本編 最終話
――システムコール――
全プレイヤーのエンディングが確定致しました。これよりエンディングフェイズに移行します。
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「お、お父さんは認めないっ!」
週末の天気予報は快晴だし、ちょっと遠出して海に遊びに行こう! と、夏休みを満喫する計画で椿にーちゃんと盛り上がっていたら、白目を剥いて意識が彼方へ向けられていた中年が、不意にプルプルと震えながら叫んだ。
「認めないって……お父さん、そんなに海嫌いだったっけ?」
「雅春さんが海ではお嫌なら、山でキャンプか、プールでも……」
私が首を傾げて訝しむ傍ら、椿にーちゃんが穏やかな笑みを浮かべて代替案を出している。
「いつもお忙しい雅春さんに、リフレッシュしてもらいたいんです」
「……お、お父さんも、一緒に? え?」
はしっと中年の両手を握って真摯な労りの言葉を切々と告げる椿にーちゃんに、中年は戸惑いがちに瞬きを繰り返している。何だこの中年。自分だけ除け者にされるのが面白くないから海に行くなんて認めない発言か。
「私はどっちでも良いけどねー。お父さん、海で良いでしょ?
少し日焼けしたら男ぶりが上がるんじゃない?」
「えっ、そ、そうかな?」
「そうですよ! 雅春さんは元が良いんですから、海で磨きを掛けちゃいましょう」
「いやあ、そんな本当の事を照れるなあ~。じゃあ、週末は海に行って皆で焼こうか!」
麦茶を飲みながら私が適当に言うと、中年はパッと表情を輝かせ、すかさずヨイショした椿にーちゃんの言葉に乗せられて空高く舞い上がった。相変わらず、椿にーちゃんの中年操縦技術は見事の一言である。
「私は焼かないけどね」
「大丈夫、美鈴は色白でも日焼けしてても可愛いよ!」
勝手に巻き込まれてはたまらないと、念の為に宣言する私に、中年からバチコーン! とウザいウィンクが飛んでくるので、即座に羽虫の要領で払い除けておく。
「海かぁ、楽しみだねぇ」
「ねー。ミィちゃん泳げる?」
「そんなには。だから泳ぐよりもビーチボールで遊びたいかな」
楽しい計画を交わしたその週末。父の運転する車で海水浴場にまで赴き、我々は燦々とした日差しと熱気照りつける中、海へと挑んだのである。
「よーし、お父さんのミラクルスパイクを受けてみよ!」
「……ビーチボールでのミラクルって、どんなだろう?」
「分かった。きっと、打ったら狙い澄ましたように宙で空気と栓が抜けて、ボールが萎むんだよミィちゃん。まさに、消える魔球!」
どよどよ……と、動揺する私と椿にーちゃんに向けて父がとりゃあっ! と打ったスパイクは、ごく普通範囲の速度かつトスしやすいボールだったので、椿にーちゃんが危なげなく宙に打ち上げたビーチボールを私が全力で叩き返したら、中年は男らしい潔さを発揮し、顔面で受け止めていた。なるほど、この一連の流れこそがミラクルスパイクの真髄であるという事か……!
私の要望に合わせて椿にーちゃんが持ってきてくれたビーチボールで遊んでいたら、居合わせた海水浴客である子ども連れ家族さんのお子さんが、ビーチボールを羨ましがっていたのでビーチボールバレー対戦にお誘いし、中年が頭から砂浜に突っ込むというお約束が起きたり、椿にーちゃんに中年共々手を引っ張られて泳ぎの練習をしたり……てゆか中年、泳げんかったんかい。
「ミィちゃん、上手い上手い」
「お、お父さんだって、息継ぎぐらいぃぃぃっ!」
海の家で買ったかき氷を浜辺で勢い良くかき込み、頭痛に苦しむ中年を生ぬるい眼差しで眺めたり……
潮騒と海の匂い、眩い太陽の下、繰り広げられてゆくそんな楽しい光景が、
「ミィちゃん」
少しずつ、少しずつ遠ざかってゆく。
「美鈴! 海楽しかったね」
それはまるで、炭酸水の表面に次々と浮かんでは弾けて消えていく泡沫のように。
「いつかまた、一緒に遊ぼう」
笑う父の手が、私の手を握って……ゆっくりと離れていった。
*******
ウィーン……と、微かに低く、どこからか機械の駆動音が耳に届く。
ゆっくり、本当にゆっくりとだが、横たわっている寝台が移動しているような。
「み……り、もう……だぞ。……ろよ」
全く不愉快にならないほどに聞き慣れた低い声は、さざ波のように溶けて私の耳を素通りしてゆく。
ああ、そうだ。私はまだ眠たいんだ。
「みーのり。いい加減にしろよ」
