舞台裏〜騎士団の休憩室・2
「さーて、どう出るかな?」
何だかおかしな方向に進んでいる『らしい』学園の内情を掴んでから数日、どういう方向で探るか考えていたら何故か向こうからネタがやってきた。
まじか。
しかもあまりにも当てにしていなかったところから。
とりあえず手紙を透かしたり炙ったり色々検分してみて変なことは起きなかったので、それなら話し半分で聞いてみるかなーと判じた。
結論が出るまでまだ兄貴には言えないなこりゃ。
先日兄貴達がケインに対する任務から帰還したあの時、俺は俺で別任務に当たっていた。
特に急務ではないが諜報要員としては早急に手を打つべきと思ったので、兄貴達には悪いが俺はその任務を優先させて貰った。
何しろ依頼は『国王陛下直々』に、『王立騎士団諜報部』に来たのだ。
『王立騎士団諜報部』とは即ち、様々な場所へ内密に調べものをしたり、時には引っ掻き回したり多方面に諜報活動をする『大っぴらに出来ない集団』の総称で、俺は現在その部所に属している。
諜報部は基本隠密部隊。
だから活動内容処かメンバーですら詳しく認識されていない―――それこそメンバー自身ですら。
まぁそこは今はどうでもいい。
問題は『国王陛下直々』に依頼されたこと。
学生の問題には今まで我関せずで不可侵を貫いてきた学園に対して。
何か超キナ臭くね?
というか何で今?
数々の疑問を腹に抱えながら俺はとりあえず探りを入れた。
俺は学園には入らなかった。
入るという選択肢もあったが、俺は『剣の刻印』のストーリーの必要性からそんなところで無駄な時間を使うより自己啓発に励むべきだと思ったので。
だから正確な学園の情報というものは正直掴みきれていない。
昨年度までは幼馴染みのマリィが学園に居たのでそれとなーく探ってはみたけれど、やっぱりあの学園の内情は要領を得ない。
変なことはそれだけではない。
第二妃との関係性もだ。
うちの国はそれなりな大きさを誇っている。当然王宮もそれなりの規模がある(父王も大変だな)が、不気味なほど『王宮には問題は無い』はずだった―――『剣の刻印』では。
ところがどうだ、蓋を開けてみれば第二妃は典型的なお貴族様ドストライク。周りの貴族の筆頭家中の筆頭とかシャレにならん。
挙げ句の果てに第三王子に王冠を載せたいの、の空気をプンプンさせやがる。
ふざけんな。
俺はそんなの認めない。
ヴィヴィアンが甘ちゃんだということを差し引いても現状アイツがこの王国の頂点に立つなど役者が足りない。
いや、寧ろヒルダとの婚約破綻劇を考えたら有り得ないの一言だ。
悪いが俺はヒルダのように甘くはない。
あれが俺や王宮や民や―――尊敬する兄貴の障害になるというなら容赦なく潰してやる。
『ハル―――ハル?お前まーたこんなところにいたのか?』
困ったやつだな、と言いながら俺に手を差しのべてくれた兄貴。
ここで俺が俺として生きることに順応出来たのは兄貴が居てこそ。
だから俺にとって兄貴の為に在ることが第一だ。
『剣の刻印』の影響だからじゃない。
俺が兄貴の為になりたいのだ。
諜報部に属しているのもその一つ。
表立った『武』については兄貴一人で十分。
俺は違う方向から役に立てればいいのだ。
だからこそ――――不可解は無くしていくべき。
そういうものだろ?
――――だからこれはどう捉えるべきか悩む。
「こいつ何か変なもんでも食ったのか?…………謎だろ」
手紙の主―――第二妃の娘であり俺にとっても唯一の妹。
常日頃からそう顔を合わせてきた訳じゃない(何しろ第二妃が子供達をおいそれと俺や兄貴などに近付けなかったからな)が、何故、今更、俺に連絡なんぞ寄越してきたのか。
アイツは今学園に行っている。
そんな妹が俺に連絡を寄越すなど何か裏があるかと邪推してしまうのも仕方がないだろう?
それからもうひとつ疑問がある。
『―――は?それはどういうことだ?』
『それは俺も知りたいところだね。妹が弟を見限ったなんて噂、どうしたもんか。解せないのは第二妃はおろか貴族連中の口端にもそんな噂の片鱗も上がっていない。なのに噂だけは伝わっているんだ』
『その情報は?』
『どうも今年の学園卒業生、しかも大半が子女かららしいぜ?』
『…………気になるな』
『だろう?』
噂は大々的ではないけれど、ジワジワと主に若い世代に広まっているという。
全く、想定外だ。
だけどこうなっているならまずはどういう経緯から起きたのか突き詰めないといけない。
―――これ以上後手に回れるか。
「さーて、吉と出るか凶と出るか……ま、どうなったとしても吉に変えてやるけどな」
兄貴が見たら『また何企んでいるんだ?』と苦笑いする笑みが思わず浮かぶ。
大丈夫だ、兄貴。
俺は失策さえしなければいいのだ。
さて、この挑戦状、受けて立とうじゃないか。