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4章-1

 空は定常業務をこなしながら、時折思い出したようにレーダーを確認していた。レーダーに表示されている光点は、その殆どが白百合の後方へとただ流れていくだけであった。恐らく宇宙空間に無数に散らばっているデブリや隕石の類だろう。しかし、空はその中に一つがまっすぐに白百合へと向かっていることに気付いた。

 それ自体が赤外線や電磁波も発していることから、人工物と見て間違い無い。大きさはかなり大きい。空は光学観測に切り替え、その姿を確認した。

「艦長! 前方に未確認艦発見しました」

 大型モニタに艦影を映し出し、同じく定常業務を黙々と行っていたゆかりに報告する。

 ゆかりは無言で更なる情報を要求した。

「ゴフェル国の大型艦です。破損箇所から先日のキャリバーと思われます」

 画面には光学での観測結果とデータベースとの照合結果が表示されていた。装甲の傷や凹みといった破損箇所からほぼ百パーセントに近い確率で同一だと言う結果が表示されている。僅かながら偽装の可能性も残されていたが、沢山の古傷を抱える旧型艦の再現が難しいことを示すいくつもの9の文字がモニタに映し出された。

「二人を呼び戻してください。あと南さんも」

『木月さん、玉置さん、南さん、至急ブリッジに集合してください』

 艦内のスピーカーを通して空の声が響き渡る。

「艦の進路はどちらに向けましょうか?」

「十時方向、速度を落としつつ敵を迂回するように進路を取ってください。狙いはどうみても私たちの艦だと思いますが、ギリギリまで戦闘は避ける方針で行きます」

 まだ艦の性能が漏れていないため、勝算は十分にあったが、ゆかりは余計なリスクは負いたくなかった。白百合には民間人も乗っている。その分到着日時もずれ込むと予想されたが、元々余裕を持ったスケジュールが組まれている。

「南さんのおかげでまだこちらの性能はばれていませんし、十二分に勝てる見込みがあるんじゃないですか?」

 避けられる戦闘ならば避けた方が良い。それは空も同じ考えだった。しかし空は初めての生死を賭けた戦闘が起ころうとしていることに落ち着かず、後ろに座るゆかりに話しかけた。

「戦闘に絶対はありません。戦わないにこしたことはないです」

「結構慎重なんですね。それとも南さんを降ろしたくないからですか?」

「余計なリスクは負いたくないだけです。無駄口を叩いてないで仕事をしてください」

 ゆかりはいつになく厳しい口調で返した。


 日向たち三人がブリッジに到着すると、空から簡単に状況の説明があった。

 現れた敵艦は前回戦ったゴフェル国のキャリバーであった。出来る限り戦闘を避けたい白百合は、左に迂回するルートを取る。それに対し、キャリバーもルートを塞ぐように進路を変更したという。

 それでも幸いなことに向こうは旧型艦だ。最新艦が相手では白百合はひとたまりもなかったが、十分食いついていける性能だということは、前回の戦闘でわかっていた。更に連射型の艦に偽装した戦いのおかげで奥の手までは見せていない。

 ブリッジに並ぶゆかり達の顔には緊張が走ってはいるものの、まだどこか余裕のようなものが感じられた。

「艦長! 敵艦より通信入りました」

 日向はまた木箱の中か机の下に入れられるのだろうと半ば諦めた心地で構えていた。しかし翠に手を引かれカメラの死角へと移動させられただけだった。

 前回の戦闘とは異なり、現れたのはキャリバーの艦長アランだった。

 大型モニタに映る顔は、高性能なカメラにより皺の一つ一つまで鮮明に描き出されている。どうせ大きな画面で見るならば副艦長の綺麗な顔の方が見たかった。技術の進歩の代償とも言えるのだろうか。無精髭の長さまではっきりとわかった。

「二度目ということで、挨拶は省略させてもらう。既にわかっていると思うが、貴艦に戦闘を申し込む。もちろん受けて頂けるでしょうな?」

 先日のような冗談は一切無く、役職相応の口調で告げられた。

「嫌といっても攻撃するのでしょう」

「もちろんその通りだ」

 冷たい口調で肯定すると、一方的に通信が切断された。

 酷く事務的な会話だった。

 お互いこれから殺し合おうというのだ。いらぬ関わりは持ちたくないということなのだろう。冗談すら挟めない雰囲気に命をかけた戦闘であることを、日向ははっきりと実感させられた。