ドサッと、身体の上に重たい何かが覆い被さってきた。ウザい。寝苦しい。
押しのけようとしたら半ば強引に揺さぶられて、私は唸りながら瞼を開いた。
「おはよう、みのり。
ようやく目が覚めたか、この浮気者」
起き抜けでぼやけていた視界が、瞬きを繰り返していくたびに焦点を結んでゆく。
私が起きた事に気が付いて、のしかかっていた男が身を起こした。
「……えーじ……」
乾いた喉から掠れた声が漏れる。つい先ほどまで見ていた甘やかな微笑みとは全く違う、嗜虐性を感じさせる笑みを浮かべて顔を覗き込んでくる。
「ちゃーんと目は覚めたか?」
それから逃れるように、私は上半身を起こして室内を見渡す。背後に一際目立つ、ドーナツを縦に立てたような機械装置。脳MRIの検査機械と似ている。先ほどの微妙な揺れは覚醒脳波を検知して、頭部があの輪っかの中に入る形になっていた寝台を動かした時の物だろう。
私は寝台脇のサイドテーブルに置かれていたミネラルウォーターのペットボトルを取り上げると蓋を開け、無言のまま水を飲んだ。
……正直なところ、いっそのことずっと目を覚ましたくなかったかもしれない。楽しい夢の記憶はきめ細かい砂粒のように、私の頭の中からサラサラと零れ落ちていく。
事前に理解して了承をしていたにも関わらず、こんな風に残念な気持ちを抱いてしまうんだもの。これは絶対売れるって、太鼓判捺しとくよお父さん。
「オハヨー、えーじ」
「ハッ。俺の言った通りになっただろう?」
そう言って、男はベッドの上でふんぞり返った。
どこか荒々しい空気を纏う風貌と、逞しく力強い印象を他者に与えるこの瑛司 (えいじ)がついさっきまであの、ほわっと癒やし気遣い系チャラ男属甘いマスクのイケメン椿にーちゃんを演じていただなんて、何の冗談であろうか。
「私の優しい椿にーちゃんカムバック……」
「ああん!?」
どうやら無意識のうちにボソッと本音を漏らしていたらしい。気色ばむ瑛司に、私はビクッと全身を震わせていた。
「結婚初日に俺と約束したよなあ、みのり?
浮気は厳禁、だと」
「そんなの、えーじが一方的に……」
気が付けば婚姻届に何故だか名前を書かされていて、新居に荷物よろしく運び込まれ、あれよあれよと言う間に結婚生活がスタートしていて何が何だか状態のまま、転入・転出届けから本籍まで変わる為に諸々の公的書類を取り寄せたり提出したりと、三年前の新婚当初は本当に大変だったのに。そんな鬱憤からもごもごと口の中で少々言葉を濁し、そうして今回の大義名分を掲げる。
「第一、今回の体感型乙女ゲームのテストプレイは、えーじが『お前も参加しろ』って言ったんじゃん!」
「ああ、言ったな。それと浮気は全くの別問題だ」
キッ! と睨み付けながら不満をぶつけると、瑛司はフンッと鼻を鳴らして吐き捨てた。
リアルの記憶も殆ど封じられ、朧気に思い出せるものは曖昧な『前世の記憶』扱いで表層に出てこないように抑制された夢うつつの状態で、異性と仲良くしたらリアルで浮気認定だなんて納得がいかーんっ!
ところでやっぱり、ゲーム中に『前世の記憶』としてリアル情報を思い描いていたプライベートな点……それも旦那の部分って、深層心理でこの男の事だと認識してたんだよね。
旦那持ちだったってのは間違いなく瑛司を指していて、じゃあそもそもまだ生まれてもいない息子っていったい……存在しない人物と椿にーちゃんが重ね合わせたりした事もあったりしたのだから、それもやっぱり瑛司のイメージかっ!? 『前世の息子』の事は人物像がほぼ思い出せなかったし。旦那の学生時代から抽出した曖昧な印象なら、結局のところ同一人物じゃん。貧困過ぎるぞ私の脳内イメージ。
ベッドから起き上がると、夢の中の中学生の身体ではない……二十八歳になった本来の私の短足がパジャマの裾から見えて、スリッパに足を入れながら思わず嘆息してしまう。
くーっ。お父さんには、プレイヤーキャラクター選択で『絶対に美少女か美女が良い! 出来たら大学生!』っておねだりしておいたのに!
「お父さん酷い。平凡な顔立ちの中学生って、夢の中ですら美少女体験が出来なかった……」
悔しさを滲ませた私の呟きに、瑛司は遠慮なく爆笑しやがった。何だよ、私が美少女に憧れちゃ悪いってのか。人好きのする甘い容姿でこそないけれど、リアルでも苦み走ったそこそこ整った顔立ちの瑛司には、十人並みの顔立ちである私がせめてゲームの世界での美貌を欲しがるのが、そんなに面白いのか?
「は、腹が捩れる……!
