前日談
この度は、私の拙作を読んでいただき、ありがとうございます。
ところで、この小説は「第二部」にあたるものです。第一部もあるのですが、相当幼いころに書いた上にデータが紛失しており、また第二部だけでも大分ストーリーとして独立しているので、ここから投稿させていただきます。
ですが第一部のストーリーを簡潔に「前日談」として掲載しました。本文の前に、これに目を通していただければ幸いです。
第一部も、後々手直しのうえで掲載していく予定です。
ユミドラル大陸。高い技術と中世以来の古き良き伝統を併せ持つ世界。
そこでは大国であるエミトリア王国とリグジェリア連合王国が南北冷戦を続けており、そしてその狭間にレバイア王国をはじめとするいくつもの小国がある。
ある日のこと。エミトリア王国の天空騎士(戦闘機乗り)見習いである13歳の少年ラファエル・マノックは、練習機で国境線付近を飛行中、突如リグジェリア軍の戦闘機におそわれる。
スモークで練習生であることをしめすも敵は容赦なく、ラファエルは撃墜されてしまう。
どうにかパラシュートで脱出に成功したものの、怪我を負った彼を救ったのは、一人の少女だった。その少女がすむ村は、エミトリア領ながらリグジェリアに不法占拠されており、村人たちはその圧政に苦しんでいた。先ほどラファエルを撃ったのも、そのリグジェリア軍だった。
数ヶ月前、この村の近くの森の中に一振りの槍を持って横たわっていたこと以前の記憶がなく、自分の名前も覚えていない少女。ラファエルは自分を助けてくれたことに感謝し、その少女を「クリス・ヴィスコンティー」と呼ぶことにする。そして明るく好奇心旺盛なクリスと、一日のうちに打ち解けるのだった。
翌朝、ラファエルを探して捕まえに来たリグジェリア軍の地上部隊。だが、クリスは危険を冒してラファエルをかくまい、リグジェリア軍の手から守ってくれる。そして敵が去った後、エミトリア軍の城への帰路につくラファエルは、この村のことをエミトリア軍に通報し、リグジェリア軍を追い払ってもらうよう頼むことをクリスたち村人と約束した。
程なく味方の部隊と合流し、城へと帰り着いたラファエル。師匠クーアフルストや、幼なじみの兄弟弟子マーティンたちに歓迎されたが、すぐに約束を果たすべく師匠にその村のことを相談。クーアフルストの計らいにより、すぐさま村の解放作戦が組まれることに。
そして、ラファエルとマーティンは、この戦いで初陣を迎えることとなった。
翌日、作戦は開始された。エミトリア軍が村を不法占拠するリグジェリア軍を追い出しにかかる。その中で、ラファエルとマーティンは、先輩たちの援護の下、ともに初めての戦場を飛び、敵機撃墜に成功する。そして戦いが勝利に終わった後、ラファエルはクリスと再び出会う。強い彼女は、エミトリア軍への協力を申し出て、地上部隊の伝令として戦いに参加していたのだった。二人は再会を喜び合い、さらに仲を深めるのだった。
そして、互いにこれからも手紙を交わすことを約束し、二人は別れた。
二年の月日が流れた。エミトリア、リグジェリア間の戦いは激しさを増した。
その戦いの中を、十五歳になったラファエルは、一人前の天空騎士として駆けていた。激しい戦いを生き残る中で、日々マーティンとともにその操縦の腕を上げているラファエル。
そんなある日、ラファエルは任地移動により、かつてクリスと出会った村の上空を通りかかる。空から手紙を落としてやろう、と心を躍らせながら飛んでいたラファエルだったが、その村で見たのは、目を覆うような光景だった。
空賊の一団が、村で破壊の限りを尽くしていたのだ。数機の戦闘機が我が物顔で空を舞い、村人たちめがけて銃弾を浴びせている。その村人たちも、もうほとんど殺され尽くしていた。
それを見たラファエルは、数の不利にかまわず、単身戦いを挑んだ。
圧倒的に苦しい戦い。だが、ラファエルは一人で戦ってはいなかった。
地上の対空砲がたった一つ、破壊を免れて生き残っており、それが敵機めがけて弾を撃ち込んでいたのだ。
一撃で吹き飛ばされかねない小さな対空砲。だが、その砲手は勇ましく敵機に立ち向かっている。
