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薔薇の刻印(スティグマ)  作者: 多岐濟
一章~まだ、蕾は綻ばず~
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舞台裏〜騎士団の休憩室・1

「へぇ?マリィが?」

「お前に聞けと言ってきた」


自室のベッドに腰掛けるハルに俺はそのまま尋ねた。回りくどいのは嫌いだ、特にこういう場面では。

にやにやと何が楽しいのか異母弟(ハル)は俺に話の先を促してくる。


マリィ、というのは『マルトゥリーデ子爵令嬢』の愛称で、ハルにとっては幼馴染みに当たる。

『ハイヴァルク殿下に聞いてみて?』と彼女が言っていたのもそういう経緯があるのだ。


――――尤も、俺からしたらハルも令嬢も『只の悪ガキ』というカテゴリーに入っているのだが、本人には絶対言わない。








今日は想定していたとはいえケインはやらかしてくれた。余りに予想通り過ぎて説教に熱が入ってしまうくらいには。


本来ケインが得意とするのは本人を知るものからすれば心底意外だか(失礼)、強固な防御魔法なのだ。ただし、本人の『あの』性格が災いしてかどうもその防御魔法を有らぬ方向に発揮してしまう。

ちゃんと発揮すれば恐らくこの国での古からの使い手でも5本指に入るだろう。



あくまでちゃんと発揮すれば、の話だが。



今日はそれを応用しての捕縛任務。更にエレンを付けたのはケインの補佐に適任かを見極める為でもあった。

エレンは任務経験から考えれば良くやった。

ケインが普段通りの規模の暴走を発揮したらもっと周りの家屋に被害が及んでいただろう。

勿論ケイン自身が日々力を使いこなしてきている事を考慮してもエレンの補佐は期待以上だった。

及第点だ、と俺は判断した。


そういう意味では実に意味のある実地だった。

―――くどいようだがあくまでそういう意味で、だ。




『アイン、あの、そろそろ一刻半を過ぎますから引き上げるべきですよ?』

『…………ヒルダ?』

『とりあえず『彼等』に補修の依頼をしましたから私達は引き上げないといけないでしょう?一応応急措置だけは施しましたが早急に直しておかないと時間が無くなりますよ』

『……早いな、ヒルダ』

『というよりアインの説教が長すぎなんだよなぁ?エレン』(小声)

『止めてくださいケインさん、僕を巻き込むのは』(小声)

『聞こえているからな二人とも』


ひいっ、と唸るケインを黙殺しながら早く、と促すヒルダに倣って帰還した。

内心この侯爵令嬢も変わってきたな、と思いながら。

当然いい意味で、と加えておく。





ヒルガディア・マクベスという令嬢と正面から話したのは彼女がこの騎士団に移されてからだ。

ヒルダが異母弟(ヴィヴィアン)の婚約者となったのはかなり昔だったし、何よりヴィヴィアンの母は権力固執の塊のような女性だった。自ずと俺やハルにはヴィヴィアンを近づけようとしなかったし、俺達も下手に刺激しないように近付かないようにしてきた。


年齢もそれなりに空いていたことも一因だろう。


マクベス侯爵家は由緒ある家系だし王家としても信頼している家でもあった。だからこそ年齢の近い彼等を婚約させたのだろうが―――





我が愚弟は驚くほど愚弟だったのだと知った時には総て後手に回っていた。






忠臣である侯爵家の令嬢に有り得ないほどの烙印を押し付けて。







その一報を聞いた時最初は何の冗談かと思ったがそれは冗談でも何でもなく、ヒルダは身一つで陛下に嘆願(・・)してきた。婚約の解消と、修道院への辞去。――――それから己の侯爵家との絶縁(・・)を。



学園の内部で何が起きたのか詳しくは知らない。恐らくハルは詳しく調べたのだろうがこの時の俺は余りの有り得なさに本気で目眩を起こしそうになった。この時ばかりは己の強靭なポーカーフェイスに心底感謝した。


視界に入るのは侯爵の怒りで血管が切れそうな表情(を上手く隠しているがオーラが消えていない)と、妙に冷めた笑顔(だけど今にも剣を抜いて飛び掛かりそう)な侯爵家長男の姿。


このまま王家滅ぶんじゃね?


正直周りの人間達の心は1つになっていたと思う。






それより戸惑いを感じたのは、身一つで総ての軋轢を負って(しま)おうとする彼女(ヒルダ)―――何故、と思う。


確かに切ってしまうのが一番簡単で、だけど、と思う。


どうして、それを負うのが何の咎の無い侯爵令嬢(きみ)なのだ。

どうして、そんなに何もかも一人でなんとかしようとするのだ。



それを一人でなんとかするには―――重すぎるだろう。












「お前なら学園の内情をある程度把握出来ているのだろう?正直捨て置いてもいいかと思ったが……」

「うちの愚弟(おばかさん)愚妹(じゃじゃうま)が変なことしそうだって?それこそ今更じゃないか」

「だが歓迎出来ない方向に行っているのだろう?」


マルトゥリーデの言から考えればその光景は簡単に予測がつく。


あの学園は一種の箱庭だ。外部からの影響を受けない代わりに外部から遮断されている、云わば独裁国家。


そして学園(あそこ)は所謂子息子女の巣窟だった。そう、その後の人間関係に多大な影響くらいは落とすくらいに。残念なことに俺もハルもあの学園には行かなかったので聞きかじりが大半だが。



『マクベス侯爵家』を落とす事をあの中の人間は一体何れだけ把握出来ていたのか―――恐らく殆どの人間は認知していないのでは。

そうでなきゃああもあっさりヒルダが学園を切って嘆願出来る筈もない。




だけど今の俺があの学園にテコ入れするには理由が足りない。

そして、それはハルも同様に。




「……流石兄貴。良く解っている」




ニッと笑いながらハルは悪戯をした子供のように笑う。全然可愛くない。

「正直外の人間は彼処に手を出せない。愚弟愚妹(あいつら)がこれ以上ヘマでもしたら王家(うち)は滅ぶね、確実に斬られる―――家臣達に」

「だろうな」


それは火を見るより明らかだ。


「だけどな、今ちょーっと愉快な事になっているぞ、学園は。流石の俺もこれは想像出来なかったわ」

「……は?」







くつくつと笑うハルが口にした内容は―――確かに想定外としか言えなかった。







おい、一体何が起きているんだ?







ただひとつ解っているのは、その始まりがヒルダの婚約破綻劇からだという事実だけだった。



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