4章-4
敵を避けるように進路を取ったこともあり、奇しくも先の戦いと同じ、キャリバーの横っ腹に白百合の艦首が向けられる形となる。
キャリバーのレーザーがこちらをとらえた瞬間、白百合は数度方向を変える。レーザーは白百合の脇を通り抜けていった。
続いてキャリバーは機体を回転させ始めた。以前見せた二連続攻撃だ。
「避けずに打ち抜いてください」
艦長の声がブリッジに響く。体勢を崩しやすい回転中を狙う算段だ。
しかし二本のレーザーは虚空に消えていった。キャリバーは機体のロールを途中で停止し、白百合へ向け方向を変えていた。
正面から撃ち合えばエネルギーのチャージを終えていない白百合が不利となる。春子は溜まりきっていないレーザーを撃ち、牽制した。しかしキャリバーは臆することなく白百合に向き合う。思わず翠が進路を上方に修正し、その艦底をキャリバーが打ち抜く。
前回の戦闘で印象づけた二連射を囮にした見事な奇襲だった。
「くそっ」
「翠ちゃん、落ち着いて。南さんのおかげでいつもより調子良いしいけるよ」
苛立ち紛れに机を叩いた翠を春子が慰める。プロセッサの温度上昇は前回に比べ緩やかだった。
チャージを終えた白百合は方向転換し、再びキャリバーを正面にとらえる。キャリバーもこちらに左の砲門を向け、三度同じ展開となる。
二連射か、単発攻撃からの回避か。翠は迷い、苛立ち紛れに舌を鳴らす。
「一射目回避後に、二射後の予測位置に主砲撃ってください!」
ゆかりの指示が飛んだ。
一射目を機体右側に掠めながら回避した白百合は、電磁誘導により加速された大口径の弾丸を解き放った。
反対側のレーザー砲門を向けようとしていたキャリバーは下方へと急旋回を行い、回避する。キャリバーから放たれたレーザーはあらぬ方向へと消えていった。
その隙を見逃さず白百合は二本のレーザーを撃ち込んだ。
「やったよ!」
春子は珍しく大きな声をあげた。
左右のレーザーを撃ち尽くしたキャリバーは残る正面のレーザーを向けるべく、白百合へ向けて旋回する。翠はキャリバーの射線上に入らないよう僅かに左に方向を変える。タイミングを合わせて春子が見せかけだけのレーザーをキャリバーに向けて撃ち込むと、放たれた光線は濃紺の機体の左方へと消えていった。キャリバーは避ける白百合に攻撃することなくすれ違った。
特にすることもなくモニタを食い入るように見つめていた日向はキャリバーに違和感を抱いていた。しかしその正体は一向にわからない。
レールガンとレーザーを撃ち付くした白百合に対し、キャリバーは正面のレーザーを温存している。自然、逃げる白百合をキャリバーが追い回す形となった。
「エネルギーの供給を主砲に集中」
ゆかりが指示を出す。狙いの一撃を入れる絶好のタイミングなのだとブリッジの全員が悟った。しかし、ゆかりの指示にはどこか自信が無く声もいつもより小さい。
空は撃ち尽くしたレーザーへのエネルギー供給をカットした。モニタに表示されているレールガンのエネルギー量は僅かに勢いを上げながら溜まっていく。
打ち込まれるレーザーをギリギリのタイミングで回避すること2回、打ち込まれること1回。致命的とまではいかない程度に攻撃を受けながら逃げ惑う。
レールガンへチャージされたエネルギーが満タンに近くなった頃、ゆかりが迷いを吹き飛ばすように叫んだ。
「リミッター解除! 急減速の後、主砲発射!」
「リミッター解除しました」
減速時にキャリバーに当たらないよう、僅かに方向変えた後、白百合はその速度を一気に落とした。速度を落としたことにより主砲へのエネルギー供給も増加し、レールガンは発射可能となった。
キャリバーが現れるであろう位置に狙いを定め、春子がトリガを握り込む。
頭上を通り過ぎたキャリバーは方向を変えつつあった。モニタに映し出されたキャリバーはその後部ハッチが開いていることが視認できる。そこに見えるものはこちらに向けて発射されようとしている宇宙魚雷、いわゆる宇宙用ミサイルだった。
「右旋回!」
ゆかりがとっさに叫ぶと、翠は白百合の慣性制御性能を最大限に活かし右に進路を取る。もちろん放たれた質量弾はキャリバーには当たらず遙か彼方に消え去った。
避けきれず着弾した宇宙魚雷の衝撃が白百合の慣性制御のキャパシティを超え機体を揺らす。
彼女達の高潔さを表すように純白に輝いていた白百合は、その船体左側に痛々しいほどの焦げ跡を刻むこととなった。
「作戦を変更、回避行動に集中し体勢を立て直してください。リミッターの設定もお願いします」
先ほどの奇襲でプロセッサの素子温度は急激に上昇していた。一度冷却し、体勢を立て直す必要があったのだ。
「左レーザー損傷しています」
攻撃による損傷箇所を確認していた空が報告する。
切り札は出し尽くされ、素子温度は上がり、レーザーは片方しか残ってはいない。白百合の強みとも言える機動力と正面に特化した攻撃力が全て奪われてしまったのだ。
白百合のブリッジは絶望に満たされていた。




