十八歳未満の方はご遠慮下さい、な乙女ゲームでありながら攻略対象の八割方が隠れロリコンの世界に私は転生したらしい。本編①
来年入学する予定の小学校の、四月に行われる学校説明会に参加した私は、手を繋いでいる父を仰ぎ見て、こう訴えた。
「よし。お父さん今すぐ引っ越して転校しよう」
愛娘である私の真剣な願いに、まだ二十代のサラリーマンである若々しい父は、眼鏡の奥の瞳を丸くさせて「ワガママ言わないの」と、私の頭を撫でてきた。帽子の上からなので、今一つ感触や温もりは伝わってこない。
「美鈴 (みすず)、幼稚園を卒園したらお友達と離れ離れになって、淋しくなるのは分かるよ。
でも、ちゃんと小学校でも新しいお友達がたくさん出来るから、お父さんと一緒に頑張っていこうね?」
わざわざ腰を落として私と目線を合わせ、幼稚園の年長さんの私に言葉で諭してくる父に、私は内心で(違~う!)と叫んでいた。
別に、幼稚園のガキ……もとい、お子様方と離れがたい訳ではないし、ずっと彼らと共に幼稚園に通いたい訳でもない。
ただひたすらに……この学区は我々、葉山 (はやま)家にとって危険地域なのである。その重要事項を、小学校の学校説明会で悟ったというか思い出した私は、一家の長である父に取り急ぎ次善策を進言したのだが……
「第一、家と車のローンはまだまだ何十年と残ってるし」
父、雅春 (まさはる)が私から視線を逸らして呟いた独り言に、私は今生における最初の挫折を味わった。多額の金銭という難題が立ちはだかる以上、何の才も持たぬ単なる凡人であり、就業が難しい幼児の身では、解決などできようはずもない。
父は大人しくなった私に安心し、優しく、けれども断固とした意志の元、私の手を引いて小学校への門扉を潜っていったのである。
私には前世の記憶というモノがある。ソレが全て単なる私の妄想だとしたら、私は随分こまっしゃくれた子供だが、今生を生きる上では、いっそ妄想であって欲しかったと思う。
何故なら、小学校の説明会で見掛けたとある人物達は……前世で遊んだ事のある、十八禁同人乙女ゲーの攻略対象だったからだ。私は彼らを見掛けるまで、この日本は前世の日本と全く同じ世界だと信じて疑っていなかった。それがまさか、見覚えのあるゲームスチル画面が目の前で展開されていたら、疑惑を抱くなというのも無理な話ではないだろうか。
その同人乙女ゲー、とにかく様々な意味で『非日常的』『非現実的』をコンセプトに作られていて、制作者グループのHPからゲームを無料でダウンロード出来るという、恐ろしいシロモノだった。
ゲームシステム、スチル画像、立ち絵、膨大なテキスト容量と攻略対象七人それぞれに、深い設定と複数のエンディング。無料とは思えぬクオリティ。それをなし得た裏側に、制作者グループから訴えかけてくる何かが見えてくるような気がする。今の私には。
……その乙女ゲームは、『黒』に濁点を付けたよーな展開だとか、カーニバルで横に伸びないリズムを刻んでる的展開だとか、少年少女ボーイミーツガールで薔薇やら百合が咲き乱れたり、犯罪ダメ、ゼッタイ的展開だとか……CEROの倫理規定? 何それ美味しいの? な、ルートがてんこ盛りの問題作なのだ。ゲームとしての出来は確かに高い。だが、決して商品として発表なんぞ出来まい。それだけヤバくてイッちゃってるストーリーが、選択肢を一つ間違えただけで怒涛のごとく襲い掛かってくるのだ。
ゲームストーリーの冒頭は、こんな感じだ。
……ヒロインは大学入学を機に、祖父母の持ち家に兄と2人で引っ越してくる。この家は幼少期を過ごした懐かしい場所であり、幼い頃に離婚した両親にそれぞれ引き取られていった兄とは、久々の再会でもありお互いに気を遣い合いどこかギクシャクしてしまう。
