ひこうき雲
真っ青な空に真っ直ぐで真っ白な一筋の線。
ひこうき雲だ。
青の絵具で全面的に塗り固め、白の絵具ですっと線を引く。
ひこうき雲の絵を描くならたったこれだけの行程で終わる。
しかし、何千年、何万年、何億年も昔から存在する空に、その直線を表現できるようなったのはごく最近のことだ。
大空に白線を引くためには、莫大な費用と偉大な技術が必要だ。
それらを人類が獲得したのもごく最近のことだ。
人類は機能的な乗り物と芸術的な手法を獲得したのだ。
ひこうき雲は飛行機を発明した際に産まれた無用の副産物にすぎない。
無用で無意味で無価値なものだ。
それなのにどうして、あんなにも素敵なのだろう。
ただただ真っ直ぐなだけなのに心引かれるのはなぜだろう。
そんなことを考えることも無用で無意味で無価値なのかもしれない。
だから、考えるのをやめた。
今はただただ、ゆっくりと引かれる直線に見とれていたい。
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