だよな、みのりなら絶対に美人女子大生を選んでるはずだって俺も思ったのに、中身別人だったもんな」
バンバン! と、ベッドを叩いて笑いながら頷く瑛司。すっかりと私の性格や嗜好が夫には読み切られていて、嘆かわしいやら安心するべきやら。
笑い転げる瑛司をむーっと頬を膨らませて睨み付けていると、プレイルームのドアが開き、白衣姿のお父さんが入ってきた。
「おはよう、みのり。体調に問題は無いか?」
笑いの発作を抑え込もうとしている瑛司の脇を無表情のまま通り過ぎ、お父さんは私の手首を掴んで脈を測る。
「普通に寝て起きただけ、って感じ。
まあ、一晩だけにしてはやけに長い夢だったなー、とは思うけど」
「そうか」
現実で過ぎ去る時間は一晩なのに、脳内高速処理で繰り広げられた夢の情景は、とてもリアルなものだった。五感をほぼ忠実に再現し、本当にあの世界を現実のものだと信じて疑わず、私は懸命にあそこで生きていた。
テストプレイヤー一人一人に直接確認して回っているらしいお父さんは、手にしていたバインダーに何事かを書き付け頷く。
……夢の中の雅春中年は面白父だったけれど、リアルである私の本当のお父さんは、感情をあまり表に出さないタイプで掴みにくい。小さい頃は、本気でお父さんに嫌われてるんだと思ってたし。
「ところでゲーム中に一回だけ、時間が巻き戻されたみたいに変な事があったけど。バグでも起きた?」
「いや。プレイヤーキャラクター『美鈴』の運動ステータスがイベントをこなすのに著しく不足していたせいで、危うくテストプレイ中に一名死亡という高難易度の状況が発生するところだったからな」
……ステータス表示機能とか無かったけど、やっぱり『美鈴』の運動能力低かったんだ。高かったら、多分何かあの場面でイベントが起こったんだろうなあ。
「『望愛』と『光』のゲームマスター権限で、痛覚一時遮断とデータをロードしてな。現場近隣に居合わせたゲームマスターの記憶保持効果が、間違って『美鈴』と『芹那』のプレイヤー二名にまで及んだとしばらく経ってから判明したお陰で、不要な部分のみ削除するのにゲームマスター側で大わらわだった。今後の要課題だな」
「ご面倒をお掛けして申し訳ありません……」
「こういった問題点を洗い出す為のテストプレイでもある。現実では交通事情に気をつけなさい」
淡々とそう言って、表情を変える事なくお父さんは私の頭を軽く撫でた。
「おはようございます、主任。
さて、姑息な妨害にもめげずにきちんと宣言通り俺はやり遂げてみせましたけど、これで約束通りきっちり認めて下さるんですよね?」
「……ああ、居たのか瑛司君」
そんなお父さんをして数少ない感情を揺らす存在が、私の旦那こと瑛司である。今も眉間に皺が寄って、お父さん相当嫌そう。……っていうかこれ、ゲーム中でも別に演技とかじゃなくて素だったんだよね、つまりは。
「ちょっとみのりちゃんどういう事っ!?」
常にギスギスしている父と夫のいつもの睨み合いは放置して、夢の世界で別れた夢の父 (平和系)を早くも懐かしんでいると、再びプレイルームのドアが開き、白衣の男性が飛び込んできた。
「どうした、騒がしいぞ」
「すみません主任。取り急ぎ確認したい事が……!」
瑛司との睨み合いを中断したお父さんが室内に飛び込んできた部下の彼を注意するも、私に何事か重要案件があるらしき彼はこちらにツカツカと距離を詰めてきた。無言のまま、彼との間に瑛司が割って入ってそれ以上の接近を拒否する。
「みのりちゃん、『葉山美鈴』をプレイしたんだよね?」
「そうですけど?」
瑛司の挙動に慣れっこな彼はとくにそれに対してリアクションせず、用件を切り出した。
私の望んだ美少女体験が出来なかったし、プレイ中にだっていったい何度『何で制作者様は中年を美形にしてくれなかった!』と嘆いた事か。実に侘びしいキャラクターだ……本当にもう、デザインを担当した社員さんは何故、プレイヤーキャラクターを全員美人にしなかったのか。
「俺が頑張って、夜なべに夜なべを重ねて慎重にプログラム組んだ『紳士雅春』が、何であんなイロモノキャラになってんのーっ!?」
「どうせなら美中年にして欲しかったです」
「いや、外見と中身は別の人間がそれぞれ組んだんだぜ?」
どうやらあの中年を設定した張本人らしいと、私が早速クレームを付けると、すかさず瑛司が空中に裏手をかましつつツッコミを入れてくる。
そうなのか、と頷いた私は、改めて中身についてのクレームを訴える事にした。
「あのボケボケっぷりで一児の父だなんて不安要素しか無いので、せめて奥さんと死別した設定は取り止めてあげて下さい」
「だからっ。それがおかしいんだって!
