ。仕方ないじゃない。
「騎士団に相棒を必須としているのは色々な事情がある。当然御互いのカバーもそうだけど、勿論それだけでは無い」
「でもだからこそアインさんやケインさんにはもう相棒がいるのでは?」
「お二人はこの騎士団の所属も長いですよね?」
「ま、長いのは否定しないな」
「事実だしな」
「二人は特殊な事情があるんです」
「特殊……ですか?」
あら、何だか想定通りのテンプレが起こりそうな予感?
「君達はこの『王立騎士団』がどういう役目を持っているか知っているかい?」
と思ったら想定外の質問が来た。
え、なに?王立騎士団の役目?
「申し訳ありません。私は正直騎士団どころか警備等々の事には疎いもので……」
「……というかヒルダが詳しかったら俺達はびっくりだぜ」
ケインの呟きにアインも、隣にいるエレンまでうんうんと頷いている。ちょっと、皆で肯定するって酷くない?
そして隊長までもが苦笑いを浮かべている。ひどい。結果が解っている事を聞いてくるなんて。
「ヒルダは引っ張り込まれて来ましたからね、知らなくて当然ですよ。エレン、君は?」
「すみません、僕も近衛隊や軍部とは異なる特殊配属であるということくらいしか……」
「…………へぇ?」
「…………」
あ、ケインとアインが驚いたって顔をしている。ということは、これはあまり知られていないということ?
「近衛隊は内部、軍部は外部の配属……ですよね?」
おず、と尋ねてみる。
「ええ、その通りです。もう少し詳しく言うならちょっと複雑になりますが大体それで合っています」
「……あの、騎士団はどちらにも所属して居ない、と言っていました?」
「ええ」
「…………え?」
増々訳が分からない。どういうこと?
一人……いえ、正確には二人、理解が出来ていないという私達を訳知り顔のケインがニヤニヤと見る―――何だか腹立たしいわよ。
「近衛隊や軍部も一枚岩ではないですが、二つの役目は国の内と外に向いているんです。大きな所でそれは変わりません。ですが騎士団はそうでは無いのですよ」
「そもそも騎士団はその為に作られたわけではないからな」
「……その先は伺っても?」
―――問題無いのか。
エレンの言葉はそう言っている。
こうして問われている以上変な会話にはならないでしょうが知らなくて良いことは深く関わるべきではない。
私も、エレンも。
騎士団への配属があまり一般的では無かったから。
隊長は、鷹揚に笑う。
アインもケインも笑う。
……それが、答え?
「君達を『補佐』にしていきたいということは最初から決まっていた。此処に配属させた段階で」
あの隊長?さらっと重要そうな事を言わないで下さい?
「後は適性があるか、見極めるだけだった。それも1年の期間を置いたことで『可』と判断した」
そりゃあ確認する方は確認される方に『確認しているから頑張れ☆』みたいなことは言わないでしょうけど、ねぇアイン?そんな真面目そうに言わないでよ。
「良かったなぁ二人共。1年で認められるっつーのはかなり早い方だぜ?」
いえいえケイン。からからと笑いながら嬉しそうに言われたところでこっちは全くついていっていませんからね?
「……有り得ない……」
そう、エレン。
それこそが真理よ。
御決まりの額を押さえるポーズのエレンに賛同をしていると、不意にアインが宙に視線を向けた。
「―――ケイン」
「ん?……ああ」
「……ああ、野暮ですね」
三者三様の反応をしながら何もない宙を見ている。―――え、なに?
3人が向けている方に視線を向けてみる。
そっちは本棚が鎮座しているだけ。ぎっしり隙間など無く仕舞われた本棚。
―――――…………?
本棚のはず、だけど。
「……あの……」
何だか違和感を感じて思わずアインの方に視線を送ると、アインは指を立てて『静かに』とポーズを取る。
あ、言葉に出すなということね?
私がそう判断して口を噤むとほぼ同時にケインが何かを口ずさむ。
『―――…………』
聞き慣れない言葉で何と言っているのか解らなかったけれど、何かを唱えたとほぼ同時に。
――――――キィン……
「え?」
「これは……」
気付くとあまり大きくない程度に『結界』が張られていた。普通に考えられる『魔術』とは何か異なる力を感じるけれど、それが何なのか検討がつかない。
何時の間に?
「エレン、君には『見えた』かい?」
「…………いいえ」
「ヒルダ、君は『聴こえた』かい?」
「……いいえ……」
そもそも何が始まったのかすらちゃんと理解できていないです。
隊長。
もう小出しとかいいですから。
いい笑顔とか要らないですから。
とりあえずこの『結界』が何か結論だけ下さい。