そんなヒロインは、小学生の頃の幼馴染み (イケメン)とキャンパスで再会、他にもチャラい雰囲気のモテ系先輩 (イケメン)、知的で包容力溢れる大学准教授 (イケメン)、小生意気な言動の中学生 (将来有望)、妻を早くに亡くし、男手一つで娘を育てるお隣さん (フツメン)と出会い、お隣に住む娘さんから色んな情報を貰ったり大学生活を謳歌していくうちに、攻略対象の男性と何だかいい感じになってゆく……
と、ここまで回想していけば、察しの良い方はもうお気づきだろう。
何を隠そう、ヒロインの攻略対象たる男やもめのフツメンお隣さんこそ、我が父にして大黒柱、葉山雅春であり。ヒロインのアドバイザー役が、私、葉山美鈴なのだ。
前述してある通り、今生の私は既に母を亡くしている。ゲームストーリー中、言動の端々から想像されるヒロイン像から、彼女を父の再婚相手候補として拒絶したい訳ではない。
とにかく、ひたすらに、ただもう、このゲームの倫理観がヤバい類いだから関わりたくないのだ。
ゲームの攻略対象は全員、プレイヤーが選択肢を一つ間違えるだけで身の危険が迫る恐怖展開が待ち受けており(我が父がヒロインに繰り出す、かなり強引にして脅迫プロポーズが一番マシなブラックエンドである辺り、お察し頂きたい)、そして何より、このゲームには完全個別ルートが存在しない。
共通ルートをプレイし終わると、続いて攻略対象のうち、二人のどちらかの間で揺れ動く乙女の恋心ルートに突入する。三角関係を築くも良し、どちらか片方だけに積極的アタックを繰り返すも良し、「どっちかなんて、あたし選べな~い」の二股をかけるも良し。ヒロインを争ううちに何故か男同士で芽生える愛を傍観して応援するも良し。
事態の把握にかなり支障がある点としては、攻略対象男性達の名前が全く思い出せない事。何せ、内容がぶっ飛んでいるので気に入ってやり込むには前世の私の精神はヤワ過ぎた。
結果として、何となく印象的なシーンや展開や攻略対象の顔立ちは何となく記憶しているが、名前まではあやふやだ。いっそ無関係を貫き通して一生思い出したくない。
ところで、そろそろ皆さんお気づきだろうか。このゲームの特徴は、薔薇やら百合やら非常識である。そして、先に紹介した攻略対象は全七人中、五人だけだ。後の二人とは、ヒロインと血の繋がった実兄であり、彼は乙女恋心ルートでヒロインの幼馴染み君とセットになっていて、愛を競い合う。
そして最後の七人目は……どの乙女恋心ルートでも必ず登場する、アドバイザー役の私、葉山美鈴との百合百合らぶらぶエンディングなのである。
……だから父よ、我らの精神衛生上の観点から、引っ越せるものなら引っ越したい。それが無理ならせめて、都会特有のお隣さんとは無関心を貫こうか。葉山家が居を構える地域は、分類すればどちらかと言うと田舎だけどな!
まあ、当然ながら私の引っ越し案はマトモに受け取って貰えなかった。そして現状、お隣に住む御園 (みその)ご夫妻と我が家の関係は良好で、御園さんちの孫娘、ゲームヒロインの皐月 (さつき)さんは、昔っから私の面倒を見てくれている、有り難いお隣のお姉さんなのである。
ここがゲームの世界と酷似している……と、気が付く前はそりゃあもうべったべたに皐月さんに懐いていた私だ。何しろ、父は仕事の間は私をどこかに預けておかねばならず、お隣さんのご厚意で今生の私はほぼずーっと御園さんちでたくさんの時間を過ごした。実の妹のように可愛がってくれている、綺麗で優しく可愛らしい、六歳年上の隣家のお姉さん。懐くな、という方が無理だ。
行きたくはないけれど、急に「御園さんちにはもう行かない!」なんて私が言い出したら、御園さんご夫妻も皐月さんも傷付けてしまう。何より、お世話になったご恩を返す事も出来ない。
説明会の翌日も、あえなく御園家に預けられた私。
御園家とは徐々に距離を取り……って、いったいどうやれば良いのだろう?