『葉山雅春』は、紳士で理知的で思いやり溢れる素敵ダンディーを目指して組んだのに……
テストプレイでプレイヤーの手に委ねたら、一晩でAIがイロモノキャラを確固たる個性として学習していたでござる」
「あー……」
「うむ……」
中年のプログラムを組んだ、いわば親である彼は、デジタルな世界の息子の変貌に、シクシクと泣き崩れている。
「俺がメールアドレスを確保して、ご自慢のダンディーと接触を図った時にはもうあんな感じだったな」
と、瑛司が証言し。
「私が隣人として雅春氏と話しをしていた際には、あまりおかしな点は見られなかったな。本当に気が付けばあのような人物になっていた、としか言えない。
……ただ、今思い起こせば比較的初期から妙にテンションが高い印象だった気もする」
と、お父さんも片手を顎に当てて記憶を探るようにして語った。
三人の視線が突き刺さり、私も必死で中年の様子を思い出してみた。
「……すごーく、小さい頃の雅春パパは、確かに比較的マトモだったような……?
で、でもでも、私は別に何もおかしな事はしてないですよ!?
小学校を卒業する日には滂沱してるような、気が付けば何かもうそんな感じでした!」
「そんなプロローグ段階で既に、イロモノ方向に育成方針を確定させてるとか……
てゆうか主任も隣人として配置されてたんですから、ちゃんと軌道修正を……!」
「あれでも試みた結果だ。私では無理だったようだ」
「そんなに言うなら、そもそもお前がダンディーと関わるキャラを選べよ」
「だって、天使の兄ポジだなんて美味しいじゃん?」
どうやらお父さんが『嘉月』として中年と交流を図っていたのには、まともなAIに教育し直すという目的もあったようだ。絶対にあれ、製作者が製作者だけに、この人が組んだ元々のプログラム素質が開花した結果だと思うんだけどなあ……
相性か、プレイヤーとの相性のせいなのか……などと、ブツブツ呟きながら、お父さんの部下さんはフラフラと退出してゆく。決して意図した訳ではないんですすみません。
「では、私は次のプレイヤーに会ってくる。
ミーティングは一時間半後だ。それまでに身支度を整えてミーティングルームに集合するように」
「はーい」
身を翻して隣室に向かおうとするお父さんに、瑛司が「主任」と呼び止めた。
「先ほどの答えをまだ、聞いていません」
「……大変不本意ではあるが、致し方あるまい。男に二言は無い」
ハーッと深い深い溜め息を吐いたお父さんは、バインダーを片手に額に手を当て、いかにも嫌々な態度を崩さず首肯した。グッとガッツポーズを取る瑛司。
いったい何の話だろう。
「ありがとうございます、お義父さん!」
あれ、瑛司が自分の上司である私のお父さんの事を義父と呼び掛けるのを、初めて聞いた。呼ばれた当のお父さん本人は、眉間の皺が深くなって無言のまま足早に退出してゆく。
「えーじ、お父さんと何を約束してたの?」
着替えを広げながら問うと、瑛司はニヤリと獰猛な笑みを浮かべた。
「聞きたいか?」
「嫌な予感がするから聞きたくな……」
「実はな。今回のテストプレイにあたって、プレイヤーには現実の記憶を表層に出さないでプレイを楽しめるよう、制御がかけられるだろう?」
私の拒否など無視して、夫は得々と語り始めた。
「言ってみれば、意図的に記憶喪失の状況を生み出せる訳だ」
「はあ……」
「更に、俺を娘婿として認めがたい鬼畜なお義父さんは、みのりや他のプレイヤーがそれぞれどのプレイヤーキャラクターを操っているのか、俺を含む全ゲームマスターに一切明かさなかった。
プレイヤーは全員記憶を封じられているから、共通の思い出からだって探り出せない」
それなのにしっかり、瑛司操る『椿』に発見された私って、どんだけ分かり易いんだ……?
