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4章-7

 素子温度が下がることを確認したブリッジでは歓声が巻き起こった。

 しかしすぐにゆかりの言葉が飛ぶ。

「液体窒素がなくなる前に一気に片をつけます」

『はい』

 三人の声が重なる。

「リミッター解除。ゆっくりと攻撃している時間はありません。主砲で仕留めてください」

 白百合は振り返るような速度で回頭する。白百合の後ろを取ろうしていたキャリバーはすかさず速度を上げ逃げる。しかし著しい制限から解放された白百合は速度を上げ逃げるキャリバーの後ろへと回り込んだ。

 キャリバーの後部ハッチが再び開かれ、宇宙魚雷が白百合の純白の船体を捕らえようと飛来する。白百合はレーザーですべての宇宙魚雷を撃ち抜くと、高熱に炙られた火薬は力なく誘爆した。

 白百合は続けざまに主砲を撃ち出す。

 解き放たれたレールガンの弾丸はキャリバーの船体をわずかに掠めながら黒い宇宙の彼方へと消えていった。

 キャリバーは白百合の異常なまでの機動力に焦り、白百合へと艦首を向ける。対する白百合は速度をほぼ0まで落とした。ジェネレータが出力された圧倒的な量のエネルギーはブースターで消費されず、その全てが主砲へと注ぎ込まれた。

 減速の意図に気づいたキャリバーは再び方向を変え逃げようとするが、驚異的な速度でチャージされ向けられた主砲は逃げる暇すら与えてはくれなかった。

 音速を遙かに超える質量弾はその驚異的な運動エネルギーでキャリバーのブースターの一つを粉砕した。

「温度再び上昇始めました」

 液体窒素が切れたのだ。

 片肺となったキャリバーは速度を落としながらも何とか動いていた。対して白百合は素子温度が上がりきり、これ以上はプロセッサが焼けてしまう可能性すらある。

「主砲を敵に向けてください。向け終えたらリミッターの再設定」

 最後の力を振り絞り、急旋回で主砲を向けた。精一杯のブラフだった。

 ブリッジにいる全員が攻撃してこないことを祈った。

「キャリバーより通信入りました」

「繋いでください」

『恐れ入ったよ。若くて綺麗な姉ちゃんばっかりだから侮っていた』

 艦長アランは開戦時とは全く異なるおどけた口調で喋り出す。

「お世辞はいりません。それよりも用件をお願いします」

『用件なんてわかりきってるだろう。俺たちの負けだ』

 期待通りの言葉に空気が少し緩んだ。

『恥を忍んで言わせてもらえば、このまま見逃して欲しい。なんなら俺の首とこの老いぼれ艦くらいはくれてやってもいい。だから部下を逃がす時間をくれないか?』

『艦長!』

 画面外から副艦長の高い声が響く。

「こちらはあくまでも自衛のみと決めています。無駄な戦闘をすることは葦牙国の理念からも女王陛下の意志からもありません。速やかに撤退してください」

『すまねえな』

 通信が切断されるとブリッジに安堵が流れた。前に座っていた三人は歓声を挙げ、今までの遺恨も忘れたように抱き合った。

 緊張の糸が切れたゆかりも椅子に深く身を預け、力を抜く。しかし、再び力を込め立ち上がった。

「まだ気を抜かないでください。キャリバーの艦長はかなりの切れ者です」

 ゆかりの言葉に三人は再び席に着き、緩んだ顔を引き締める。

 しかし何事もなく、キャリバーはゆっくりと遠ざかっていった。それでも白百合はキャリバーが見えなくなるまで照準をあわせ続けた。


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