四
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ベッドに座る、一人の少女。隣に座る祖の神が、少女を抱きしめる。
「ごめんね、巻き込んで」
少女は泣くこともせず、話すこともせず、ただそこにいるだけだった。
「俺が行っておけば……」
うつむきながら、後悔する赤目の男性。時計の針が、一つ進んだ。
「あんたは悪くはないよ。悪いのは蓄積の神と欺罔の神、あとは私自身」
赤目の彼が、彼女へと近づく。
「訂正しろ。お前を抜くか、俺も含めるかのどちらかだ」
彼は彼女の隣に座ると、大きく後ろへ手をついた。
「とりあえず、お前の力でその子を返しておいてやれよ。反省や後始末はそのあとだ」
彼女は無言で頷くと、少女の額へと手をかざした。こちらの世界に来てからの記憶、経験、出会い、全て。彼女の手によって……
差し出されたコップ、それを受け取ると一気に飲み干した。
「一体、何があったんだ?」
彼は彼女に尋ねる。彼女は大きく息を吐き出すと、ゆっくりと話し始めた。
「真愛ちゃんを追って、向こうの世界に行ったんだけどね。ネーピア・ボネスって人も確かに作ったんだけど、思ってた以上に弱かったんだよ。だから……」
「そいつの記憶を探ったのか」
小さく頷く。中身のないコップを、彼女は両手で包み込む。
「そしたら本当は貯蓄の神で、ボスとして設定していた老婆もそいつの仲間だった。」
なるほどなぁ、と腕組みしながら壁に立ったままもたれ掛っている。
「考え方は簡単、真愛ちゃんの力を己の傘下に置き、その世界のトップになる。その世界で無双出来る力を手中に収めれば、反抗勢力が生まれたとしても一掃できる。簡単でしょ?」
遥か昔、人間の誰かが言っていた。人間は愚かだと。だが神も変わらない。
「じゃあ取りあえず、今後の依頼の見極め方からだな。正直このままでは、また利用されかねないからな。取りあえずそれ、片づけてくる」
彼は一人彼女の持つコップを手にすると、その部屋を後にした。
夜空に咲く光の華。それはほんの一瞬だけ輝き、消える。儚く、切ない。だがその一瞬は心に残る物である。
「ほら、真愛。花火始まったよ。起きて」
まだ眠い目をこすりながら、空の輝きを目にする。その美しさに、少女は思わず立ち上がった。また一つ、空へと花火が撃ちあがる。
「あれ、真愛。その水筒どうしたの? 家のじゃないでしょ?」
肩から下げられている水筒。蓋を開けて確認すると、緑茶が半分ほど。
「首からかけている物はどうしたの?」
真っ白なうさみみが付いたヘッドホン。少女はしばらく眺めると、それを頭につけた。
「わかんない」
「わかんないって、真愛!」
撃ちあがる花火の下。怒る母親をよそに、少女は楽しげに駆けて行った。