「容姿も違う、リアルの記憶も忘れ去っている、与えられた状況設定の影響で、性格にも変化が出る……
そもそもプレイヤーキャラクターがどこに居るのかすら分からない」
かなり現実に準拠していたから、他者プレイヤーサーチ機能とか無かったしね。ひょっとすると、高度なAIならばプレイヤーとの見分けがつかないかも。中年は、明後日の方向に突き抜けて実に人間臭かったよ……
「さて。つまりはそんな状況下で、俺はきちんとみのりをみのりだと認識した状態で見つけ出して、もう一度惹かれさせる事が出来るのか? お義父さんから、そんな無茶ぶりをされた」
着替えのワンピースを頭から被ったところで、背後から伸びてきた瑛司の手が背中のジッパーを引き上げ、私はそのまま後ろから抱き締められていた。
そうして私の耳元に囁きかけるように、瑛司は低く呟く。
「例え記憶を失おうが、生まれ変わろうがそんなものは関係ない。
お前がどこに居ようと俺は必ず見つけ出すし、何度だって俺に惚れさせてやる」
腕に込められた力が強くなって、私は小さく息を吐く。不意に拘束が緩み、身体の向きが変えられて、顎をグイッと乱暴に持ち上げられ、私は大人しく目を閉じる。
どんなにこの人の事を記憶の底に封じ込めても、抱き締められるだけで安堵感を覚える私には、きっともう彼から逃れる術などありはしないのだ。
傲慢に言い放たれた通りに、私は幾度も恋に墜とされる。
●あらすじ文末より
Q.「チャラ男先輩はいったい、どこの誰なのだろうか?」
A.あんたの旦那だよ。
という訳で、オマケ載っけておきます。
●ストーリー中に語られるゲームの、タイトルや設定
『紅のかんばせは花に顕る (くれないのかんばせははなにあらわる)』
十八歳未満の方はご遠慮下さい~で言及される、無料同人乙女ゲーム。パソコンサイトでダウンロード版。
テキストノベルを読み進め、提示される選択肢の組み合わせと好感度、そして回収したフラグによって展開が変わるタイプ。
嫉妬と独占欲に駆られた攻略対象達による、クリムゾンでホラーでサスペンスな展開が多数。ラブエロいスチルも多数。
ゲームの舞台は愛知県架空の市。ド田舎と都会の、中間程度の発展具合。ゲーム期間は四月半ば~夏まで。エンディングでは、夏を過ごす姿が描かれる。
邪道逆ハーレムエンディングが存在する。内容は、攻略キャラクター達が悉く全員、ヒロインへ好意ではなくほのかな悪意 (嫉妬、憎悪、嫌悪、侮蔑等)感情によるマイナス方面な特別枠の目で見るという、
「人前では品行方正な仮面を被って取り繕っている彼らが、わたしだけには生々しい感情を剥き出しにしてみせるの」
……それがどう楽しいのかは普通の人にはよく分からない、逆特別感が味わえる。ヒロインが余所の男へ目を向けようとすると、妨害工作まで講じるという徹底ぶりで、攻略キャラクター達はヒロインを孤立化させようとする。
以下、タイトル略称「紅」
『梅花は莟めるに香あり (ばいかはつぼめるにかあり)』
綺麗なお兄さんは好きですか~で語られる、家庭用テレビゲーム。メーカー希望小売価格5980円。十二歳以上対象、女性向け恋愛シュミレーションゲーム。
一週間分のスケジュールを決定し、プレイヤー操るヒロインのステータスを上げつつ、発生したイベントをこなしていくアドベンチャータイプ。イベント発生時期には大抵期限があり、イベント発生条件には、他キャラクターのイベントをクリアしているか、逆に未発生である事が求められたりする。各キャラクターの好感度、選択肢も絡んでくる。特定パラメーターが高過ぎたり低過ぎたりすると発生しなくなるイベントや、ランダム発生イベント要素もある。
各キャラクターのラブエンディングに辿り着く為には、他の攻略キャラクターの特定イベントを発生させておく事が前提条件になっている。(椿ラブエンディングの場合は、嘉月の推理小説ネタ相談イベントと、失恋!? イベント、椿に複数回グレープフルーツティーを出す、他キャラクターと恋仲にならない事が必須)
年上のお兄さん達とヒロインが仲良くなっていく過程で、子ども扱いから次第に恋愛対象として口説かれる、微笑ましい展開が待ち受けている。ラブエンディングはお砂糖大増量な甘さ。攻略キャラクター達の性格設定上、他の男性への目移りをよしとしない為、逆ハーエンディングは存在しない。
舞台は同上。基本的に、ヒロインが私立中学に通う場面をメインにストーリーが展開される。ゲーム期間は四月後半~七月末まで。エンディングでは夏休みの様子が描かれる。
以下、タイトル略称「梅花」
●人物メモ
葉山美鈴……はやまみすず。
「梅花」でのゲームヒロイン。十八歳未満の方はご遠慮下さい~での、視点担当。
私立中学一年生。軽い気持ちで「紅」をちょこっと遊んだ前世の記憶を持っているが故に、起こってもいない未来の惨劇に怯え、奔走する。
『前世の彼女』は、旦那と二人の息子を持つ、ごく普通のどこにでもいる平凡な主婦であり、家事を適度に手抜きするのはお手の物。