対空砲と巧みに連携して戦い、ラファエルはどうにか、敵をすべて撃退することに成功した。
その後、村の様子を見るために着陸したラファエル。だが、村の人々はもう誰も生きていないかのようだった。
しかし、先ほどの対空砲を撃っていた人はいるはず。そう思い、その対空砲の元へとむかったラファエル。
そこにいたのは……美しい金髪の少女。
対空砲で戦っていた勇士。それは、クリスだったのだ。
二年ぶりに再会した二人。対空砲の扱いをラファエルとの手紙のやりとりで知っていたクリスは、村がおそわれたその時から、浅手をおいながらも必死に戦い続けていたのだ。ラファエルは、クリスの勇敢さに心を打たれた。
かつて戦いをきっかけに出会った二人の運命は、再び戦いによってつながった。
ラファエルはクリスを自分の飛行機に乗せ、エミトリア軍の城へと連れて行った。
行き場を失ったクリス。ラファエルは天空騎士団に引き取ってもらうことを提案し、これからは自分がなんとしてもクリスを守る、と誓う。
だが、ただ守られるだけ、というのはクリスの性格に合わなかった。困難には、力を合わせて立ち向かう。それが、クリスのやり方。
クリスは、自分も天空騎士になる、という決意をラファエルに話した。二度も、悪しき者たちにさらされたクリス。二度と自分のような目に遭う人を出すまいと思い、そんな人たちを守るために、そしてラファエルとともに戦うために、彼女は決意した。
天空騎士になり、ラファエルのウイングマン(ペア)として飛ぶと。
もちろん、ラファエルはとまどった。天空騎士に限らず騎士になるには、幼い頃からの訓練が不可欠。ましてや、戦闘機を飛ばすのは簡単なことではないのだ。
そして、ラファエルは戦場の悲惨さも知っている。
だが、クリスの決意は揺らぐことはなかった。ラファエルもその決意の強さに負け、彼女を応援することになる。
ラファエルと出会ってから空を飛ぶことに、飛行機に興味を持ち、おびただしい知識を独学で身につけていたクリスは、ラファエルの頼みもあってだが、訓練課程への編入を認められる。そして、ラファエルの所属する部隊が基地とする城で、マーティンの妹・リーナたち訓練生とともに、天空騎士への道を歩み出すことになる。
同じ城で暮らす、ラファエルとクリス。二つの危機を乗り越えた者同士として、一人前の騎士と見習いとして、そして同じ年頃の少年と少女として、二人はともに居ることが多かった。ラファエルは戦いの中でも、彼女のことを思い出すと心に安らぎと、戦う勇気がわいてくるようになるのだった。
遅れを取り戻すべく、訓練に励むクリス。ラファエルはできる限り、それに力を与えた。
時には厳しい言葉を投げつつも、クリスを励まし、応援した。クリスも、その言葉の裏にあるラファエルの心を理解し、いっそう努力する。
クリスの秘められた力が発揮されたのは、飛行訓練に入ってからだった。初めての飛行機操縦のはずなのに、何の困難もなく、次々と課題をクリアし、教官顔負けの操縦を披露していくクリス。
あたかも、以前からずっと操縦を習っていたかのように……
教官との同乗訓練時間、わずか四時間で一人で飛ぶことを許されたクリス。ラファエルを始め、騎士の皆がそのめざましい成長に驚きのまなざしを向けていた。
そして、ほどなくクリスにも初陣の時がきた。
敵の陽動作戦により、わずかな戦力で敵の大群から城を守ることを余儀なくされたエミトリア軍。そんな厳しい戦いのさなか、クリスは苦戦する仲間たちを見て制止を振り切り、戦場の空へと離陸する。
そしてラファエルのウイングマンとして、初めての戦いに参加した。
ラファエルも、ペアを率いるリーダーとしては初めての戦い。だが二人はかつての時のように力を合わせ、見事敵を撃退することに成功する。
クリスは、信じられないほどの短期間で、皆が認める一人前の騎士に成長を遂げた。
そして、ラファエルとクリスは、かつての誓い通りにペアを組み、ともに空を飛び始める。
戦闘機の戦いは、2機で1組が基本。
生きるのもともに、死ぬのもともに。それが、戦闘機のペアだ。