いつものように皐月さんの部屋に通され、父が帰宅するまでお勉強やお喋りやゲームをしたりテレビを観て過ごすのが、私のこれまでの日課だ。
「美鈴ちゃん、何か困った事でもあった?」
「皐月ちゃん……」
うんうん唸る私に、お菓子を勧めながら話し掛けてくるのは問題のゲームヒロイン、御園皐月。因みにゲームではデフォルトネームが存在せず、プレイヤーがそれぞれに思い思いの名を付けていた。そして彼女は、将来の攻略対象である幼馴染みの少年を、私に引き合わせてくれた事も無い。
だからこそ、今の今まで気が付かなかったのだ。ここがあの、ちょっと倫理観が逝っちゃってるゲームと酷似した世界だなんて。勿論、あくまでも似てるだけで、現実ではあんな危険な展開は起こらない、という可能性は大いにある。
「あのね、皐月ちゃん。もしかして皐月ちゃんって、男の子にイジメられてるの?」
ちょっと確認を兼ねて、私は皐月さんにカマをかけてみる事にした。
「えっ? まさか。友達以外でも同学年の子は皆だいたい顔見知りだけど、意地悪してくるようなヤツなんて居ないよ?」
「でも、昨日の説明会の日、私、皐月ちゃんが校庭の木の下で男の子に押さえ込まれてるところを見たよ?」
あれってイジメじゃないの? 皐月ちゃんに意地悪してくるヤツがいるなら、追っ払う! と、無邪気を装って意気軒昂に宣言する私に、皐月さんは頬を赤らめた。
「ち、違うよ。あれはちょっと、友達と桜の花に見惚れてたら、二人揃って樹の根っこに足を取られて転んじゃっただけだから!」
「な~んだ、そうだったんだ」
ほっぺたをほんのり桜色に染めたまま弁解する皐月さんに、私は話をしつこく繰り返さず素直に引き下がった。そしてそのまま、あっさりとマンガに注意が逸れて夢中になっている子どもを装う。
……皐月さんの反応から察するに、彼女は間違いなく幼馴染み君との小学生時代のイベント(ゲーム中に過去回想される類い)を、こなしていたらしい。
その内容は概ね彼女が口にした通りなのだが、回想イベントにはその場面の続きがある。転んだ拍子に事故ってキスをした二人は、皐月さんがびっくりしている間に幼馴染み君が身を起こし、そのまま正門を潜ってくる人からは見えないようにして桜の樹の幹に皐月さんを押し付け、覆い被さって自分から口付けし、服の上から胸を触って……なのだ。幼馴染み君はとんだエロガキだが、皐月さんも回想の中で、幼馴染み君が触れてくれるのが嬉しかったと独白していたので、無理やりではなかったらしい。愛撫の意味は理解していなかったと思われるが。
とにかく、危険だ。
彼女の反応から、ゲームと同じ展開が待ち受けていないとは、全く言い切れない!
このままでは将来、今生の実父たる雅春が、女子大生の皐月さんに惚れてロリコンになって精神を病んだり、乙女恋心ルートで父とセットになっている中学二年生男子……現在は小学校に入学したばかりの彼を嫉妬のあまり完全犯罪チックに陥れたり、逆にショタの薔薇道に目覚めてしまうのかもしれないのだ!