 ゆかりの立てた作戦は至極シンプルなものだった。

 艦の性能を活かしキャリバーの後ろを取り、至近距離から強烈な不可避の一撃を叩き込む。ただそれだけだった。

「相手にわざと後ろを取らせて、油断した瞬間を狙ってください。主砲の一撃で確実に沈めます」

「確かにリミッターを解除して急減速を行えば、一瞬で前後を入れ替えることは可能ですね。シンプルですが現状の戦力を考えると一番有効だと思います」

 空が同意する。

「でも後ろを取られるまではどうするんですか?」

「連射型の艦に偽装して戦います」

「また惑星の陰で減速するんだよね……」

 春子が眉を寄せ、心配そうに呟く。

「周囲に大きな惑星がないので、同じ戦法は使えません。レーザーの出力を落として連射してください」

「いや、それは着弾した時のエネルギー量でばれるんじゃないですか?」

「その通りです。だから絶対に当てないでください。出力百パーセントの攻撃を織り交ぜ、出力の低いものは自然に外してください」

「そんな無茶なこと出来ないです」

 春子が泣きそうな顔で訴えた。

「無茶でもやってください」

「そんなに当てるのが難しいんですか?」

 日向は率直な疑問をぶつけてみた。相手の艦の速度がいくら速いとはいえ、レーザーは光速で飛ぶのだから嘆くほど難しいことには思えなかった。現に前回の戦闘では白百合の放ったレーザーは何度も命中していた。

「いえ、難しいのは外す方なんです。光速で放たれたレーザーは撃った瞬間に当たるので、照準さえあっていれば絶対に当たります」

「当たらないって時は、トリガを握ってから実際にレーザーが発射されるまでの僅かな時間にどっちかの艦が動いた時です。あとよくあるのは緊張で手元が狂った時とかだけど、春子に限ってはまずありません」

 日向はシミュレーションルームでも同じことを言っていたのを思い出す。

「ただ照準を外すだけというのは絶対にやらないでください。向こうの艦長はかなり頭が切れると聞いています。下手に外すと勘付かれる可能性があります」

「つまりは木月さんが撃った瞬間に艦を動かすか、艦が動いた瞬間を狙って撃たなければならないんですね」

「私と春子の連携が鍵になるってわけだ」

「僕には無理だよ。外す練習なんてしたことないし」

 目に涙を貯めながら春子は必死に訴えた。

「連携は何度も練習しただろ。シミュレーションだとあんなにも息が合ってたじゃないか」

「そうですね、悔しいくらい阿吽の呼吸でした」

 空が同意する。

「でも……」

「大丈夫だ。もっと自分を信じろ」

「もてるわけないよ」

「じゃぁ私を信じろ。あれだけ一緒に練習したんだから私のことは信じられるだろう」

「……うん」

 春子は翠の言葉に自信なさそうに頷いた。

「じゃぁ大丈夫だ。私は春子が出来ると信じている」

「南さんは何か意見とかありますか? 前回は南さんのおかげで助かったので出来れば意見を聞きたいのですが」

「いえ何も、十分な作戦だと思います。」

 多少の不安は抱えているが、作戦は申し分ない。素人目にもこれ以上の作戦が出てこないように思えた。後はプロに任せるのが一番良いだろう。

「キャリバーと戦闘可能になるまで後何分ありますか?」

「お互いに速度を落としているので、まだ五十分は大丈夫です」

「それでは南さんは整備班の詰め所へ行ってください。脱出艇の用意をしてあります。操作方法など詳細は秋葉に聞いてください」

「時間も無いので急いだ方が良いですね」

「パラスで合流だな」

「はい、ではまた」

 近くの小惑星から定期便に乗って行くこととなるだろう。場合によってはまた白百合に拾って貰えるかもしれない。

 少し後ろ暗いところを感じながらも、日向はブリッジを後にした。


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