今世の実父がちょっと頼りないせいで、中学生に成長した現在、たまに父親を三人目の息子のような眼差しで生ぬるく見守っている。時折出る『うちの中年』のルビには、『うちの息子』とお当てしてお読み下さい(爆)
これは現実なんだから、ゲーム展開を鵜呑みにしては駄目だと自分に言い聞かせながらも、チャラ男先輩こと椿を内心過剰に警戒している。
ショタ担当ツンデレ先輩こと、芹那の何気ない一挙一動に心揺り動かされ気味。
御園皐月……みそのさつき。
「紅」でのゲームヒロイン。綺麗なお兄さんは好きですか~での視点担当。
大学一年。「梅花」の大ファンである『平行世界の彼女』の暮らしを夢で共有している。
『平行世界の彼女』が「梅花」を知り遊び始めたのは、発売から数年経ってから。その時点で「紅」を配信していた同人乙女ゲーム創作グループのサイトは既に閉鎖しており、皐月自身も『平行世界の彼女』も「紅」の存在を知らない。
実兄の嘉月に幸せになって欲しいと願う一方、「梅花」での攻略キャラ達に憧れを持つ。准教授の雲雀と接するうちに、本心から恋するようになる。
渋木望愛……しぶきもあい。
中学一年生。「梅花」でのヒロインのサポート役。美鈴のクラスメート。
女子特有の、『多人数で群れ皆で同じ行動を一緒に取る、同調する』習性をとるのが苦手で、クラス内でも浮きがち。敵意を向けられないよう知識を蓄え行動力を磨き、周囲とほどほどに合わせるが、美鈴と二人して、変わり者として見られている。
自分の名前が嫌いであり、イースター島の石像の名だとからかわれると不機嫌になる。
広瀬嘉月……ひろせかげつ。
翻訳家。ミステリー作家志望だが、担当が納得のいく作品をまだ書けていない。
美鈴に惹かれているのか、単に皐月の願望なのかはさておき、少なくともお隣の娘さんの事は気にかけている様子。
「梅花」では浮き世離れした隣人のお兄さん。四月に強制的に出会いイベントが発生する。
メイン攻略対象であり、パッケージイラストも(髪を切って髭を剃った美形顔で(笑))大きく描かれている。
ゲームイベントでは、皐月に頼まれご飯を作ってあげたり、ミステリーのネタを一緒に考えたり、ほのぼの隣人ライフが描かれる。
「紅」では、実の兄妹である現実、激しい葛藤や互いを強く希求する感情、両親や祖父母への罪悪感と共に、誰にも祝福されない関係を憂い、それでも尚恋情を募らせる日々が描かれていく。
バッドエンドでは、皐月との関係に勘付いた陽炎に脅迫され、泣く泣く身を引き祖父母の家から出てヒロインの前から姿を消し、音信不通となる。
石動椿……いするぎつばき。
大学生。女の子好きで軽そうな雰囲気を纏い、スマートにエスコートする。積極的に話し掛け、お目当ての女の子のアドレスをゲットする腕はピカイチ。
女友達も男友達も多数いるが、思うところあって、現在決まった交際相手はいない。
「梅花」では、人気投票で雲雀と一位を競う人気キャラ。出会いイベントは五月。複数あるうちの一つが図書館での邂逅で、メルアドゲットの最短ショートカットルート。発生条件は、芹那に大学の図書館へ連れて行ってもらうイベントを成功させる事。
女の子好きで初対面の頃から好意的なくせに、ヒロインへの恋愛感情を最後の最後まで認めず悪足掻きする姿が、プレイヤーの笑いを誘う要因となっている。
「紅」では、彼自身の生まれ育ちから一般人と関係を深めても良いものかと悩み、これまでどんな相手でも当たり障りない関係しか築いてこなかった。しかし同じゼミのヒロインと接するうちに、強く惹かれていくようになり、セーブしきれない感情が暴発する。
バッドエンドでは、祖父の事務所から持ち出した拳銃で事件を起こす。
柴田雲雀……しばたひばり。
皐月と椿が通っている大学のゼミで教えている准教授で、二十七歳。構内ではいつも白衣を纏っている。生徒達から親しまれる、穏やかな雰囲気の先生。
「梅花」では、椿と同じぐらい人気がある。出会いイベントは六月で、ヒロインの事を観察対象として見ていくうちに、恋愛感情を抱くようになり、割とあっさり自分の気持ちに折り合いを付ける。
ゲームイベントでは、雲雀の為に研究室へ差し入れを持って行ったり、勉強を教わったり、車で遠方にデートに行ったりと、愉しげにヒロインを振り回す日々が描かれる。
「紅」では、穏やかな仮面を被ったままヒロインと接し、心理状態の実験対象として扱う。笑顔で嘘を付き、翻弄し、なかなか本心を見せようとしない。
バッドエンドでは猫アレルギーの椿を事故を装って猫と狭い部屋に閉じ込め、喘息及びショック症状を引き起こさせ自らの手は汚さず仕留める。
時枝芹那……ときえだせな。
私立中学二年生。美術部の影の支配者。幼少期から天才と誉めそやされてきた、美少女顔の美少年。
誰が相手でも口調にどこか棘があるが、単に対人関係を築くのがちょっと下手なだけのツンデレ。美鈴を後輩として気に入っている模様。