私は、父が迎えに来るまで将来の身の安全を図るべく、懸命に頭を働かせて様々な可能性を検討していた。
そうして出された結論が、現時点での皐月さんと父を、なるべく会わせないようにする事である。そして、ショタ系要員の攻略対象である少年と私が接点を減らせば、自然と皐月さんと彼は繋がりが無くなり、必然的に父も妬心を煽られるルートが無くなる、という事だ。
ただし、それには一つ、大いなる問題がある。
それは、トゥルーラブエンド以外の数多あるエンディングでは、どっか将来的に危険な雰囲気が付きまとうのだ。バッドエンディングだと、ヒロインや攻略対象やアドバイザー役が死亡したりもしている。
そして皐月さんが数ある罠満載選択肢の中から全て正しいモノを選び取り、攻略対象の誰かと見事にトゥルーラブエンドを迎えるには、セットになっているもう片方の攻略対象を足留めというか、ヒロインから目を逸らさせるべくアドバイザー役の協力が必須なのだ。
この『協力』というのが曲者で、大抵は身体を張ってヒロインから意識を逸らす。そりゃあもういったいどんな手段を使ったんだってぐらいに、ゲームでのアドバイザー役の美鈴 (中学一年生・十三歳)は、トゥルーラブエンドの裏側で攻略対象の男性陣を落としまくっている。ヒロインがトゥルーラブエンドでいちゃこらしている一方、美鈴もルートセットのもう片方の攻略対象の男性とベッドの上でラブラブしている。おいおい中学生だぞこのロリコン野郎ども。
トゥルーラブエンドで、美鈴の身に肉欲的ラブも含まれない展開があるのは、実父の雅春を足留めしていた場合だけだ。流石の父も、近親相姦対象として娘を見る事は無いらしい。多分製作側としても、ヒロインと実兄の関係だけでお腹がいっぱいだったのだろう。そうだと思いたい。
つまり、皐月さんと私の幸福と安全を両立させるには、我が家は他地方へ引っ越して御園家との関係を縁遠くし、将来的に皐月さんが私とまた過ごしたいという気持ちもあって、この地の大学を志望する切欠を潰し、再来しないで余所の土地でそれぞれ平和に暮らすのが一番なのだ。私は相手がどんなに素敵なお姉さんであろうと、百合百合な可能性も御免である。
それが実現不可能だと言うのならば、せめて皐月さんにはショタっ子トゥルーラブエンドの道を歩んで頂きたい。二十代後半の一見穏やかそうで内実はアレな准教授とだとか、見た目爽やかスポーツマン大学生で内情はネチっこい幼馴染みだとか、そんな奴らの気を引かねばならない苦行に身を投じるのなら、ご近所さんや父や隣家から私はファザコンであると認識される方が何十倍もマシというものである。
そして御園家で時間を過ごし、私は迎えに来た父と共に玄関先で御園おばあちゃんに頭を下げてお暇の挨拶を交わしていた。
「御園さん今晩は、いつも本当にお世話になって」
「あらあら、構わないのよ。美鈴ちゃんの事は皐月も可愛がっていますし」
「いつも有り難う、皐月さん」
「今晩は、おじ様。いえ、わたしでお役に立てるのなら……」
む!? 今までは気にも留めていなかったが、皐月さんが父を見上げる眼差し、はにかみは……もしやこれも何かのフラグなのだろうか?
私は慌てて父を急かして御園家を後にした。本当に私が生きるこのご近所周辺は危険に満ち溢れている。
私は父と共に帰宅し、お風呂につかりながらまだ悩んでいた。
ゲームでの危険な未来を、私が回避したいのは勿論なのだが、今のどことなくぽやんとした父が豹変するのも嫌だし、これまで懸命に面倒を見てくれた皐月さんにも悲しい目に遭って欲しくはない。
となれば、皐月さんが大学生になる前に父にはどこぞの女性と再婚でもしてくれるようねだり、皐月さんには攻略対象外の男性を恋人として勧めてみたらどうだろうか?
