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宇宙戦艦白百合 ~働き蜂たちの諦念~  作者: 亜阿吾ゆう
2章 負けられない戦い
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2章-6

 火星から二万キロ離れた宇宙空間に二隻の戦艦が対峙していた。

 白亜に輝く真新しい機体に太陽の光を反射させたたずむ白百合。前面の攻撃に特化しており、減らした武装の分、一般的な戦闘艦よりも小さく軽い。

 約百キロ先で向かい合うのはキャリバー。濃紺の船体は現在の戦艦の基準と比べても大きく、小さな白百合の倍ほどもあった。艦としては二十年ほど前の旧型艦となるが、大きな船体の殆どを占める大型のジェネレータとブースターのおかげで最新艦と遜色のない速度を出すことが出来た。その反面小回りが効かず、砲門も前面と側面に計三門しかない。

 戦闘開始時刻とともにどちらとも無く加速する。

 軌道は直線を描き、すれ違い瞬間を合図に、二隻の戦闘艦は各々の思う方角へと弧を描く。近距離から戦闘を開始する時の慣習だった。

 白百合は相手の後方を取るべく、右に小さな弧を描き反転する。対するキャリバーも同じ方向に旋回しようとしていたが、正面からぶつかっては全面に武装の集中する白百合が有利となる。キャリバーはすぐ様、上方へと軌道を修正するとともに機体を左に傾けた。左の砲門が白百合に向けられたと同時にレーザーが照射される。

 撃ち切った左砲門の再チャージを待ちきれず、エネルギーの溜まっている右の砲門を向けるべく機体をそのまま反転させた。その間も進行方向を微調整し白百合を機体側面から逃さない。二射目を見事に打ち抜くとキャリバーは火星の陰へと離脱した。

「いきなり二発も食らわせてきたぞ」

 素人目に見ても戦力差、実力差は明らかだった。多少小回りが効いたところで前面にしか砲門を持たない白百合では攻撃することすら適わない。

「戦闘指揮はあの副艦長と見て問題ないですか?」

「そうですね、データベースを確認する限り向こうの艦長はもっと慎重です。本来なら一射目で離脱していたでしょう」

 ゆかりの問いに空が答えた。

「これなら挑発に乗ってくれるんじゃないか」

「でも、その前にもう一戦くらい乗ってあげないと怪しまれます。今のうちに距離をとって、狙い撃ちにしましょう」

 白百合は速度を落として火星が正面に来るように距離を取る。光速で飛び交うレーザーは距離により多少威力は減衰するが、命中率はさほど変わらない。むしろ、相手が回避のために移動しければいけない距離は多くなる。距離を取ることで火星の陰から出てきた機体を確実に攻撃する腹づもりだった。

 程なく飛び出してきた濃紺の機体を白百合はすぐ様打ち抜いた。しかし相手もお見通しなのだろう。側面を白百合に向けていた。お互いのレーザーが互いを撃ち抜き、相打ちとなる。しかし白百合には前方に二門のレーザーが装備されている。収支としては先ほどの被弾も含めてもマイナス一に押し戻した。

 だが白百合の攻撃はそれだけでは終わらない。ゆっくりと船首が相手を追う。速度では白百合の方が遅いため、余剰エネルギーが多く、先にレーザーのチャージを終えることが出来るのだった。キャリバーはより早い速度を出さなければ白百合の二門のレーザーからは逃れることが出来ない。

 レーザーへのチャージを終えた白百合が二発のレーザーを撃ち終わった頃、キャリバーは白百合へと艦首を向けた。被弾覚悟で近づいていくしか無かった。

 白百合も速度を上げつつ、正面から迎え撃つ。更に二発のレーザーを撃ち込むと同時にキャリバーのレーザーが白百合の白い船体を貫いた。

「これよりキャリバーへ勝負を仕掛けます。事前の作戦通りお願いします」

 艦長が言うと、白百合は火星を右に置くように僅かに進路を変える。速度はリミッター動作時の最高速まで達しようとしていた。

「レーザーへのエネルギー供給切断」

「主砲発射! キャリバーにも火星にも絶対に当てないでください」

 機体中心に据えられたレールガンが圧倒的な質量と破壊力を弾丸を発射する。解き放たれた暴力的な塊はあっけなく何も無い虚空を貫いた。

「リミッター解除。後は全て予定通りです」

 向かい合って進む白亜と濃紺が交差する。


 解除とともにモニタに表示されたプロセッサの温度はうなぎ登りに上昇していく

 白百合は火星の表面を撫でるように弧を描く。敵艦が見えなくなった頃、一気にその速度を減速させた。どの国の最新艦を連れてきたとしても、ここまでの急減速は出来ないだろう。慣性制御に優れた白百合だからこそ出来る芸当だった。