「梅花」では、美術部の先輩として四月に出会いイベントが強制的に発生。強制なのは、嘉月と芹那は攻略してなくても他キャラのイベントでも絡んでくるからである。
キツい言葉にもメゲないヒロインと友情のような恋情のような、曖昧な感情を抱いて学校生活を過ごしていくうちに、お互いに初々しい初恋を自覚して照れまくりながらカップルになる姿が描かれていく。
「紅」では、天才と称える周囲と自分の温度差に悩み、このまま絵に一生を捧げられるのか、悩む己を見守り支えてくれる年上のお姉さんに憧れる年下少年が精一杯背伸びする姿が描かれ、一途な情熱を向けられる。
バッドエンドでは作品盗作の冤罪を着せられ、絵画に関わる道を断たれ傷心のあまり屋上から飛び降りる。
葉山雅春……はやままさはる。
美鈴の父。亡き妻の名は美波 (みなみ)。三十四歳。
一人娘を男手一つで育ててきた、お茶目なパパ。一生懸命愛情いっぱいに育ててきたはずなのに、中学生になった娘の言動に翻弄される毎日で、夜毎にこっそり枕を涙で濡らす。例え美波さんが存命であっても、娘とのやり取り状況は全く変わらなかったと太鼓判を捺しておく。
「梅花」での存在は、時折イベントに登場しては笑いネタを提供し、時には力強い包容力で優しく包み込んでくれる、ヒロインの癒し系パパである。
「紅」では、良きお隣さんとして接するうちに、共にありたいと強く願うようになり、通い妻のような関係に。亡き妻への貞節や年若いヒロインが将来得られるであろう輝かしい未来を妨げる訳にはいかないと、オッサンなりに悩む。
バッドエンドでは、娘への虐待疑惑と未成年者への不適切な関係強要疑惑から、偽証によって投獄される。
中條陽炎……なかじょうあきほ。
大学生。体育学部。中高生の頃はサッカー部に所属。
皐月の同い年の幼馴染みであり、小学生時代はカレカノだった。現在の関係は気心の知れた友人。
「梅花」では、皐月の最初の彼氏としてプロローグにて存在を言及されるが、その名前も現在の状況も語られず、ゲーム中に登場しない。
「紅」では、大学キャンパスにて偶然再会を果たし、仲の良い友人関係から徐々に初恋の思い出が再燃していく。
昔からヒロインと仲が良かった彼女の実兄嘉月への嫉妬心を抱きだし、恋人としての独占欲を露わにする。
バッドエンドでは、ブチ切れた嘉月が考案したトリックによって、事故死に見せ掛けて殺害される。
大河内菫……おおこうちすみれ。
私立高校二年生。複数のバイトを掛け持ちしている。美鈴と通学路が被っているのだが、お互いに面識は無い。小説内で登場予定無し。
「梅花」では、自分の夢を叶える為に実家を出て一人暮らしをする努力家の少年。出会いイベントは五月で、朝の通学路の坂道を自転車で駆け下りていった先でヒロインと衝突しかけるか、バイト先のコンビニで出会う。
たくさんバイトをして、学校の成績を保つ為に睡眠時間を削って勉強。その生活ぶりからヒロインに体調を心配され、懸命に世話を焼かれる。
無邪気に夢を応援してくれるヒロインにカッコ良いところを見せたいと、空回ったりもしながら恋を深めてゆく。
「紅」では、攻略対象ではなくゲーム内に登場しない。何故ならば菫君は、裏の顔を持たない善良少年だからである。
●エンディング後の……
上記の設定を踏まえた、ヴァーチャルリアリティによる恋愛シミュレーションゲームである。男女共にプレイヤーとして参加可能であり、乙女ゲームギャルゲー、BLに百合と、イベント条件さえ満たせばプレイスタイルは自由。
本作品のプレイ記録はテストプレイであり、主旨は記憶ロック動作環境確認と、体調への影響やバグ調査、イベント難易度微調整、そしてAI育成である。
脳内処理加速によって、プレイ中の経過年数に関わらず現実に流れている時間は一律一晩の、約六時間。
攻略対象との恋愛を楽しめるヒロインの役どころは六名、プレイ開始前に好きなキャラクターを選択。
・中学生 (デフォルト名、葉山美鈴)
・高校生 (デフォルト名、久慈ありすと室井雪華の二名)
・大学生 (デフォルト名、御園皐月と高松香奈)
・中等部美術教師 (デフォルト名、小川七重)
選択したヒロインによっては、ゲーム設定上恋愛エンドを迎えられないキャラクターなどが生じる。(例・美術教師を選ぶと、中高生のキャラクターとは恋愛関係になれない)
男性プレイヤー側は割愛。今回のテストプレイでは、時枝芹那や永沢恭孝など。
また、恋愛シュミレーションパートに入るのは一定条件を満たしてからであり、それまでの人生は文字通り違和感が出ない程度に夢うつつ状態であり、高速で脳内早送りされる。
プレイヤーはゲームプレイ中に限り現実の個人的な記憶や思い出にロックが掛かり(強く感情移入して見る、夢の中のようなもの)、現実世界の事を思い出さない。その上で設定上の『前世の記憶』や、『平行世界の夢を共有』といった情報を刷り込まれる。これにより、プレイヤーには『ここはゲームの中の世界である』という認識は無くなり、より現実的な『恋愛シミュレーション』を楽しめるようになる。