……妻を愛せず幼少時代をよく知る少女に激しく惹かれて心を壊す男性と、彼女を愛するが故に他の男性と共にある姿を認められず、ライバルを殺害してしまう攻略対象男性の図が、私の脳裏に浮かんだ。
何故だろう。攻略対象の誰かとトゥルーラブエンドに突入すれば、皐月さんは彼とラブラブな未来が訪れるはずなのに。
……ああ、共通ルートでは攻略対象達はあくまでもヒロインへの恋愛感情ではなく、友情寄りの感情で、乙女恋心ルートでようやくラブ感情を自覚するから、危険な男性はセットの片方だけだからなのか。共通ルートから派生する王道逆ハーレムルートは無くて、邪道逆ハーレムルートしか無いし。
ヒロインが攻略対象の彼ら以外の男性に目を向ける、というのはまんま邪道逆ハーレムルートの状況に酷似しているのだ。
やはり、皐月さんはこの地を早いとこ離れた方が良い気がする。我が今生の実父や彼女の実兄を含め、終始正常な精神を保っている男性がいらっしゃらない。
幼稚園の年長さん時代、皐月さんが引っ越すまで懸命に父との接触を減らしたり、決してこの地に戻ってきてはいけないと言い含めてみるも、中学に入学した私は絶望していた。
見事に、ものの見事に皐月さんはゲーム展開通りに大学入学を機に再び隣家へと兄と共に住みだし、順調に共通ルートを進めてしまっているようなのだ。唯一の救いは、ゲーム中に登場せずあまり言及されなかったヒロインの祖父母現在の生死については、単に長期間海外旅行に向かっただけと判明。あんなに心優しいご夫妻がゲームの都合で亡くなっていたら嫌だな、とは思っていたのだ。
しかし、事ここに至って大問題が立ち塞がっていた。私がしきりにショタっ子先輩を勧めるのに反し、皐月さんは全く彼に興味を示さない。更に、どんな異性が好みかと尋ねた日には、「年下は無いかなー」などという、衝撃的な独り言まで零していた。
詰んだ……私の人生、最早お先真っ暗だ。
打ちひしがれる私を不思議そうに見下ろしながら、皐月さんは残り少ないとも気が付かない平和な共通ルートを消化しに、今日もキャンパスライフを謳歌するのである。
……そう言えば私、中学の先輩や父、隣家の皐月さんのお兄さん以外の攻略対象の名前すら、未だに思い出せないんだが。
そしてある日、運命は突如として私に襲い掛かってきた。
「美鈴ちゃん、聞いて聞いて!
私のゼミの准教授がね、本当に素敵な人なのー!」
ガゴン! と、後頭部を強かに殴り倒されたかの如き、激しい衝撃。皐月さんのそのセリフは、乙女恋心・准教授&チャラ男先輩ルートの一番最初の選択肢なのである。
皐月さんがアドバイザー役の美鈴……つまり私にこのセリフを告げた時点で、チャラ男先輩トゥルーラブエンドの道のりは途絶えた。
どんな手段を使ってでも、准教授と皐月さんを穏やか~で微笑ましいラブに導かなくては、私と皐月さんに明るい未来は無い。
しかし、何故よりにもよって准教授ルートを選ぶ! 皐月さん!? チャラ男先輩は初めての本気と実家のアレで暴走しまくり、ブチ切れると私だけじゃなく皐月さんを殺しにかかってくる危険人物だぞ!?
しかし、当のヤバゲーヒロイン本人は、猫被り准教授の大人のミリキとやらについて熱く力説している。年上が良いのならば、せめてうちの中年を選んでくれれば良いものを。祖父の実家はピー(自主規制)なチャラ男大学生を相手取るぐらいなら、外見天使ツンデレ系中学生とタイマンを張る方が、まだ作戦は立てられた。
……私と皐月さんの身にひたひたと迫り来る、殺人鬼の名前を始めとした個人情報を、私はまだ入手していない。
このままただ手をこまねいているだけでは、硝煙の臭いを撒き散らす殺人鬼が誕生してしまう。
……原作ゲームの『葉山美鈴』は、いったいどんな手段で奴らを取り押さえて鼻を利かなくさせ、脳裏からヒロインの存在を消し去ったのだろう。なるべく……茶菓と度数と肉体的恋愛の関係しない方向で、チャラ男先輩が皐月さんの恋路を邪魔しないよう努めたいと思います……
まずは足留め対象の顔と名前の個人特定から躓くとか、これなんて無理ゲー?