 艦の減速に合わせて、主砲に蓄えられているエネルギーは一気に上昇する。通常、最高速付近では主砲のチャージには五分ほどかかってしまう。しかし余剰エネルギーの豊富な低速ではチャージ時間は数秒しかかからないのだった。

 主砲のエネルギーがほぼ溜まり切ったところで、遅れた時間を取り戻すかのように速度を上げた。速度は進入時のものを大きく超える。

「この加速性能は凄いな」

 艦を操る翠が正直な感想を漏らす。

 日向は密かに胸を張る。その一点に性能を特化させ、制御プログラムもプロセッサも専用に作り直したのだ。後は多大な発熱に見合った冷却性能とデバッグ時間さえあればFN重工業の最高傑作だと言っても過言ではない。

 火星の陰から脱出する直前再び速度を下げ、進入時の速度へと調整する。

 ここまで二十秒程度。稼働時間内にはギリギリ収まる予定だ。

 火星の陰から抜ける直前に艦長が言う。

「キャリバーを補足次第、主砲を発射します。何度も言いますが、絶対にキャリバーには当てないでください」

「はい」

 春子は素直に返事を返した。

 表れたキャリバーの艦首は白百合に向いていた。先ほどのこちらの作戦と同様に、低速からレーザーを撃ち込もうというのだろう。

 しかしそんなことは問題とならなかった。本質的には微塵も攻撃力を持たないレーザーなど何一つ驚異ではない。精々、艦内の温度を上昇させる程度なのだ。

 春子がトリガーを握り混むと、レールガンが発射される。放たれた暴力的な金属の塊は、キャリバーの頭上を通り過ぎていった。予想外の攻撃にキャリバーはレーザーを撃つことすら忘れ、呆然と立ち尽くしていた。

 二度目の主砲発射までに要した時間は二十五秒ほどだった。高速で動いていた白百合を考えると圧倒的な性能と言える。キャリバーが持ち帰る情報としては十分だろう。誰がどう見ても申し分なく、勝敗の決した瞬間だ。

「艦長、敵主砲がこちらに向けられています」

 モニタ画面にはこちらに狙いをつけるキャリバーのレールガンが拡大されている。

「緊急回避!」

「ダメです。素子温度は既に限界のため動けません」

 その場にいた全員に緊張が走った。しかしキャリバーの狙いはすぐに外される。

「キャリバーより通信来ました。繋ぎます。南さんは机の下に伏せてください」

 通信と聞いた瞬間、日向はまた箱に詰め込まれるのかと警戒したが、机の下に隠れるだけでいいらしい。初めからそうして欲しかった。

 机の下でまた携帯端末を手渡される。画面写る男は、無精ひげを生やし、軍服の袖を二の腕までまくり上げている。開けられた胸元と相まって軍服にも関わらずだらしない印象が強い。顔に刻まれた皺や染みから五十代と推測できるが、血気溢れる表情は四十代に見えないことはない。野性味に溢れる山男といったところだろうか。

「あーこちらキャリバーの艦長アランだ。うちの若い者が熱くなりすぎて済まなかった。後でよくしかっておく」

「いえ、それについてはかまいません。それよりもこちらの勝ちと言うことでよろしいですね」

「あぁ見事な連射性能だった。あんなにぽんぽん主砲を撃たれたらこちらも適わんよ。戦闘指揮も見事なものだ。戦いだけ見たら誰もこんな若い美人のねーちゃんだとは思えねえなぁ」

「いえ、まだまだ若輩者です」

「そんな謙遜するこたぁねえだろう。あぁそうだ。うちの若輩者も……」

 戦闘が始まる前にも見た副艦長をカメラの前に引き寄せる。

「ほらオマエからも謝れ」

「熱くなり過ぎました。すいません。でも次は負けませんから」

 モニタに映し出された顔からは、ライバル心をむき出しにした敵意が臆面もなく放たれていた。

「いつもお前は一言余計なんだよ。まぁとにかくこちらの負けだ。じゃあな」

 言うべきことを言ってしまうと、一方的に通信が切断された。

 アランの横柄な口調からは余り軍人とは想像しがたく、むしろ親しみやすい雰囲気さえ滲み出ている。日向は、昔喫煙所でよく話した工場勤務のおじさんに少し似ていると感じていた。

 戦闘が終わったことを実感し、日向を含めたブリッジの誰もが安堵した。


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