しかし、基本的にはプレイヤーが選んだ役に併せて上記ゲーム設定や別ゲーム設定の情報が刷り込まれたり、余計な事は何も刷り込まれぬまま役情報のみでスタートするだけなので、プレイヤー個人の性格までは強制や矯正されない。各人の自由意志によって、ゲーム世界を生きる事が可能。
自由度の高いゲームなので、主要登場キャラクターには突発的事態に柔軟に対応可能なように、彼らを演じる役者、いわゆる『中の人』が居る。ゲーム進行がスムーズに行われるよう、調節や辻褄合わせ、更にはイベント発生トラブル対応に奔走する羽目になる多忙さ。AIがある程度学習成長すれば楽になると思われる。
彼らの方は、イベントには縛られるが現実の個人的記憶にロックは掛けられていない。なので、ゲームが破綻しないようある種の行動には禁止プログラムが働く。(例・仮にプレイヤー側が望もうがセクハラの類いは御法度、イベントには無い暴力行為禁止、現実世界の話題を振って、ゲームプレイ中に記憶ロックを強制解除等)
プレイヤーが共有するヴァーチャルリアリティ世界の、同時利用可能ユーザーは一人~十二人までで、攻略キャラクター側の『中の人』は五~十五人ほど。
必ずしも複数人ではなく一人で利用を申し込んでも良い。その場合、選ばれなかった関連プレイヤーキャラクターの役どころは役者が入るか、登場しない。
万が一複数グループから同一時間を申し込まれた場合、別サーバーと別役者さんが担当する。最大三組まで可。
要するに、プライベートアクトレスを雇ってわざわざヴァーチャルリアリティ恋愛シミュレーションゲームを楽しむような物なので、利用料金はバカ高い。富裕層向けの娯楽。
AI学習が順調に進めば、完全AIで料金が下がりそう。今回のテストプレイで、喜怒哀楽及び対話能力学習がもっとも成長著しいAIは、葉山雅春。プレイヤー美鈴の適度な放置プレ……もとい、絶妙な付き合い方の結果である。当人が意図していた訳ではない(笑)
●中の人とか
ヒロインの性格はほぼそのままです。
・みのり……美鈴をプレイしていた人。テンパり系。
・柚花 (ゆか)……皐月をプレイしていた人。天然記念的小動物系。
・瑛司 (えいじ)……椿を演じていた人。
本性は自信満々オレ様系でS気質。策略家。無駄に演技派でもある。嫁を落とした時? 無論、演技しまくりで容赦なく張り巡らせた策に嵌めましたとも。
亭主関白を地でいき、そういう人ほど実は奥さんにベッタリ依存している、の典型的な例。
プレイ中、姿形は違うのに、中身が嫁そのままだったせいで常に脳内で警告エラー食らいまくっていた。
・圭斗 (けいと)……雲雀を演じていた人。
本性は猜疑心が強く、人を拒絶する一匹狼。大抵、一人で過ごす事を好む。そのせいで人付き合いがとんでもなく苦手。
今回のテストプレイで攻略対象キャラクターの操作を引き受けたのは、柚花に近付く切欠にしたかったので。
そこでどうして、難易度が高そうな雲雀役を選んだのか?→瑛司さんに唆されたのですよ。
今回のテストプレイで主要キャラクターを演じた方々は、全員ゲーム制作に携わったスタッフです。
キャラクターの基本設定は同じであれど、演じる中の人によって微妙に性格も異なり、演じ方によって同じイベントでも反応やキャラクターの印象がガラリと変わります。
●こんな設定の話を書こうと思った切欠、本当に後書きらしい後書き
レンタル彼氏/レンタル彼女という商売が、日本の都会辺りで現実にあります。(この設定メモを書いてる段階では。遅筆故に、完結後の時点において法律でその手の商売が規制されていなければ)
何だかとっても高額のお金が掛かるけれど、すんごくエスコート上手くて楽しいらしい。出張専門ホストみたいなものかな。
かつては、幻想の恋を文章で表現した。漫画が生まれ、そしてゲーム機で恋愛シミュレーションゲームが売れていくようになり……、現実でも、風俗という形で仮想の恋愛体験を楽しんでいる人々がいる。何千年経とうが、きっと日本人の中で『空想的な恋愛ごっこに浸る娯楽』は無くならない。
それなら未来的には、ギャルゲーや乙女ゲームがとんでもなくリアルに体験出来るようなゲーム機械が出来たら、きっと商売になるわ。読み物として書くなら、主人公にゲームプレイ中だという自覚が無ければ普通に楽しめるはず。あと、転生モノだと誤認された上で読んで貰って、読んでる途中で気が付けば二度美味しいが実現すると良いな。
ネタバラしで唐突感が出ないように、あちこちにゲームっぽい雰囲気と、あとは……ヒロインとヒーローがやたらと気が合ったり懐き度が高ければ、
『この二人ってもしや……実は前世でカップルだった? いやむしろ、ヒーローの方は今もカップルだと認識してる?』
って、予測されて、『そっちか!』って納得してもらえるかな。スキンシップを拒否したがらなければ、すげー分かりやすいよね。実は現実では夫婦だよ!
……という、リゼさんらしい分かり易く安直な設定で書かれた話です。ラブな米。




