4章-5
ゴフェル国所属艦キャリバーの艦長アランは目の前で起こった光景に我が目を疑っていた。
油断は一つも無かった。初めは疑い半分だった白百合の慣性制御性能だったが、苦し紛れに放たれたブラフのレーザーで疑いは確信に変わっていたからだ。
その凄まじい性能から止まるように減速したときも、想定通りのタイミングで後方に魚雷を発射した。まさに必中のタイミングだったと言える。
しかし、結果はレーザー砲門を一つ潰しただけだった。事前に予測していた性能を遙かに超えた動きだった。そのことを思うと一つ潰せただけでも幸運と考えるべきだろう。
白百合はその慣性制御性能を得るための極端な軽量化で、前面以外の武装を持ちあわせていない。小さな船体もそのためなのだろう。届かない技術で追い求めた無茶な設計が歪な強さと弱さを作り出していた。稼働時間の短さもそのためだろう。
白百合が機動力を使い果たしてしまった今、残り一門のレーザーの前にさえでなければ負けることはない。もし前に出てしまったとしても、相打ち覚悟で撃ち込めば体格の大きいキャリバーに分があるのだ。
先の戦闘での僅かな違和感に気づいてなければ立場は逆転していたことだろう。アランは自らの幸運と優秀な副艦長に感謝した。
「まるで蜂ですね」
「上手いこというじゃねえか」
脇に慎ましやかに佇む副艦長が呟いた。
根本から異なる圧倒的な機動力は確かに蜂と言うに相応しかった。最高速では自国の最新艦どころか、この旧式艦にすら勝てないだろう。しかし僅かな速度差など文字通り光速で飛び交うレーザーの前では無力でしかなかった。旧式とはいえ騎兵を名乗るほどの機動力を持つこの艦も隙を見せれば鎧の隙間から重い一撃を入れられてしまう。
「お前らもう相手は虫の息だ! だがあの機動力だ。いつレールガンが飛んでくるかわからない。気を引き締めていけ! 女からのラブコールだからって喜んで受け取るんじゃねーぞ!」
「対抗してうまいこと言ったつもりですか?」
ブリッジに飛ばした檄は副艦長の冷たい一言であしらわれる。
アランはしばし考えを巡らす。蜂か……。
「知ってるか? 蜂の針は排卵管らしいぞ」
「それがどうかしましたか?」
副艦長は淡々と聞き返す。
「童貞ども! 嬉しがって刺されにいくんじゃねーぞ!」
「下品過ぎます。セクハラで訴えますよ」
セクハラなどいつものことだった。実際に訴えられたことはなく、どちらかと言うと会話を楽しんでいる節さえあった。アランは気にせず後を続ける。
「いいか、絶対に白百合の前に出るな! あの機動力も時間制限がある。慎重に時間を掛けて潰していけ!」




